新しいゲノム編集食品を販売しようとする場合、どのような手続きを取ればよいのでしょうか。いまの日本では、ゲノム編集食品には安全審査や環境影響評価などは義務化されていないので、無許可・無審査でゲノム編集食品を販売することは可能です。しかし、日本政府は任意ではあるものの「届け出」することを推奨しているので、事業者は消費者庁に「事前相談」をして届け出が可能かどうかを確認後、「届け出」を行っています。消費者庁の届け出された案件は、すべて無審査で受理されます。
2025年9月2日に消費者庁の食品衛生基準審議会新開発食品調査部会遺伝子組換え食品等調査会が開催されましたが、事前に公開された議題には「非公開案件:ゲノム編集技術応用食品等の個別品目について」という項目がありました。新しいゲノム編集食品の届け出直前の確認作業が行われるときに、このような議題があります。非公開の理由は「開発企業の知的財産等が開示され特定のものに不当な利益若しくは不利益をもたらすおそれがあるため」と説明されています。
非公開で開催されたため、この時点ではどのようなゲノム編集食品が届け出されるのかまったくわかりませんでしたが、後日公開された資料「ゲノム編集技術応用食品等の確認結果」によって、そのゲノム編集食品の種類と届け出した事業者が判明しました。
新しいゲノム編集食品は黄色いトマト
この調査会の数日後に届け出されたゲノム編集食品は、「グルタミン酸脱炭酸酵素遺伝子の一部を改変しGABA含有量を高めたトマト(#71a-33)」。つまりGABA成分が多く含まれるように遺伝子を改変したトマトで、届け出事業者はサナテックライフサイエンス株式会社です。
サナテックライフサイエンス社(旧社名:サナテックシード)は、2021年12月に日本で初めてゲノム編集食品を届け出した筑波大学発のベンチャー企業で、ゲノム編集ミニトマト「シシリアンルージュハイギャバ」と、ゲノム編集中玉トマト(2023年7月届け出/上市未定)に続いて3品種めのゲノム編集トマトの届け出となります。この3品種はいずれも高GABA、つまりGABA成分をたくさん含むように遺伝子改変したものです。
サナテックライフサイエンス社は2025年9月18日に公開したプレスリリース「ゲノム編集技術により開発したGABA含有量を高めたトマトの3例目の届出提出について」で、この「#71a-33」のものと思われる写真を公開しています。CRISPER/Cas9(クリスパー・キャスナイン)」という酵素を用いて、2021年12月に届け出をした1例目の「シシリアンルージュハイギャバ」と同じ方法でゲノム編集をしたということです。プレスリリースには「黄色の生食用のトマトであり、既存のハイギャバトマトとは異なる彩り、食感をお楽しみいただけます」と記載されていますが、一方で、販売計画は未定とのことなので、すぐに販売が始まるわけではないようです。
なお、消費者庁や農林水産省に届け出された書類によると、「#71a-33」は、「黄色トマトの従来品種の親系統NC1を改変した」とあります。NC1は、ノースカロライナ州立大学で開発された品種のようです(※1)。
拡がっているゲノム編集トマトの栽培地域
2021年12月に届け出されたゲノム編集トマト「シシリアンルージュハイギャバ」は、発売当初は開発元のサナテックライフサイエンスの親会社であるパイオニアエコサイエンス社のECサイト(オンラインショップ)でのみ販売されていました(パイオニアエコサイエンス社は、2024年1月1日に社名「サナテックシード株式会社」に変更されています)。
ゲノム編集トマト「シシリアンルージュハイギャバ」は、2022年11月に機能性表示食品としての届け出が受理されました(シシリアンルージュハイギャバの機能性についてはこちらをご覧ください)。
機能性表示食品の届け出書類には、表示する機能性などの情報とともに産地情報などが記載されています。その書類では、届け出当初の産地は「熊本県」だけでした。しかし、2023年10月の変更届で、熊本県に加えて茨城県、栃木県、千葉県、長野県が追加され、さらに2024年6月には秋田県が、2025年7月には山梨県、広島県、長崎県、宮崎県が追加されました。ここに記載されている地域のすべてでゲノム編集トマト「シシリアンルージュハイギャバ」が生産されているのかどうかは確認できていませんが、生産地が拡大していることは事実のようです。
前述の通り、当初はECサイトでのみ販売されていたゲノム編集トマト「シシリアンルージュハイギャバ」は、2023年夏頃から関東圏の一部のスーパーの店頭での販売も始まりました。日本消費者連盟などの申し入れで販売を注したスーパーもありますが、いまだに販売を続けている店舗もあります。また青果だけでなく、2022年5月からは加工食品「シシリアンルージュハイギャバピューレー」が、2025年4月からは乾燥加工した「ハイギャバ®ドライトマト」の販売も始まりました。しずれも機能性表示食品の届け出が行われているため、健康食品として購入する消費者がいるのでしょう。
日本ベンチャー企業のゲノム編集トマトが米国でも承認
現在、日本国内で届け出されているゲノム編集トマトは、前述のサナテックライフサイエンス社のものだけですが、名古屋大学発のベンチャー企業「グランドグリーン」は米国農務省(USDA)の審査で「規制対象外である」との確認が取れたと公表しています。これは、実際に米国での販売を視野に入れてのことなのか、技術的な問題点がないことを確認するためのものなのかは不明ですが、今後も注視していく必要があると思います。
(原野好正/OKシードプロジェクト副事務局長)
参照記事
ゲノム編集トマト
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