ゲノム編集養殖魚への取り組み

 日本ではゲノム編集を使った生物に関しては2020年12月トマト(シシリアンルージュハイギャバ)に続き、2021年9月にマダイ、同10月にトラフグが関係官庁に届け出され、その生産が始まることになりました。遺伝子組み換えサーモンが米国で作られていますが、ゲノム編集された魚を現在生産している国は世界で日本だけです。
 2024年9月現在、魚の分野では以下の3品種5系統が生産されています。

生物の名称 届け出日 使用開始年月 販売開始年月
マダイ(E189-E90系統) 2021年9月17日 2021年9月 2021年10月
マダイ(E361-E90系統、従来品種-B224系統) 2022年12月6日 2022年12月 2023年1月
トラフグ(4D-4D系統) 2022年12月6日 2021年10月 2021年11月
トラフグ(従来系統-4D系統) 2022年12月6日 2022年12月 2023年1月
ヒラメ(8D系統) 2023年12月25日 2023年12月 2024年4月

出典:農水省消費者庁

どんな魚なの?

 現在、ゲノム編集されたマダイ、トラフグ、ヒラメがリージョナルフィッシュ株式会社(以下、リージョナルフィッシュ社)によって生産・販売されています。これらは京都大学、近畿大学によって開発されました。マダイは筋肉の発達しすぎを止めるミオスタチン遺伝子がゲノム編集によって一部の塩基が欠損しており、トラフグとヒラメは食欲を抑制するレプチン受容体の遺伝子の一部が欠損しています。

 ミオスタチン遺伝子は筋肉の付きすぎを止めます。ミオスタチン遺伝子の一部を壊されたマダイはこの機能を失うため、筋肉の成長が止まらずに2割ほど肉厚になるとされています。一方、マダイやヒラメはレプチン受容体遺伝子の一部が壊されています。そのため、この遺伝子を壊された魚は、満腹になった時にも食欲が抑制されないため食べ続けます。その結果、ゲノム編集トラフグは1.9倍に大きくなるとされています。

何が問題なの?

 生物は自身の成長をコントロールする機能を遺伝子レベルで持っています。遺伝子を破壊してしまうことは、その遺伝子が持っていた機能を止めてしまうことになります。しかし、遺伝子は1つの機能だけを担っているわけではありません。たとえばレプチン受容体遺伝子は食欲を抑えるだけでなく、環境の変化に対応するために重要な役割を果たしています。たとえば水温が急に変わったら心拍数を上げて、血圧を高くし、体の体温を調整できるようにすることもできるようになります。しかし、この遺伝子を失えば、環境の変化にも対応する力が奪われることになります。

 この他、レプチン受容体の遺伝子は生殖機能や甲状腺ホルモン、免疫の活性化、骨の維持にも関わっています。食欲を抑えさせないためだけにレプチン受容体遺伝子を破壊することはこれらの機能にも影響を与えてしまうことになります。
 このような形でゲノム編集された生物は自らの生命をコントロールする機能を破壊されてしまうことになります。
 必要以上に筋肉をつけすぎたマダイは背骨や尾びれの成長に問題が生じ、筋肉がたくさんあるにも関わらず、通常のマダイよりも短く、ゆっくりとしか泳ぐことができません。
 マダイやヒラメは必要もないのに食べ続けるため、肥満化し、血糖値の異常、肝臓機能に問題が発生していることが想定されます。

 これらは魚が健康が維持できる環境で飼育されているとは言い難く、ドイツの研究所Testbiotechはこの養殖は拷問養殖であり、動物福祉法がしっかりしている国では不可能なものだとして非難しています¹

安全なの?

 政府も開発した大学やリージョナルフィッシュ社もこの魚を食べても安全であるかどうか、実証する実験を行っていません。日本政府は「遺伝子が壊れることは自然界でも起きる、これらの魚は遺伝子が壊れただけなので、自然の魚と変わらないはずだ、自然と変わらないものは安全試験もしなくていい」という推論のみで、実際の検証なしに流通していいことにしてしまいました。つまり安全性は確認されないままゲノム編集養殖魚が流通していることになります。

 こうした魚には自然界の魚にはないタンパク質が生まれている可能性もあり、それを食べることが果たして、問題ないか、まだまったくわかりません。

どこで生産しているの?

 京都大学や近畿大学で開発し、京都府宮津市の元関西電力敷地内に作られた養殖場で養殖されているとされています。しかし、最近は稚魚が日本各地に運ばれて、各地でゲノム編集魚が養殖されていることがわかってきました。群馬県の養殖業者がリージョナルフィッシュ社から400匹の稚魚を育てたところ、20匹を残して死んでしまったと新聞で報道されています²

 ゲノム編集生物の栽培・飼育は現在は認可も届け出も不要とされているため、日本のどこでゲノム編集魚が養殖されているか、行政機関もつかんでいないと思われます。そのため、どこで養殖しているのか、わからないのが現実です。
 万一、事故が起きた場合、これでは対応できません。ゲノム編集魚を養殖する養殖場に情報公開を義務付けることは最低限必要です。

どこで流通しているの?

 ゲノム編集された魚は現在、リージョナルフィッシュ社のオンラインショップで販売されています³。ただ、高価ですし、大きな売上があるとは思われません。

 この他、京都府宮津市がふるさと納税の返礼品としてゲノム編集トラフグを採用しています。現地の市民グループ、「麦のね宙ふねっとワーク」がふるさと納税にゲノム編集の魚はふさわしくないとして、反対する署名を1万筆以上集め、2023年2月に宮津市長に提出しました。宮津市議会にもふるさと納税の返礼品から削除を求める請願が提出され、市議会でも議論になりましたが、残念ながら市議会では十分な議論もなく審議が終わってしまい、まだふるさと納税でのゲノム編集トラフグの返礼品はまだ続いています

 これ以外にも、新宿高島屋で2023年7月に開かれた期間限定のフェアなどで販売されたり、リージョナルフィッシュ社の本社が入っている京都大学の生協で、ゲノム編集マダイを使った「京大バーガー」が売られたりしたことがありました。新聞でも都内のレストランでこのリージョナルフィッシュ社の魚が使われたと報道されたことがありましたが、現在はどうなっているのか詳しいことはわかっていません。

生産・流通は広がっているの?

 値段や消費者にアピールする魅力に欠けていることもあって、とても市場での売れ筋になっているとは思われず、大きな利益も上げられていないことでしょう。しかし、リージョナルフィッシュ社は政府から大きな支援金(表参照)を受けており、それを元手に事業を拡大しており、社員数も増やしています。
 2023年にはジェトロの支援のもとで、リージョナルフィッシュ社はインドネシアの企業と提携して、インドネシアに事業を広げることも計画しましたが、インドネシアの漁業組合の反対で、現地企業が離脱したため、とん挫しています。しかし、最近、リージョナルフィッシュ社は経済産業省の支援の下でタイ企業と提携して事業を進めていると報道されています

 研究・開発から国立大学などの支援を受け、リージョナルフィッシュ社の関連事業に公的資金が使われています。その金額はここ数年で、数十億円が使われていると考えられますが詳細はわかりません。この金額は全国で有機農業を進めるためのオーガニックビレッジ宣言をした129地方自治体への助成を大きく超える金額となります。リージョナルフィッシュ社に対して、市民団体は情報公開を求めていますが、リージョナルフィッシュ社は応じようとしていません。市民がその実態を知ることができない一民間企業の支援に、全国の地方自治体への支援を超える支援が使われるということが果たして妥当なことでしょうか? 

これまでに判明したリージョナルフィッシュ社に関連する支援金 戻る

名目 金額
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 研究開発型スタートアップ支援事業(2020年度〜22年度)
 2020年度 研究開発型スタートアップ支援事業 2500万円
 2021年度 研究開発型スタートアップ支援事業 4500万円
 2022年度 地域の技術シーズ等を活用した研究開発型スタートアップ支援事業 2億円
農研機構スタートアップ総合支援プログラム(SBIR支援、2021)2021年度(令和3年度)スタートアップ総合支援事業費 3000万円
2020年株式会社農林漁業成長産業化支援機構(A-FIVE)サブファンド出資 約2億円
研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)産学共同(本格型)(リージョナルフィッシュ株式会社、広島大学、筑波大学、近畿大学) 約3億6500万円を上限とした助成
経済産業省/中小企業庁 成長型中小企業等研究開発支援事業(リージョナルフィッシュ株式会社、京都大学、東京海洋大学) 3カ年で9,750万円を上限とした助成
経済産業省官民によるインパクトスタートアップ育成支援プログラム 「J-Startup Impact」 ?
JETRO 日ASEANにおけるアジアDX促進事業 2000万円
農林水産省中小企業イノベーション創出推進事業(フェーズ3基金) 27億6683万円

公開の場での議論が必要

 日本やアジアの食生活にも大きく関わる魚をどうしていくべきか、果たしてゲノム編集養殖魚は私たちが望むべきものなのか、もっと市民が参加した議論が必要ではないでしょうか。そして、日本の漁業が厳しい時代を迎える中、ゲノム編集魚養殖に日本政府の大きな公金をつぎ込むことが果たして妥当かどうか、国会でも議論が必要でしょう。

 OKシードプロジェクトを含む多くの市民団体がリージョナルフィッシュ社に対して情報公開と対話を求め続けていますが、残念ながらリージョナルフィッシュ社はそれに応じていません。

 OKシードプロジェクトでは、今後も、こうした議論を関心を持つ市民のみなさん、他の市民団体と共にリージョナルフィッシュ社や政府関係省庁に情報公開を求め、あるべき漁業のあり方について議論していきます。

参考情報

 ゲノム編集を食品に応用することの問題性、ゲノム編集した生物を環境に放出することの問題性については、科学的なデータに基づき、問題を明らかにしたブックレット『ゲノム編集ー神話と現実』をぜひご活用ください。PDFファイルは無料でダウンロードできます。若干、専門的な言葉が多く出ていますが、科学者との連携のもと、欧州議会の会派が委託した専門家が執筆した英文のブックレットを日本語訳したものです。

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