【現役農大生の食の視座】第5回:私の「食の視座」とこれからの「食の視座」

食の安全

現役農大生の食のコラム連載、今回は中尾さんの「食の視座」がどのようにして培われてきたのか、その経緯と、「呆食」時代においての深刻な危機感について語っていただきました。
日本の種苗や食料システムに関する法律の改悪が目前に迫る今、私たち消費者がどのようにしてこれからの「食の視座」を高めていけるのか、そのヒントを探ります。

食への価値観の変化

写真1:自炊でよく作る煮物

 新年度が始まり、一人暮らしを始めた人も多いのではないでしょうか。私は昨年から大学進学を機に東京で一人暮らしを始めましたが、一人暮らしで往々にして問題になるのが自炊についてではないでしょうか。

 今回は、この連載の第1回と少し被るかもしれませんが、私が食べ物に興味を持ち、一人暮らしの大学生には似つかわしくないほどに食事にこだわるようになった経緯を紹介したいと思います。実は昔、私は加工食品、清涼飲料水を人並みに消費し、食品の産地など気にもせず、ましてや添加物や残留農薬などには一切の知識もないごく一般的な現代の学生でした。

 私が小学生高学年の頃、長い名前を暗記することがマイブームでした(今もそのブームは続いていますが)。例えば、小学校に置かれていたハンドソープの裏側に書いてあった成分、「塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリルアミド共重合体」を覚えてみたり、保健の授業で出てきたダニにかまれることで発症する「重症熱性血小板減少症候群」を友人と一緒に暗記したりしていました。今でもそれらを覚えているのでたいしたものだと思います。小学校の技術の時間にパソコンを使った調べ学習をしていた時、合成着色料が石油からできていて、それらを私たちは常時摂取しているということを知りました。ただ、その時はまだ実感はなく、それよりも合成着色料の名前を覚えようとしていました。そして家に帰って食べるおやつにそれらが入っていることすらわかりませんでした。

 中学生になって、給食についてくる個包装のマヨネーズやジャム、ドレッシングの成分表に関心を持つようになりました。最初の疑問は、「なぜ食べ物によくわからない名前のものが入っているのか」ということでした。例えばジャムの「増粘多糖類」。ドレッシングの「加工でんぷん」。なぜ私たちは「増粘多糖類」や「加工でんぷん」を食べているの? 子どもながらに不思議でしたが、知識がなく、それらがどのようなものなのかまったくわかりませんでした。ある時、給食の付属のふりかけに、「グルタミン酸ナトリウム不使用」という表示があるのを見つけました。「不使用」と書くということは、「グルタミン酸ナトリウム」というものが良くないものなのかと直感的に理解しました。ちなみにグルタミン酸ナトリウムは、うまみ成分として知られていますが、日本で使用されるグルタミン酸ナトリウムの大半は中国からの輸入品で、「調味料(アミノ酸等)」と表示されます。安全性の懸念としては、揚げるなどの高温調理をした際にメイラード反応を起こし、これによって生成される複雑な物質の安全性は検証されていないといいます(*1)。また、製造方法として、バクテリアの遺伝子を組み換えてグルタミン酸を吐き出す菌を作り出し、そのバクテリアが作ったグルタミン酸を処理してグルタミン酸ナトリウムを製造している、というので驚きです(*2)。つまり、製造工程において使用されるバクテリアに遺伝子組み換え技術が用いられているということになります。グルタミン酸ナトリウムを含む食品を食べ続けると濃い味に慣れてしまうので、そのことも注意が必要です。

 今自分の目の前にある食品の原材料表示の意味が分からないことは、私たちの選ぶ権利を侵害しているのだという意識を持つのはもう少し後になってからですが、少しずつ、わけのわからない原材料表示に関心を持ち始め、スーパーの食品の裏側をチェックする癖がつき始めました。やがて「人工甘味料は免疫機能を破壊する」、「合成着色料は子どもの多動と関係があるのではないか」などの情報を知り、なるべく避けようと考えていたところでした。しかし、重大な問題がありました。それは、添加物を避けるには何から始めればよいのかわからないことと、添加物に関する確固たる情報源が身近にないということでした。

脱清涼飲料水からの食事改善

 私の人生が変わったのは、中学2年生の秋くらいでした。何をきっかけにその決断をしたのか正確に覚えていませんが、清涼飲料水には良くない添加物と大量の砂糖が入っていることを説明したうえで、私は家族に向かってとある宣言をしました。

「今日から清涼飲料水をやめるよ」

 親は喜んでくれました。「自分の体を大事にできるのが一番の親孝行だ」と。清涼飲料水には異性化糖、人工甘味料や合成着色料だけでなく、大量の砂糖が入っています。砂糖の大量摂取によって、代謝のために大量のビタミンが使われ、体が酸性になるのを防ぐためカルシウムが使われます。骨折する子どもが増えていると聞きますが、こうした砂糖の過剰摂取により骨が弱くなっているのかもしれません。さらには血中ブドウ糖濃度の急増に対し、インスリンの分泌が多くなり逆に血糖値を下げすぎてしまうともいわれています。これにより怒りやすくなったり、無気力状態になったりするともいわれています (*3)。近年増加する暴力、殺人事件、学生の無気力などには、こうした砂糖の過剰摂取も関係しているのではないかという考察は、荒唐無稽とはいえないのではないでしょうか。

 ちなみに、先ほど砂糖の過剰摂取でカルシウムが使われ骨が弱くなるという指摘をしましたが、単にカルシウムを多く摂ればよいわけではなさそうです。『100年歯がなくならない生き方』(*4)によると、カルシウムは体を石灰化させ、腎臓に溜まれば腎臓結石に、脳にたまればアルツハイマーになるなどの弊害ももたらすといいます。さらに、カルシウムの過剰摂取は「異所性石灰化」を引き起こし、骨からカルシウムが溶け出し、逆に骨折しやすくなるともいわれています(*5)。「健康法」は極めて多様で、何が正しいのかわからなくなることがあります。私が心がけていることは、好き嫌いせずにいろいろなものをほどほどに食べてみることです。こうすることで、自分は今何を欲しているのかわかるようになります。

 当然、清涼飲料水をやめるだけでは、食品添加物を減らしたとはいえません。しかし、清涼飲料水をやめることで顕著な変化が私に起こり始めていました。例えば、家では怒りっぽかった性格が別人のように落ち着きを取り戻したり、身の回りの整理整頓がほとんどできなかったのに徐々に片付けができるようになったりと、目に見えた改善が確認され、親も驚いていました。もちろん清涼飲料水をやめたことだけが原因だと決めつけたいわけではありませんが、気持ちが軽くなった気がしたのです。

私の食のこだわり

 高校生の頃、私は今の自分の原点ともいえる本に出合いました。それが、小薮浩二郎著『新装版 コンビニ&スーパーの食品添加物は死も招く』(2022)です。今まで不思議だった食品添加物の裏側について書かれており、食い入るように読みました。同書で初めて知ることは山ほどありました。食品添加物だけでなくトランス脂肪酸の規制に関して日本は甘すぎること、食品添加物は複合摂取のリスクが調べられていないことなど、これまでの常識が180度変わるような出会いでした。同時に、食品添加物を避けると食べるものがなくなってしまうのではという不安も湧き上がってきました。自分があまりに食に関して無知で無関心だったことに気づかされ、生きていくには不可欠な食についてもっと知ろうと思うようになりました。

 私は極端なところがあり、やると言ったらすぐに実行しようとします。しかし即座に自然食品に変えようとしたところでうまくいきません。そして金銭的に両親に依存している学生であれば、親の同意が不可欠だと思います。その点私は恵まれており、母は「一緒に食べ物を見直そう」と言って協力してくれました。いつも口にしている食べ物の原材料表示を見ると、避けるべき添加物の多さに唖然としました。こんなものを食べていたのかと。しかし、食品添加物を避けると食べるものがなくなるという不安は、食品添加物はもちろん遺伝子組み換え原料や残留農薬に対して厳しい基準を持った宅配生協や近所の自然食品店の存在のおかげで解消し、無添加でも、無添加だからこそこんなにおいしいものがあるのだと知り、食べることと食べ物を選ぶことが大好きになりました。

 私の自炊の際のこだわりは、まず調理器具にあります。高校生の頃から愛用しているフライパンは、PFAS(有機フッ素化合物)を一切使用しないことで有名で、テフロンコーティングしていないのでコーティングがはがれることによる買い替えの必要もなく、安心して長く使えるのが気に入っているポイントです。写真2のフライパンは、味噌汁用や煮物用に使っています。もうひとつ愛用している写真3のフライパンもPFASや鉛、カドミウム等の物質を一切使用しておらず、安心して使えます。他にもまな板は本榧(ほんかや)のものを使っています。定期的なヤスリ掛けなど手入れは大変ですが、料理を楽しむうえでは欠かせません。

 そもそも、食べることは生きることなのに、小学校や中学校の家庭科では食品添加物や遺伝子組み換え原料のことなどについて詳しく教わっていません。高校でも同様に深堀りした授業はなく、今の若者が食の当事者意識を持てない理由がよくわかります。「知らぬが仏」なのでしょうか。

 大学進学や就職などで親元を離れ、食事を自分で用意するとなった時、食べ物の選び方がわからないというのであれば、「自立」とは言い難いと思います。テクノロジーの台頭で食が「食」でなくなろうとしている今の時代を生きる子どもたちに、最低限度の食の知識を持たせてあげる教育が、私の経験上行われていないことに強い疑問があります。食育とは、残さず食べることのみを意味するのでしょうか。食べ物についてだけでなく、「消費は投票」だと思います。これからの日本の農業を消費者として支えていくならば、何かの宣伝に扇動されて揺らぐような弱い「一票」ではなく、確固たる理由をもって「一票」を投じることができる若い世代をもっと増やすべきではないでしょうか。

 とはいっても、皆が私のように恵まれた環境にいるはずがありません。金銭的理由などで十分にこだわった食事ができないという人もいるでしょう。どんな人でも望めばまっとうな食べ物を得られる社会は、どうしたら実現するのだろうかと考えています。いつか、そんな社会にするために何か貢献できればと思います。

 

中身のわからない食がもたらす社会の歪み

 最近関心を持っているテーマは、超加工食品(UPF)の消費を促す社会的構造の存在です。超加工食品とは、『不自然な食卓』(*6)によると、

―プラスチックで包装され、一般的な家庭のキッチンでごく普通に見られない材料が少なくともひとつ入っていれば、それはUPFである

としています。日本でも貧困が深刻化しています。加えて仕事などの極度の多忙化も問題になっています。それに伴って食べるという行為に制限がかかり、どうしても安価で手軽な超加工食品に頼らざるを得ないという背景もあると思います。『100年歯がなくならない生き方』(*4)では、超加工食品は、人々が繰り返し消費するように設計されており、それは物理的加工だけでなく、企業が金を引き出すために欠かせない、「欺瞞なマーケテイング、おためごかしの訴訟、秘密のロビー活動、不正な研究」などの「間接的な加工」も施していると論じています。この論述は極めて示唆的で、現代の食の問題を包括的かつ的確に述べていると思います。

 食べ物の中身がわからないということは、こうした企業による巧妙な搾取にも有利に働き、私たちの知る権利は失われていくことにつながるでしょう。よく、「自然食品店で買い物をして自炊だなんて意識が高い」と言われますが、こうした抵抗(もちろん、自然食品店での買い物と自炊は趣味としてやっていますが)をしていかないと、企業の利益になるものを食べさせられて私たちは健康を害し、企業は潤う社会になってしまうという危機感があります。さらに畳みかけるように、私たちの食料主権が脅かされる法改悪が迫っているといいます。

 ここで踏み込むのは避けますが、「重要品種の育成及びその種苗の生産の振興に関する法律案」や「種苗法の一部を改正する法律案」、「主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律の一部を改正する法律案」など、日本の種苗や食料システムに関する法律の改悪が目前に迫っているというのです。例えば農水省は2030年までに35の重要品種を開発する目標を立てているといいます。重要品種とは高温耐性や高収量などで、これらを全国に普及するとしています(日本農業新聞2026年3月18日)。

 しかしおかしなことに、地域に根差したタネを守っていこうということは、考慮に入れられていません。本当に重要なのは、画一的な性質を持った品種を全国に普及することではなく、地域にあったタネを守ることなのではないでしょうか。しかし、それをしないで、加えて「重要品種」の開発にはゲノム編集や重イオンビーム放射線育種も利用されると思われ、タネのブラックボックス化が進みそうです。タネのブラックボックス化は食のブラックボックス化です。私たちの食べるものを私たちで決める権利を否定する法改正には断固反対したいと思います。

 このように、私たちは学校教育のなかで食について深く教わらず、食の当事者意識が薄れ、飽食を超えた「呆食」の時代に食べ物の出所や原材料には関心を持てず、値札だけ見てレジに運び、胃に納めているといえると思います。そんな人たちに、例えば「ゲノム編集とはこうだ」と話を始めても受け入れられないでしょう。実際に、話が通じません。何か呪文を唱えているようだと言われます。まずは教育から変え、「食の当事者性」を実感してもらわなければ、この負の連鎖は打ち切れないと思います。私たちがこういった食べ物に起こる様々な変化を見つめ、どうしていくべきなのかを考える「食の視座」を養うことが重要なのではないでしょうか。将来的に私は、その負の連鎖を断ち切るようなことをしたいと思います。これからの「食の視座」を養うために何ができるか、大学生活のなかで熟考していきたいと思います。

 


参考文献

*1:小薮浩二郎監修『食品添加物小辞典』笑がお書房(2025)

*2:安部司著『食品の裏側2 実態編』東洋経済新報社(初版2014)

*3:鈴木雅子著『その食事ではキレる子になる』河出書房新社(初版1998)

*4:小峰一雄著『100年歯がなくならない生き方』三笠書房(2022)

*5:小峰一雄著『免疫力が上がるアルカリ体質になる食べ方』ユサブル(初版2022)

*6:クリス・ヴァン・トゥレケン著『不自然な食卓』早川書房(2024)

[中尾晃大 プロフィール]
徳島県出身、東京農業大学在学。
好きな言葉:「食は命」
好きな食べ物:らっかせい
趣味:スニーカー鑑賞、読書、散歩
特に嫌いな添加物:加工でんぷん
人生を変えてくれた本:『新装版 コンビニ&スーパーの食品添加物は死も招く』(2022)小薮浩二郎著
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