農林水産省はカドミウム汚染対策として重イオンビームによって育種したカドミウム低吸収性品種を今後の日本の主流の品種としていく方針を2018年に示しました。秋田県は2025年から従来の「あきたこまち」から重イオンビームで育種した「コシヒカリ環1号」との交配によって作られた「あきたこまちR」へ全量転換する計画ですが、この品種の導入は全国への拡大が計画されており、秋田県のみの問題に留まりません。
遺伝子の一部の塩基が破壊されている点でこの品種開発方法にはゲノム編集に類似した懸念があり、また、この品種導入のみでは、肝心の問題であるカドミウムなどの汚染解決につながらないため、OKシードプロジェクトとしてその導入について見解を発表することにしました(この見解の解説は後日、追加する予定です)。印刷版 (PDF 2.2MB) 英語版/Eng
1.放射線育種及び重イオンビーム利用の放射線育種について
- 【ガンマ線育種の終了という事実】農水省は放射線育種が戦後長く、世界各地で行われてきたとしていますが、これまで放射線育種で使われてきたガンマ線照射施設は世界では実質的にほぼ閉鎖されており、日本でも2022年度に施設が閉鎖され、この技術は基本的に終わっています。日本ではガンマ線照射による放射線育種は後代交配種を除き、新しい品種はもう出てきません。長年にわたり公的資金をつぎ込んだ事業を閉鎖するに至った経緯を政府は何も説明していません。
- 【重イオンビームの問題点】今回の「コシヒカリ環1号」を作り出したのは長く使われてきたガンマ線による放射線照射ではなく、重イオンビーム照射という新しい技術です。重イオンビーム育種はガンマ線よりも一点に集中させることで、ガンマ線による放射線照射よりもはるかに高い破壊力を遺伝子に対して与えます。この技術は日本以外ではほとんど実績がなく、また安全性の科学的検証もなく、それを、あたかも世界で広く、長く実績があるものであるかのように説明するのは虚偽であり、受け入れることはできません。重イオンビームの食品への利用に反対します。
- 【有機認証の問題】放射線(特に重イオンビーム)を使用して育種した品種のコメを「有機」認証で容認することに反対します。
2.生産者や消費者の選ぶ権利について
- 重イオンビーム育種品種への全量転換は生産者や消費者の選択権を奪うものであり、反対します。地方自治体は重イオンビーム育種でない種籾の提供を続けるべきです。
- 「コシヒカリ環1号」を「コシヒカリ」、「あきたこまちR」を「あきたこまち」として流通させれば、消費者は従来の「コシヒカリ」や「あきたこまち」と区別できなくなり、選ぶことができなくなります。重イオンビーム育種の品種を従来の品種名で流通させることに反対します。
また、現状では種苗に放射線育種の表示義務がなく、生産者も基本的な情報を得ることができません。重イオンビーム育種の種子を流通させるのであれば最低限、その育種方法について表示義務を課すべきです。 - 「コシヒカリ環1号」系品種はマンガン吸収に関わる遺伝子が損なわれており、ごま葉枯れ病や収量不足に陥りやすくなっています。そのような品種への全量切り替えは生産者に不要な不利益を強制することになるという点からも容認できません。
- 「コシヒカリ環1号」系品種は遺伝子特許がかけられていますが、種子に特許を認めることには世界で強い批判があります。特に、種を超えた食の支配につながる遺伝子特許には、さらに強い批判があります。自家採種も許可されず、農業のあり方に大きな制約をかける可能性が高くなります。主食である米に遺伝子特許品種を導入することに強く反対します。
3.地域のカドミウム・ヒ素汚染問題の長期的・総合的ロードマップを
- カドミウムやヒ素などの汚染源、汚染者の特定とさらなる汚染防止、汚染実態調査に基づく汚染の除去と環境の回復、そして被害地域の住民の健康調査を行い、補償を行うことが必要です。その事業の負担は汚染者負担原則に基づき、汚染責任企業が負い、国・地方自治体は被害地域の住民がその権利回復できるように支援する義務があることを再確認すべきです。
- 「コシヒカリ環1号」系品種の品種許諾料、特許許諾料を農家に課すことは汚染者負担原則に反するので反対します。
- 「コシヒカリ環1号」系の品種の導入はカドミウム・ヒ素の含まれる率が低い米を実現することはできても、土壌や水系のカドミウム・ヒ素汚染改善にはならず、1970年の農用地土壌汚染防止法の改定を含めて総合的な土壌汚染対策政策が必要です。
- 政府・地方自治体は、汚染のより少ない地域の未来のために、汚染低減に向けた長期的・総合的ロードマップを描き、その計画を当該地域住民、生産者の参加を得て、策定する必要があります。
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