たねまきコラム:全国オーガニック給食協議会研修会~有機農業技術の普及戦略を考えよう!

たねまきコラム

 2026年1月23日、「全国オーガニック給食協議会研修会・・・有機農業技術の普及戦略を考えよう!」が開催されました。主催は全国オーガニック給食協議会、場所は墨田区清澄庭園の中の大正記念館です。

 全国オーガニック給食フォーラムは、2年に1回開催されています。2022年には東京で、2024年は茨城県常陸大宮市で開催され、2026年には栃木県小山市で開催予定です。一方、「研修会」は、フォーラムとフォーラムの間の年にする課題別に掘り下げる研修会として位置付けられています。2年前(2024年)の第1回は、給食現場の栄養士さんと作り手の農家を繋ぐ仕組みに焦点を当てた「理想の給食を目指して」というテーマで、武蔵野市にて開催されました。

 今回は、有機農産物の供給不足を解消するため、有機農業技術の普及拡大に成功している先進地域の自治体、JA、個人の農家さんの事例を紹介しました。

 冒頭、農林水産省農産局農業環境対策課で有機農業を推進している担当者から、みどりの食料システム戦略の一環であるオーガニックビレッジの拡大連携は、2025(令和7)年度に154区町村になり、有機農業面積も2023(令和5)年の段階で上向き(0.8%)に推移しており、学校給食での利用拡大も278市町村に拡大している状況のご報告がありました。農林水産省の方は、研修会終了後の交流会まで残り、意見交換をされていました。

 今回の研修会では、かなり興味深い2つの基調講演がありました。
 1番目は、京都大学教授の秋津元輝氏で、現在、明治国際医療大学農学部準備室長として、医学部に有機農学部をつくるという画期的な試みで、2027年4月開設を目指して奔走中の方です。「草の根からの総合的食政策(フードポリシー)づくり:食から農をつなぐ」という題目で講演いただきました。

 明治国際医療大学は、東洋医学と西洋医学の融合を目指しており、医食同源の東洋医学の考え方から有機農業学部の必然性が生れました。新しい農学部には、3つの柱があり、①環境の持続可能性を担保する有機農業生産の推進、②土と身体の健康をつなぐ医療と連動した食研究と食品開発、③中山間地の再生を小規模ながら強い農業を軸に革新的に実現する、というものです。

 食べるものは、環境を考えて選択し、ウルトラ加工品(超加工食品)など不自然な食は回避し、自然界と人間の身体が微生物でつながれる食を選ぶことで、地域の総合的な政策がすべて整えられることになります。規模は地方自治体が基本単位で、ゴールは身体に良いものは環境にも社会にも良いという考え方が地域に定着することです。亀岡市の進行過程が事例として紹介されました。

 2番目の基調講演は、三木孝昭氏(公益財団法人自然農法国際研究開発センター)で、「現場と協働で進める水稲有機栽培の普及」という題目で講演いただきました。三木氏は自然農法センターで有機稲作の研究開発に長年携わり、技術員として全国の農家や自治体の指導に当たってきました。特に、有機稲作における最大の課題であった雑草対策を克服し、除草の必要性が低い技術を確立。これにより、慣行農家とほぼ同等の安定的な収量(9~10俵/1反)と良食味を両立させました。

 発表では、有機稲作は予防技術が重要であり、米ぬか除草技術1つをとっても、土づくりの期間の長短、秋から春にかけての排水や飽和の水対策の違い、健康な成苗や稚苗の違い、田植え時期や密度の違いなどによって、雑草対策の成否が分かれるポイントが示されました。また、圃場条件により排水、耕耘、代かき、施肥などの管理の方法が違うことなどが、一覧にまとめられ、抑草を成功させる技術として普遍化された発表でした。

 また、自然農法センターの技術指導員として各自治体の指導に当たるいくつかのパターンやスケジュールも用意され、自治体関係者にとって役に立つものでした。

 最後に、水稲有機栽培と予算執行時期のギャップが問題としてあげられました。有機稲作の作業は秋から始まるので、8月ごろからの学習会が必要なのに対し、予算執行は翌年4月以降であるので、予算が使えるころには、すでに有機稲作の成否の勝負がついている問題が示されました。

 続いて、全国から市役所職員やJA職員、県職員、農家などのそれぞれの立場から有機農業とオーガニック給食を推進した4つの事例発表がありました。

 事例紹介①は、佐藤一彦氏(おおいた有機農業研究会事務局長、元臼杵市役所職員)から「有機の里づくり ユネスコ食文化創造都市 臼杵」という題目で発表がありました。九州は有機農業が盛んな地域ですが、臼杵市も2000年から地産地消に取り組み「給食畑の野菜」をスタート、2010年からは有機農業推進室を設置、臼杵市土づくりセンターの設置、「ほんまもん農産物認証制度」を制定をしました。この制度は、「うすき夢堆肥」などの完熟堆肥で土づくりを行い、化学肥料・化学農薬等を使っていない圃場を臼杵市長が認証し、その圃場で生産される農産物を「ほんまもん農産物」と呼ぶものです。ほんまもん農産物のPRの場として、「ひゃくすた」という生産者主催のマルシェも毎月開催されています。
 2021年にオーガニックビレッジ宣言をし、「みどりの食料システム戦略交付金」を、「ほんまもん農産物」を使った学校給食の取り組みに充てました。具体的には、学校給食の集荷・配送実証試験を行い、その結果、農産物の鮮度保持のため、「保冷保存環境の整備」「集荷、出荷の組織的運営体制」を整える必要性があること、有機農業は、天候不順により農産物の生育収穫量に大きく影響するため、給食に合った企画の保持や安定供給に向けて「契約栽培」による年間受注体制への転換、詳細や農産物の企画や価格の設定が必要であることが分かったそうです。3年でなくなる交付金の使い方として、とても適切で有効なものだと思いました。

 事例紹介②は、柴山進氏(NPO法人アグリやさと代表、元JAやさと職員)で、「JAやさとの地域総合産直と有機農業」の題目で発表がありました。
 JAやさとは生協産直から食の安全安心を追求した農畜産物の生産を1975年から始めています。まず、ポストハーベストフリーでnon-GMO(非遺伝子組み換え)の飼料で育てた鶏の卵の産直から開始し、野菜、肉、米、果物、納豆なども次々と始まりました。1997年有機農業部会を設立。10名足らずでスタートし、2001年には全員が有機JAS認証を取得、有機野菜として販売、2024には有機米部門も作りました。
 また、新規就農研修農場「夢ファーム」を、JAが開設。有機農業を学びに八郷に移住してができるという世論形成にあります。
 最後に、オーガニック給食の実現は、現状の延長線上に描けるフォアキャスティングでは無理で、子どもたちが健康で幸せな人生を送る目標を高く掲げ(ムーンショット)、この明確な目標を達成する手段がオーガニック給食であるととらえ、実現への道筋を未来から遡ってシナリオ作成するべきであるという考えを述べられました。有機農業の分野で、いくつかの大きな目標を達成してきた西村氏のこの提案は、目標年度の設定と緻密な計画を本気で実行しない限り、ただ漫然と有機農業を推進しているだけでは到達できるものではないことを分からせてくれました。
きた研修生を、最初から野菜を作って出荷する実践的研修をしています。有機農業部会の役割として、生産者の経営を支える販売に力を入れ、多様な販売先を開拓しています。2025年現在有機農業部会員は33名で8割以上が新規参入者です。
 現在JAやさとの野菜販売額の3割以上は有機野菜になっています。2021年からは学校給食への食材提供を開始しています。2017年研修農場を石岡市にも開設。NPO法人アグリやさとが石岡市から委託を受けて運営にあたっています。
 この実践的有機農業研修のほかに、生協組合員や都会の小中高生の農林業体験の受け入れを毎年3500名規模で行っており、生産者の底辺を大きくすることが地域の農業の未来に繋がるという考えを大切にしておられます。

 事例紹介③は、元兵庫県職員の西村いつき氏(特定非営利活動法人兵庫農漁村社会研究所理事、兵庫県立大学大学院地域資源マネジメント研究科)で、「兵庫県における有機農業推進の取り組み状況~コウノトリが教えてくれたもの~」という題目で発表されました。
 西村氏は、1980年代から兵庫県の農業改良普及員として働き、当時珍しかった学校給食への地域食材の提供や、農産物直売所開設の推進など、「地域には地域を救う地域資源がある」を信条に農業振興に尽力しました。2000年代には、「コウノトリを育む農法」を確立し、県北部全域に普及。同時に複数の有機農業教室を支援し、有機農業の理解を推進。2020年代には、有機農業目標面積の1000ヘクタールを達成しました。
 西村氏は、1971年に母乳からBHCが検出され、二度と再び母乳を汚すような食べ物を作らないと決意した有機農業の原点、天地有機「天地に機(理)あり」からブレず、また恩師である保田茂先生の保田語録「環境が汚れたら食べ物が汚れる、食べ物が汚れたら身体が汚れる、そして…一番被害を受けるのは未来を担う子どもである」を軸に、有機農業教室を県内各地で行っています。7つの有機農業塾や教室や学校などの拠点から30の組織が誕生し、それぞれが学習会を開催しています。ここでは農薬の実態やどんな害があるのか、コウノトリや田んぼの生きものたちの生態、コウノトリ農法の農業技術などの座学や体験学習が行われています。
 この有機農業教室の役割は、①さまざまな組織(行政、生協、企業、農業団体、NPOなどの市民団体)と連携し、有機農業の理解者や実践者の育成すること、②誰でも簡単に低コストで美味しいものができる有機農業技術の指導者の養成、③大自然の法則に基づいて有機農業をすれば、農薬や化学肥料は不要で美味しくてきれいな農産物
 事例紹介④は、千葉康伸氏(次代の農と食をつくる会代表理事)で、「新しくて楽しい農業の一つのカタチ~子供たちの笑顔のために~」という題目で発表されました。
 千葉氏は30歳でサラリーマンを辞めて農業の世界へ入り、高知県土佐自然塾、山下農園で2年間研修したのち、2011年に神奈川県で新規就農し、15年経て7haを経営、2022年から法人化(株)農楽代表取締役に就任。「五感を研ぎ澄まし、感性を磨け」という山下一穂氏からの教えを実践。露地野菜を約50品目栽培し、県内の生協、イオン、ビオセボン、小田原市内のレストランなど地産地消を意識した販売が主。農業を子どもたちの憧れの職業に!と願い、研修生の育成に最大限注力しています。
 (株)農楽の経営方針は、地産地消、適期適地適作を基本にお客さまに旬をお届けするサービス業という心構えで、栽培・出荷レベルを落とさずキレイで美味しい野菜を提供すること、緑肥主体の土づくりを心掛けること、そのうえで、最大の目的は、新たな担い手を育てる場所と経営の両立を図り、仲間を増やし、次世代の農業を楽しい環境にすることです。
 研修は2年間が基本で、すべて農園の仕事をやりながら主体的に学びます。そのため、毎日朝昼晩のミーティングをし、新人にはわからないことがあってもすべてを共有し現場で覚えてもらいます。
 出荷表はホワイトボードに出荷先、野菜ごとにまとめ、集計表を作って必要量収穫します。作業表もホワイトボードに一元管理し、2年目の研修スタッフが段取りし、今日明日中→1週間後→今月中など優先順位をつけて組み立てます。有機JASに必要な作業記録も、毎日の終礼で報告しあい、その場で記録します。
 全圃場の把握をしていくことで、経営観を養います。作付け会議ボードもホワイトボードで管理し、まずは、研修スタッフが作付け計画を立て、各圃場の現状や出荷先への出荷量を元に、野菜ごとの必要面積、土壌分析値を踏まえて計画を立てます。最後に千葉氏がチェックし、助言したのち、みんなで作付け計画を完成させます。現場をすべて共有しての2年間の学びで独り立ちできる人に育てようとする本気度は頼もしい限りです。

 もう一つの取り組み「一般社団法人 次代の農と食をつくる会」は、コンサルティング事業で、自治体、産地、法人それぞれが抱える課題を整理し、目標にすべきゴールに向けて、環境分析、戦略立案、施策立案による全体構築を行うことで、課題解決への最適解を導きます。必要とあらば、専門家を派遣します。支援地域には、岩手県遠野市、新潟県新発田市、神奈川県相模原市、千葉県いすみ市、茨城県笠間市などの自治体や、個人の農園などもあります。
 千葉氏は、「私ができることは教わった資源循環型の農業を人にていねいに伝えていくこと、今ある大切な農地を次の世代にみんなでつないでいく意識をつくっていくこと、どのような社会環境になっても畑や田んぼがあればみんな生きていけると思えるような場所と手法が確立され、農地の大切さを全国民が再認識していけるようにしていきたい。農業はみんなを楽しくしてくれ、子どもたちがかっこいいと思える職業になること、これこそが私の人生における使命であると思っている」と締めくくりました。

 最後の登壇者は、山下快(一般社団法人農山漁村文化協会)で、『みんなの有機農業技術大事典』が昨年3月に発刊された記念に、「有機農業技術大事典に込めた想い」をお話していただきました。
 長年「現代農業」の編集部にいた山下快氏ですが、昨年発刊された『みんなの有機農業技術大事典』の企画・編集を担当しました。そのいちばんの思いは、全国に約6万9000戸ある有機農家の63%は65歳以上で、そのうち7割は後継者がいないという状況下、新規就農者の約20%が有機農業に取り組んでおり、有機農業技術の伝承が待ったなしだという危機意識があったということです。また農薬は効きにくくなったり、登録されにくくなっており、数が減っているという現実と、輸入に頼る化学肥料も高騰し、状況は有機農業の方向を指しているということです。
 本書は、官より民が先を行く有機農業技術の集大成事業です。本書の核をなす、全国の農家事例、執筆者、取材対象者は150名以上であり、国の研究機関である農研機構よりも圧倒的に先を行くのは農家の有機農業技術であり、その集大成であるという本書は農文協の誇りです。また本書には、有機農業には、さまざまな農法や流儀がありますが、耕すか耕さないか、固定種かF1品種か、動物性堆肥を使うか使わないか、JAS認定農薬を使うか否か、その違いを乗り越えたいと考えました。もっと言えば、無農薬や無化学肥料だけが有機農業ではありません。循環型で持続可能で生物多様性で脱炭素を目指す、すべての農家が有機的につながる本にしたいという思いを「みんなの有機農業技術」という書名に込めたということです。
 この大事典は共通技術編と、作物別編の2巻になっており、各巻1100頁44000円ですが、売れないのではないかという心配はすぐ払しょくされ、ほぼ完売になっています。意外なことに、慣行農家の方で買い求める方が多いそうです。日本の農業の底上げに貢献しているかもしれません。

 最後に登壇者全員によるパネルディスカッションが、NPO法人メダカのがっこうの菅野奈穂さんのファシリテーターで行われました。今回の発表者は行政やJAの職員などが多く、その立場で農薬を問題にしたり、有機農業を推進することが難しくなかったかという質問に対し、そこに苦労を感じているというより、当然進めるべきものだから行動への迷いがないお答えで、信念の強さと熱い心を感じました。
 この研修会は、全国オーガニック給食協議会の会員が優先なので、自治体担当者やJA担当者の参加が多いのが特徴です。この会の企画や資料作りを担当している者としては、協議会会員をもっと増やして、もっと有機農業とオーガニック給食の推進に貢献したいと思います。

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