OKシードプロジェクト2022年11月8日の学習会の報告 「細胞農業ってなに?―その実態と問題点を考える」 講師 天笠啓祐さん

フードテック

OKシードプロジェクト2022年11月8日の学習会の報告
「細胞農業ってなに?―その実態と問題点を考える」 講師 天笠啓祐さん

タイトルに挙げた「細胞農業」ですが、これは「培養肉」や「代替肉」「大豆ミート」などで話題になっているものですが、「細胞農業」としたのは、2022年6⽉13⽇、⾃⺠党が「細胞農業によるサステナブル社会推進議員連盟」を設⽴(⽢利明前幹事⻑、⾚澤亮正議員、松野博⼀内閣官房⻑官が共同代表)、推進する動きが出ているからです。厚労省は、2022年6⽉19⽇には、厚労省が規制の是⾮を判断するための研究班を設置しているとのことです。
「大豆ミート」と言うと、日本ではかなり以前から菜食者向けに、肉ではなく大豆を使ったハンバーグなどの食品が出回っていましたが、現在の大豆ミート製品は、そうした素朴なものではありません。遺伝子組換えによる酵素を使って肉汁を思わせる血液のような色を出したり、細胞から培養した人造肉などであり、ハイテク、バイテクにより、実験室でつくり出されるものです。次元の違う「食品」とも言えない「食品」であり、「農業」ともいえない代物です。
そこでOKシードプロジェクトでは、天笠啓祐さん(科学ジャーナリスト、遺伝子組み換えいらない!キャンペーン、日本消費者連盟)をOKシードプロジェクト学習会にお招きし、「細胞農業ってなに?―その実態と問題点を考える」をテーマにお話を伺いました。その要点を報告します。
文責・久保田裕子

 「細胞農業ってなに?―その実態と問題点を考える」―天笠啓祐さんの講演より

1.「細胞農業」とは何?
「フードテック」といわれる、食品のハイテク化があります。食と農の分野での“イノベーション戦略”として国も推進しているもので、「みどりの食料システム戦略」もその一つです。
「フードテック」の狙いは、⾷料⽣産の仕組み⾃体を変えること。
これは、従来の⽣産の中⼼である農漁業から、⼤企業による⾷料⽣産へと食料システムを変えてしまおうというのが狙いです。
「フードテック」推進の⼤義名分として、気候危機や人口爆発による食料危機などの⾷料問題の解決、SDGs対応、脱炭素化、アニマルウェルフェアなどが挙げられています。ビーガン・ベジタリアン(菜食主義者)の広がりにも対応すると喧伝されています。これは、本当でしょうか?

2.細胞培養肉(cell cultured meat)とは?
細胞培養肉とは、動物や⿂などの細胞を培養して⽣産する「⼈⼯⾁」のことです。代替⾁は「フェイクミート」、培養⾁は「クリーンミート」と呼ばれます。これは、農産物だけでなく、漁業、畜産、⽪⾰などの⼯業製品にまで範囲を拡⼤しています。
培養肉はどのように作るか?
筋⾁、⾎管、脂肪など複数の細胞を培養して増殖させ、それらを一体化させます。使用する細胞はふつう幹細胞、そしてiPS細胞(⼈⼯多能性幹細胞)も使われます。
幹細胞とは、元となる細胞のことで、例えば、血を作る細胞は造血幹細胞、そこから白血球とか赤血球とか血小板とか、血清とかいろんな血液に関わる細胞が作られていきます。牛肉をつくるには、⽜の胎仔の⾎清を使用します。それが細胞分裂しやすいからです。ただし、細胞を培養すると平⾯で広がり⽴体にはなりません。ミンチにはなってもステーキにはならないので、⽴体構造(3Dプリンターの活⽤など)にしたり、⾷品添加物で味、色、香りなどを組み合わせることで、牛肉のような味に仕立てていきます。

3 培養肉は安全か?  必要か?
培養肉製造はバイオテクノロジーに依存するもので、遺伝⼦組み換え・ゲノム編集、iPS細胞・ES細胞、細胞培養を使用します。⼤企業による先端技術を⽤いた⾷料⽣産 であり、これまでの農業や漁業を破壊する可能性があります。⽜の胎仔(たいじ)の⾎清を使⽤することなども問題があります。
⾷の安全性の基本は、長い⾷経験です。人々がずっと⾷べ続けて安全なものが安全といえます。この点からみると培養肉は、⾷経験がないまったく新しい⾷品であり、安全性は確認されていません。少なくとも動物実験などによる⼗分な安全性の確認が必要です。

4 政府や食品企業は、前のめり
◆日本の業界は?
このように安全性への保障もないにもかかわらず、政府も企業もこれを最先端技術であるとして推進しています。たとえば、日本細胞農業研究会、⽇本細胞農業協会、培養⾷料研究会などが設⽴されています。科学技術振興研究機構(JST)による「未来社会創造事業」の本格研究、宇宙航空研究開発機構(JAXA)による宇宙食の研究も始まり、また、丸⼤⾷品、⽇本ハム、伊藤ハムなど⼤⼿⾷品メーカーが相次いで参⼊しています。
フード&ライフカンパニーズは⽶国のベンチャー企業ブルーナル社と提携、細胞培養でのマグロなどのすしネタ開発に乗り出しています。

◆海外の政府や企業は?
国としてはシンガポールが先⾏、ほとんど規制もなく進められています。
企業では⽶国やイスラエルの企業が先⾏しています。
たとえば、米国のアップサイド・フーズ社(以前のメンフィス・ミーツ社)は、多額の資⾦調達を⾏い、事業展開を進めています。甲殻類の培養⾁を開発していた企業を買収、⽔産物にまで範囲を広げています。
フューチャー・ミート・テクノロジーズ社(イスラエル)は、2021年6⽉に、1⽇に500kgの培養⾁を⽣産する能⼒を持つ⼯場を完成しています。同じくイスラエルのアレフ・ファームズ社は、イスラエルに⼤規模な⼯場を建設中で、シンガポールにも工場を建設する予定です。
EUは、新規⾷品に対して慎重な態度をとっていますが、2021年12⽉、13社によって欧州細胞農業団体を発⾜させています。⼈間の細胞の培養⾁も作られているとのことです。

◆その他の世界の企業
オランダ、ミータブル社(iPS細胞を⽤いる)
イスラエル、ミートテック社(3Dプリンターを活⽤)
イスラエル、スーパーミート社(鶏の幹細胞利⽤、培養チキン)
⽶国、ミッション・バームス社(⼈⼯ベーコンを開発)
その他、独イノセント・ミート社、英ハイアー・ステーキス社など多数の企業が参⼊、また、培養材料に取り組む企業としては、アイスランドORFジェンティクス社(成⻑因⼦の開発)など多数あります。

5 「細胞農業」の問題点
このように、培養肉など「細胞農業」に取り組むのは大企業やベンチャー企業などであり、スーパーに並ぶ⾷品を変えることにつながり、新たな企業による⾷の⽀配を示唆しています。既存の農家や漁業者からさらに仕事を奪うものとなります。
⾷の安全についても、「フェイクミート」(代替肉)である「インポッシブル・バーガー」(Impossible Foods)に使われる遺伝子組換え大豆や遺伝子組換えで作った大豆レグヘモグロビン(血液の色をした添加物)が問題になりました。培養肉についても安全性が問題になってくるでしょう。そしてまた、⾷料を特許などの知的財産権で囲い込むことになることも問題になるでしょう。
培養肉など「細胞農業」は、未来の食をつくる、食料危機や環境問題を救うとさかんに宣伝されていますが、これが「未来食」か、と言われたら、そうではなく「ジャンクフード」だと思います。むしろ、工場で細胞培養をつくるというとんでもない方向に食が持っていかれるということです。また、企業は特許をもっていますから、企業が権利を囲い込むことによって途上国の食料危機を引き起こしかねない。企業が食料を支配するという懸念がある。そういう大きな問題を「細胞農業」はもっているのです。

6 質疑応答や感想、まとめ
◆工業的農業で問題が起きているのに、なぜ、さらに人工的な技術で解決しようとするのか、また、なぜ多くの人がそれを解決になると思うのか疑問。自然の力を回復させることが解決になることに気づかないといけないと思います。
◆本来の農業漁業を取り戻したいという、そういう感想を強く持ちました。
◆どうすればこのような技術が危険であることや、企業が人の命を支配する危険性を広く伝えることができるのでしょうか。

天笠:私たち一人ひとりが、頑張っていく。OKシートプロジェのような取り組みも一人ひとり増やしていく。草の根運動はまどろっこしいですけれども、一人、二人と広がっていけば、大きな流れになる。世界中で同じような取り組みをしている人たちがたくさんいます。そういう意味では仲間はたくさんいるということです。やはり、少しずつでも広げていくしかないと思いますね。

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<OKシードプロジェクトから>
「細胞農業」、「フードテック」の方向性は、これまでの食料生産の仕組みを根底から変えようとするものであり、食料を実験室の延長上の工場で生産し、さらには技術と特許をもった⼤企業による支配につながる懸念があります。食料危機や気候危機、環境問題などに対するスマートな対応策のような装いをとり、メディアもそれに乗った情報を流すので、うっかりしているとそれが最先端で、多くの危機の解決策のように思わされてしまう恐れがあります。しかし、ゲノム編集食品と同様、神話(つくりばなし)の煙幕の影に「真実」はおし隠されようとしています。そのことを私たちは知らせ、対案である本来の土に根ざし、自然の生態系を活かし生かされる農林漁業をますます強めていかなくてはなりません。今後とも、こうした「細胞農業」「培養肉」などの動きを注視していきましょう。

各地、各団体などで、ぜひ、このような学習会を開き、この問題を広めていきましょう。

以上
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