ゲノム編集トマト

日本政府は、2018年に「統合イノベーション計画」を閣議決定しました。これを受けてつくられた「バイオ戦略2019」で、ゲノム編集技術応用食品(ゲノム編集食品)の「社会実装」を具体的に進めることが掲げられました。「社会実装」とは、イノベーションによって「生み出された新たな価値を普及・定着させる」ことだと日本政府は定義しています。そして、2019年10月からゲノム編集食品の取り扱いが解禁されました。

ゲノム編集食品を生産・販売する際には、所轄省庁(2024年3月31日までは厚生労働省/現在は消費者庁)に任意の「届出」をすることになっています。

2020年12月に日本で最初に届出されたゲノム編集食品が、「高GABAトマト(品種名:シシリアンルージュハイギャバ)」です。このトマトは日本で初のゲノム編集食品というだけでなく、「加工せず生で食べることができる、世界初のゲノム編集食品」として海外でも注目されました。

その後、ゲノム編集作物(植物)は、別品種のトマト、トウモロコシ、ジャガイモなどの届出が行われていますが、いずれも上市(販売)は未定となっています(2025年1月25日現在)。

品種・品目 届出者 届出年月日 上市年月
グルタミン酸脱炭酸酵素遺伝子の一部を改変しGABA含有量を高めたトマト(#87-17) サナテックライフサイエンス株式会社(旧サナテックシード株式会社) 20201211 20219
ワキシートウモロコシ コルテバ・アグリサイエンス日本株式会社 2023320 上市未定
グルタミン酸脱炭酸酵素遺伝子の一部を改変しGABA含有量を高めたトマト(#206-4) サナテックライフサイエンス株式会社(旧サナテックシード株式会社) 2023727 市未定
高小型塊茎数ジャガイモ品種JA36 J.R.Simplot Company 20241016 上市未定

※出典:消費者庁・ゲノム編集技術応用食品及び添加物の食品衛生上の取扱要領に基づき届出された食品及び添加物一覧

どんなトマトなの?

「シシリアンルージュハイギャバ」は、ゲノム編集によってGABA(γ-アミノ酪酸/「ギャバ」と読む)というアミノ酸が多く含まれるように遺伝子操作されたミニトマトです。

GABAは神経伝達物質の一種で、ヒトの生体内に多く存在しています。野菜や果物などに含まれていて、これらを食べることで体内に摂取できます。GABAにはさまざまな効果があるといわれていますが、シシリアンルージュハイギャバは「血圧を下げる機能」「精神的ストレスを緩和する機能」「睡眠の質の向上に役立つ機能」「肌の健康を守るのを助ける機能」などについて、機能性表示食品の届出もされています。

「シシリアンルージュハイギャバ」を開発したのはベンチャー企業のサナテックシード社(2023年12月25日に「サナテックライフサイエンス」と社名変更)で、販売は同社の親会社のパイオニアエコサイエンス社(2023年12月25日に「サナテックシード」と社名変更)が行っています。

何が問題なの?

食の安全性:シシリアンルージュハイギャバは、ゲノム編集トマト「#87-17」(「シシリアンルージュCF」という品種のトマトにCRISPR/Cas9を用いたゲノム編集技術で「グルタミン酸脱炭酸酵素遺伝子」の一部を破壊したGABA高蓄積トマト)と、非ゲノム編集の「シシリアンルージュCF」を交配させて栽培されたF1種です。
#87-17にはCRISPR/Cas9由来の外来遺伝子が含まれているため、そのままではカルタヘナ法の規制対象となり、「遺伝子組み換え作物(GMO)」となってしまいます。そこで非ゲノム編集トマトと戻し交配させることで、外来遺伝子の部分を除去したとされています。
また、厚生労働省に提出された届出書類には、ヒトの健康に悪影響を及ぼす新たなアレルゲンや既知の毒性は見つからなかったと書かれています。しかし、それらのデータのほとんどは非公開であるため、検証することはできません。また、政府機関や第三者機関による安全審査も行われてはいません。

交雑の危険性:シシリアンルージュハイギャバの青果販売が始まる前のプロモーションとして、家庭菜園用として全国4,000人に苗の無償配布が行われました。これは非ゲノム編集のトマトとの交雑の危険性を、全国に拡げたことになります。
また、商品として栽培されている圃場が、どのような環境なのか不安もあります。近隣に非ゲノム編集トマトの栽培圃場があった場合、知らないうちに交雑が起こってるかもしれません。

小学校などへの無償配布:サナテックシード(現・サナテックライフサイエンス)は、小学校や福祉施設にも無償で苗の提供を行うと発表しました。OKシードプロジェクトでは、この事実をウェブサイトやサポーター向けのメールニュースなどで周知し、無償配布に反対するオンライン署名を行いました。署名結果はオンライン記者会見で公開して、全国の都道府県知事・教育長宛には「ゲノム編集トマトの苗を受け取らないで」という要望書を送付しました。その後この運動は、全国のさまざまな団体から、各地の自治体などに要望書が提出されています。このような市民の声を反映してか、小学校や福祉施設へのゲノム編集トマト苗の無償配布はまだ確認されていません(2025年1月26日現在)。

どこで生産しているの?

どこで生産されているのかは、公式には公表されていません。
シシリアンルージュハイギャバの発売当初はパッケージに「熊本県産」と表示されていて、熊本県菊陽町付近の契約農家の圃場で栽培されているだろうと推測されていました。現地の生協団体などが圃場の見学を申し込みましたが、断られたそうです。

機能性表示食品の届出書類では、2023年10月の変更届で、熊本県に加えて茨城県、栃木県、千葉県、長野県が追加され、さらに2024年6月には秋田県も追加されました。
実際に東京都内のスーパーで「千葉県産」と表示されたパッケージが目撃されています。しかし、具体的にどこで、どのように栽培されているのかは不明です。

どこで流通しているの?

シシリアンルージュハイギャバの青果の販売は、2021年9月からはじまりました。当初は販売会社のパイオニアエコサイセンス(現・サナテックシード)のオンラインショップでのみ販売されていました。
しかし、2023年夏ころから、関東圏の一部のスーパーでの店頭販売がはじまりました。2024年には九州地方での店頭販売も確認されています。

販売が確認されたスーパーなどには、日本消費者連盟と遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーンが公開質問状を送付しています。一部のスーパーでは、こうした質問状を受け取ったことを機にゲノム編集トマトの販売を中止するところもあるようです。しかし、質問状にも回答せず、販売をつづけている店舗もあります。

販売時の問題として、商品棚でのポップやプライスカードによるミスリードがあります。前述のようにシシリアンルージュハイギャバは機能性表示食品として届出を行っているため、店頭ではそのことが強調された宣伝が行われています。一方、ゲノム編集であることはパッケージに小さく表示されていますが、商品棚のポップなどにはその文字は見当たりません。そのため、店頭でこのゲノム編集トマトをはじめて見た人は、ゲノム編集食品だとは認識しないまま、「なんとなく健康によさそうだ」と思って購入する人がほとんどではないでしょうか。

ゲノム編集トマトの販売実態調査にご協力を!

OKシードプロジェクトでは、ゲノム編集トマトの販売状況の調査を行っています。

もしゲノム編集トマトの販売を見かけたら、その情報を下記のフォームからお知らせください。

また、その際、パッケージに表示されている「産地」や、販売棚のプライスカードやポップに「ゲノム編集」であることがわかるように書かれていたかどうかもご確認ください。

情報提供フォーム:ゲノム編集トマト商品の販売状況調査

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