「あきたこまちR」をめぐる国際対話・報告

お知らせ
 OKシードプロジェクトでは、重イオンビームによって遺伝子の一部を損なった品種である「コシヒカリ環1号」や「あきたこまちR」問題について2023年から取り組んできました。
 秋田県は2025年に従来の「あきたこまち」を「あきたこまちR」全量転換しています(一部の農家が従来の「あきたこまち」の生産を継続。一方、秋田県以外の「あきたこまち」は従来の「あきたこまち」)。この「あきたこまちR」は「あきたこまち」として売られており、消費者は選ぶことができません。農水省はさらに「あきたこまちR」を有機栽培すれば有機農産物としても認めるとしています。
 遺伝子改変した品種を有機農産物とするのはおかしい、と私たちは訴えてきました。この訴えに対して、ドイツに本部のある国際有機農業運動連盟(IFOAM Organic International)は、日本で生産・流通が進む「あきたこまちR」について、国際的な有機農業の原則に適合しないとして、海外12カ国13団体と連名で、日本の関係機関宛に書簡を送付しました(11月25日)。
 この書簡を受け、IFOAMジャパン主催による「あきたこまちR」をめぐる国際対話ウェビナーが2026年2月27日に開かれました。IFOAM書簡の背景を共有し、日本と国際社会の認識や制度の違いを整理し、有機農業の原則、消費者の選択権、市場の透明性、国際的整合性などの観点から議論し、対立点の確認から、継続する対話・協議の可能性を探るためです。
 そのウェビナーからIFOAMジャパン理事長徳江倫明とくえ みちあきさん、OKシードプロジェクト事務局長の印鑰智哉いんやく ともや、IFOAM Seed Platform(IFOAMでタネの問題を扱うプロジェクト)代表のDavidディビッド・ Gouldグールドさんのお話を紹介します。

「あきたこまちR」をめぐる国際対話
重イオンビーム育種の米「あきたこまちR」は有機農業と相容れるのか
ーIFOAMが日本に宛てた「書簡」を手がかりに有機農業を考えるー

あきたこまちRと予防原則:徳江 倫明さん

はじめに:本日のセミナーの趣旨

徳江さん 徳江さん[/caption] どうもおはようございます。今回主催しております、IFOAM ジャパン理事長の徳江倫明です。
 本日は朝のお忙しい時間にもかかわらず、300名以上、海外16カ国35名の方にご参加いただいております。この問題がこれから海外にも波及していく、そんな大きなテーマになることを予感しています。
 さっそく、今日のテーマと趣旨をご説明します。今回の会議は対話形式をとります。IFOAMから日本の農水大臣、秋田県知事、農研機構理事長宛てに出した書簡に基づき、皆様に事実関係をきちんとお伝えしていくことが本日の目的です。

議論のベースとなる4つの論点

 本日の主たる論点は以下の4つに整理されます。

  • 重イオンビーム育種の国際的な位置づけ 日本発の技術であるこの育種方法が、国際的に見て「放射線育種」なのか「遺伝子組み換え」なのか、その捉え方を整理します。
  • 消費者への情報提供と表示の透明性 本来は「あきたこまちR」という品種であるにもかかわらず、すべて「あきたこまち」に統一して表示するという秋田県と農水省の方針についてです。
  • 有機JAS制度との整合性 この技術を有機認証の対象にすることに対し、海外の見解も含めて大きな疑問点が出ています。
  • 日本及び海外の有機農業関係者への影響 この日本発の技術が世界に伝わることで、将来的に日本の米を輸出する際などに、混乱が起きるのではないかという懸念です。

 本日は、IFOAMの立場や、この問題に3年ほど関わってこられたOKシードプロジェクトの印鑰氏の見解を共有し、事実関係や科学的見解をもとに、有機農業に関する共通理解を作り出していきたいと考えています。

「予防の原則」と水俣病の教訓

 これらの問題を考える上で、私が一番良いアプローチだと考えているのが「予防の原則」です。
 予防の原則とは、「化学物質や新技術などが環境に重大かつ不可逆的な影響を及ぼす恐れがある場合、科学的な因果関係が十分に証明されていなくても規制措置を可能にする」という考え方です。1992年にリオデジャネイロで行われた国連環境開発会議の第15原則で世界的確認がなされ、現在世界はこの考え方で動いています。
 この原則ができた背景には、日本における水俣病の経験の世界的共有があります。1956年に公式発見されながら、国が原因を認めるまでに12年もかかり、その間に被害が拡大して多くの死者・患者を出しました。この惨状が1972年の国連環境会議(ストックホルム)で伝えられたことで、「原因がはっきりしていなくても、被害拡大の恐れがあるならまず止めて検証する」という認識が深まったのです。
 日本の公害が与えた教訓は以下の4つです。

  1. 因果関係の完全証明を待つと被害が拡大する。
  2. 慢性・低濃度・世代間影響は後戻りできない。
  3. 企業や行政は不確実性を盾にして対策を止めない。
  4. 被害者救済より予防の方が圧倒的に合理的である。

 私たちが現在抱えているPFAS(有機フッ素化合物)、内分泌攪乱物質、遺伝子組み換え、マイクロプラスチック、ネオニコチノイド系農薬、そして今回の新ゲノム技術といった問題も、まさにこの「予防の原則」の立場から対応すべきだと考えています。

有機農業の役割と今後の対話に向けて

 有機農業とは、そもそもこの予防の原則をもとにした考え方です。自然生態系や自然循環に沿った仕組みを維持し、余計なものは使わない。人間の知恵であり、ある意味で「サンクチュアリー(聖域)」のようなものかもしれません。
 何か問題が起こったとき、常にみんなが立ち戻れる場所として有機農業を位置づけ、残し、広げていく。今回の話の中で、そうした共通認識を持てればと思っております。
 最後に、今後の展開についてお知らせします。本日の事実確認と共通認識を踏まえ、今度は3月26日(9時半〜12時半)に「円卓会議」を開催します。当事者である農水省と農研機構にも入っていただき(※秋田県の参加は現在確認中)、発言者を絞り込んで中身の濃い議論を行い、良い結論を出していきたいと考えています。こちらもぜひ、多くの方にご参加いただきたいです。

重イオンビーム育種の問題点:印鑰 智哉

 「あきたこまちR」をめぐる国際対話ということで、「あきたこまちR」とはどんなものであるか、どんな問題が懸念されているか、話をさせていただきます。
 あきたこまちRは核・原子力技術である重イオンビームによって遺伝子の一部を損なったコシヒカリ環1号とあきたこまちを親にして作られた品種です。コシヒカリ環1号と交配させた後、コシヒカリ環1号の損なった遺伝子を引き継ぐようにしながら7回、あきたこまちと戻し交配をしているので、あきたこまちと遺伝的にとても近いものになっていますが、コシヒカリ環1号の損なった遺伝子も引き継いでいるため、コシヒカリ環1号と同じ問題も持つことになります。

ガンマ線と重イオンビームの違い

放射線の歴史(古いガンマ線による突然変異育種)

クリックで拡大

 古くからガンマ線を照射して、植物を突然変異させる放射線育種が世界で広く行われてきました。日本はこの技術の利用において、世界で中国に次ぐ第2位を占めていましたが、ガンマ線による放射線育種はその効率の悪さと施設の維持の困難さもあって、世界で終わりつつあり、日本でも2022年に終了しました。
 重イオンビームや、後から出てくる中性子線を使った方法は日本では量子ビーム育種と称されますが、これはガンマ線による放射線育種とは大きく異なるものです。
 ガンマ線は放射線状に広がるので、放射される1点にかかる力は強くありません。それに対して、重イオンビームは粒子を加速器で加速して、ビーム状に1点にぶつけるため、そこにはとても強い力がかかります。

 ガンマ線と重イオンビームでどんな差があるか、イラストにしてみました。
ガンマ線と重イオンビームの作用の違い
 ガンマ線は弱く、分散します。そのため、遺伝子の骨格である二重鎖を壊すことはほとんどなく、時に遺伝子の一部を壊してしまうことがありますが、生物にはDNA修復酵素がありますので、この酵素が遺伝子を正しく修復することができます。
 これに対して重イオンビームは強い圧力がかかり、遺伝子の二重鎖を断ち切ってしまいます。そのため遺伝子には大きな損傷が生まれ、修復不能となり、突然変異を引き起こします。

 ガンマ線育種は直接遺伝子を変えるのではなく、ガンマ線を生物に浴びせることで、生物の細胞内で活性酸素をつくり出し、その活性酸素によって突然変異が引き起こされます。つまりガンマ線育種は強いストレスを生物に与え、そのストレスによって突然変異をつくり出す間接的な方法であるのに対して、重イオンビームの場合は遺伝子そのものを直接破壊することで突然変異を引き起こす方法になります。ですのでこの2つは同じ方法と呼ぶことはできません。

 この2つの育種方法は世界でどれくらい使われてきたか、国際原子力機関(IAEA)のデータベースに登録されたデータで比較します。
 ガンマ線による放射線育種は日本では1960年代から始まっており、すでにIAEAのデータベースには世界で開発された3000品種以上が登録されていますが、この技術による新品種開発はほぼ世界で終わりつつあります。
 これに対して、重イオンビームによる品種はまだわずかしかなく、実施国は中国と日本のデータしかIAEAのデータベースでは見つかりません。登録されている26品種のうち、20品種が日本で照射されたものと考えられます。

「あきたこまちR」と「あきたこまち」はこんなに異なる

 それではなぜ、重イオンビームでお米の遺伝子を破壊する必要があったのか、その理由ですが、日本では戦争のために鉱山を乱開発したため、カドミウム汚染が一部の地域で今でも残っています。そのため、カドミウム汚染米ができてしまうことが稀にあります。汚染対策にはいろいろな方法があるのですが、農水省はカドミウムを吸わない米を作る技術に力を注ぎました。

OsNramp5の変異 1万粒のコシヒカリのタネに重イオンビームをあてて、育てたところ、育ったのが3500株ほど。そのうち3株だけがカドミウムをほとんど吸わなかった。その3株の遺伝子を解析したところ、OsNramp5と言われる遺伝子が共通して壊れていて、その遺伝子がカドミウムを吸う機能を持っていることがわかったのです。
 その遺伝子を壊したことによって、カドミウムを吸収しない稲ができたわけですが、その壊された遺伝子はもう一つの重要な機能を持っていました。それがマンガンを吸う機能です。マンガンを吸う力も大幅に削がれてしまうことになりました。
 マンガンは植物にとってとても大事なミネラルです。光合成をする時にはマンガンが中心的な役割を果たします。そして、植物が病虫害から自分を守る時に必要なファイトケミカルを作る時にも重要な役割を果たします。
コシヒカリ環1号やあきたこまちRはこのマンガンが吸収しにくい品種になってしまっており、そのために、収穫量が落ちたり、病虫害にやられやすくなったりします。

重イオンビーム照射で何が起きたか 先ほど3株のカドミウムをあまり含まないコシヒカリができたと言いましたが、これはコシヒカリ環1号の研究チームが発表している論文での記事です。
 3株のうち、1つは破壊されたOsNramp5の遺伝子の二重鎖が修復される時に433の塩基が挿入されてしまい、あまりに異なるものになってしまいました。またもう一つは12の遺伝子と22万7千の塩基が失われたため、生育不良となってしまいました。
最後に残る一つは1つの塩基しか失われていませんでした。稲には遺伝子の部品とも言える塩基が4億あると言われます。その1つしか失われていない、しかもカドミウムを吸わない、ということで、これがコシヒカリ環1号として選ばれることになりました。
 4億分の1しか変わっていないから開発チームはほとんど同じと考えたのでしょう。でも、OsNramp5のわずか1つの塩基が失われることで、稲は大きく性格を変えてしまったことが生育実験によって判明することになります。

1塩基対が壊れただけで何が起きる  宮城県は秋田県と同様にコシヒカリ環1号系品種の開発に乗り出しますが、本格採用前の検討段階で、この遺伝子が入った稲は元の稲とは似て非なるものになってしまう、特に収穫量が落ちてしまうことがわかり、この採用を止めました。
 埼玉県ではコシヒカリ環1号の栽培実験が行われましたが、そこでも同様のことが記録されており、埼玉県では採用の動きは出ていません。
 石川県では2020年にコシヒカリ環1号の生産が始まりました。しかし、その生産は2021年には半減し、2022年以降は生産されていません。
 この品種を栽培して成功した、という例は見つかりません。ただ、秋田県だけはこの「あきたこまちR」の栽培に突き進んでしまったのです。どうして秋田県だけ進めたのか、決定にいたった経緯を明らかにするように求めても、秋田県は明らかにしていません。

栄養分析の結果 照射食品問題連絡会の里見宏氏(Dr. Satomi Hiroshi)は「あきたこまちR」と「あきたこまち」の成分分析を行い、その結果を発表しています。驚いたことに、「あきたこまちR」はヒ素と亜鉛を除くすべてのミネラル、そしてすべてのアミノ酸で「あきたこまち」よりも少ないという結果になりました。
 里見氏はこのような大きな違いがある品種は同等とはまったく言い難く、安全審査にかける必要があると主張されています。まったくその通りだと思います。
 「あきたこまちR」を食べた人で、従来のものとは味が変わっていると言う方がいますが、これだけ栄養成分が異なるから味も変わってしまっている可能性があります。

ターゲットは全国

なぜ全量転換? 秋田県は日本で第3位のお米の生産県で、「あきたこまち」の生産は県の稲の7割を超しています。それを秋田県は昨年から全量「あきたこまちR」に転換してしまいました。
 しかし、この「あきたこまちR」がカドミウム汚染対策であるのならば、汚染地だけで採用すればいいでしょう。でも、なぜ、秋田県は全量転換したのか、というと、一部だけで「あきたこまちR」を生産すると、そのお米を作る地域は汚染地だとして風評被害を受けるから、一部だけでなく、みな全地域でやる、ということにした、と秋田県は説明します。そして、あきたこまち以外の品種も2030年までには同様に変える計画になっています。
 その理屈でいうのであれば、秋田県だけでこのお米を生産すれば、秋田県に対する風評被害が生まれてしまうことにならないでしょうか?

ターゲットは全国 実は、これは秋田県だけの話ではないのです。すでに農水省は2018年に日本のお米の主要品種を「コシヒカリ環1号」などのカドミウム低吸収性米にするという方針を立て、それ以来、そうした品種の普及につとめており、農水省の立てたカドミウム対策を2030年までに日本の半分の道府県が採用することを目標にしています。すでに「あきたこまちR」を含む26品種が品種登録出願されており、そのうち5品種は九州地域向け品種です。つまり、全国でこの品種を広げる構想があるのです。

表示もされず、有機農産物にも認める

 この重イオンビーム、そして後から出てくる中性子線を使った量子ビーム育種は、「ゲノム編集」食品規制の抜け穴になる可能性があります。
「ゲノム編集」食品はNew GMOと言われる新たな遺伝子操作技術ですが、日本では、これまでの遺伝子組み換え技術と異なって、政府による審査を必要とせず、届け出だけで、表示もしない流通が認められており、日本は現在「ゲノム編集」トマトや「ゲノム編集」養殖魚が売られている世界で唯一の国になっています。

 しかし、この量子ビーム育種技術は「ゲノム編集」生物を作る際に必要とされる届け出すら必要とされないのです。
 さらに大きな問題が重イオンビーム品種は有機農産物にもできると、農水省は述べています。有機農産物には「ゲノム編集」は使えないのに、重イオンビームは使っても構わないというのです。
 食の安全を求めて、消費者が有機認証された食品を選んでも、それが遺伝子操作されたものになってしまえば、有機食品への信頼感はなくなってしまうでしょう。

表示なし 現在、あきたこまちRは生産者にはあきたこまちRであることが種籾に明示されます。しかし、重イオンビームで育種されたことは明記されませんので。あきたこまちRがどんな品種か知っている農家でないと問題は伝わりません。
 現在、あきたこまちは日本全国で作られる人気品種ですが、あきたこまちRは秋田県内だけとされており、秋田県以外のあきたこまちは従来のあきたこまちになります。
 そして、秋田県内で従来のあきたこまちにこだわる農家の方々が従来のあきたこまちを作っています。しかし、食品表示の上では「あきたこまちR」も従来の「あきたこまち」も同じ「あきたこまち」として表示されてしまうので、消費者は選ぶことができません。ですので、従来の「あきたこまち」の生産者は「あきたこまちRではありません」と自主表示することで、消費者はそれを選ぶことができますので、日本で従来の「あきたこまち」を生産するすべての生産者や流通業の方にそうした自主表示を始めることを提案したいと思います。

 農水省は2024年7月に日本の有機規格である有機JASのQ&Aを改訂し、放射線育種は遺伝子操作技術に含まれないので、有機農業で使うことが許されるとしました。そして、重イオンビームもガンマ線の放射線育種と同じとして、重イオンビーム育種品種も有機認証の対象となるとしています。
 日本政府はまだ「ゲノム編集」を有機農業での禁止技術とする方針を明確にしていないのですが、国会答弁でも、「ゲノム編集」は有機農業では認めない旨を返答しています。もし、「ゲノム編集」を有機では禁止するけれども、重イオンビームなどの量子ビーム育種技術は認めるというのであれば、それは整合性が取れるでしょうか?

ゲノム編集よりも広がる重イオンビーム

「ゲノム編集」よりも普及する重イオンビーム この重イオンビーム育種による品種はコシヒカリ環1号やあきたこまちRなどだけではなくなっており、さまざまな品種に広がっています。
 比較的早く流通を始めたのがスマイルボールです。タマネギを刻むと目に涙が出ますが、この目に刺激を与えるタンパク質を作る遺伝子を破壊することで涙が出ないタマネギとして2015年から少量生産と販売がスタートしており、日本だけでなく、米国でもGoldies™という商標を取って、販売しているとハウス食品は発表しています。生産量が少ないため、買う人も限られています。
 この他に福井ではそばや小麦、酒米などが作られており、すでに流通している可能性があります。
 さらに静岡県は春に出荷できる温州みかんの「春しずか」という品種を開発し、すでに栽培は始まっており、来年から流通するといわれています。
 しかし、もっとも大規模な生産が「あきたこまちR」であり、現在の日本のお米の5%にあたると考えられます。学校給食や外食などでも使われることが多いと聞きますので、一番食べる可能性が高い重イオンビーム品種は「あきたこまちR」であると言えるでしょう。

アジア原子力協力フォーラム 世界でも品種改良にこの技術を本格運用しているのは日本くらいと思われますが、日本政府はこの技術を原子力技術の売り頭として活用しようとしています。
 日本政府が作ったアジア各国との原子力協力機構のFNCAを通じて、日本政府はアジア各国に重イオンビーム育種への取り組みを進めており、2月25日には日本の千葉県にある加速器でインドネシアのために重イオンビームを使う予定だと広報されています。
 この動きは日本の民間企業でも生まれており、東海村のクォンタムフラワーズ&フーズ社は重イオンビームではなく、中性子線を使った量子ビーム育種技術を完成させ、日本国内のさまざまな育種企業からの照射サービスを行い、さまざまな品種を作り出しています。国内だけでなく、日本政府の支援の下、海外進出を本格化させようとしており、経産省の支援でベトナムでの事業、さらにはジェトロと欧州のイノベーション組織の協力で、欧州への進出を本格化させようとしています。

「ゲノム編集」を補完する重イオンビーム 「ゲノム編集」技術と量子ビーム育種技術は相補う関係にあります。なぜなら「ゲノム編集」が苦手なことが量子ビーム育種技術が得意であり、その逆もそうなのです。そのため「ゲノム編集」育種を手掛ける日本企業、セツロテックとクォンタムフラワーズ&フーズ社は技術提携を結びました。今後、この2つの遺伝子操作技術はセットで世界に売り込みを図る可能性もありえます。
 この量子ビーム育種技術は新ゲノム技術として世界的に規制する必要があります。

 日本では現在開かれている国会で、種苗法が再改正され、革新的新品種開発のための新法が作られる予定と報道されています。日本はこれまで地方分散型で、各地方自治体が地域に合った種苗を作ってきました。コシヒカリやササニシキなど日本を代表する品種を育成したのは地方自治体です。でも、これを中央集権化して、民間企業といっしょになって、新品種を作る新たな体制が整備されようとしています。
 すでにみどりの食料システム戦略の中でも、新品種を作る技術の中核に「ゲノム編集」が位置づけられていますが、「ゲノム編集」以上に普及しやすい量子ビーム技術が今後、より使われるようになっていくことは十分警戒する必要があります。
 そして、このような種苗をアジアなどに輸出するために、日本政府はアジア諸国にも農家の種子主権を奪うUPOV条約を押しつけ、各国の種苗法も同様に改正させる圧力をかけているといわれています。このような動向は食の安全や消費者や農民の権利を奪う可能性が高く、懸念せざるをえません。

遺伝子操作は解決策にならない

 「ゲノム編集」もそうですが、量子ビーム育種技術を使ってできることは遺伝子を傷つけることだけであり、手っ取り早く新しく見える品種を作ることができるかもしれませんが、遺伝子を傷つけられた生命は今後、激動する環境の中で生き残れる可能性は低くなり、より多くの農薬や化学肥料、バイオスティミュラントなどを必要としていくことになってしまうでしょう。有機農業の理想から遠ざかる方向です。
 実際に、コシヒカリ環1号が開発される原因となったカドミウム汚染に対しても、インドのポッカリ(Pokkali)のように、自然な進化の中でOsNramp5遺伝子を二重化して、塩害やカドミウム汚染のひどい地域でも安全に育つ品種が存在していることがわかっています。また有機肥料や輪作などの有機農業の実践はカドミウムを抑える上でも有効なことがわかっています。
 私たちの貴重な遺伝資源を毀損する遺伝子操作技術は、人びとの安全な食とは相容れません。
「あきたこまちR」などの重イオンビーム育種品種を規制して、その拡大を止め、私たちの失われつつある遺伝資源を最大限活用し、食品を守る必要があります。
 OKシードプロジェクトは「ゲノム編集」食品ではない食品にOKシードマークを貼って、消費者が選択できる権利を持てるようにと市民や農家、生協などが協力して5年前に活動を開始しました。この問題には2023年から取り組み始め、秋田県や農水省への働きかけ、交渉、オンライン署名などを継続してきました。
 今回のセミナーに参加されたみなさまや世界の食を守ろうとする農家や市民と連携して、安全が確認できない技術の拡大を予防原則の観点から止め、食や環境、人権、健康を守ることができるようにと活動を続けていきたいと思います。
 どうぞよろしくお願いいたします。

IFOAMから見た「あきたこまちR」問題:デービッド・グールドさん

はじめに:対話の目的と背景

 まず、農水省や市民の対話の機会が設けられたことに深い感謝の意を表明します。現在の段階で最も重要なことは、お互いの置かれた状況の違いを理解し、最善の解決策を共に見出すことです。重イオンビーム技術を用いた新品種が市場に登場しているというニュースは、技術の進歩がいかに速いかを示しています。
 この講演で皆さんにお伝えしたいのは、過去35年間のオーガニック運動の経験から、有機農業セクターと有機農業の視点が、食料、農業、遺伝子技術、そして社会の幸福というより大きな枠組みの中でどのように位置づけられるかということです。また、有機農業やアグロエコロジーの実践がもたらす技術的な貢献という観点からも、有機農業セクターが提供できる解決策を認識することの重要性についてです。
 私たちが用いてきた手法は、主流の食品システムに関わる方たちとも共有できるものであり、その方たちにも貢献できることを願っています。

オーガニックセクターの成り立ちと市場動向

 オーガニック市場は、農家や消費者、バリューチェーンといった市民・民間セクターの運動から生まれ、後に政府の制度形成が追いつく形で形成された「官民パートナーシップ」の産物です。この運動は、食の生産方法、自然への接し方、他者への接し方、ビジネスのあり方、技術への視点など、強い「価値観」によって推進されています。同時に、農家や企業が事業を継続するための経済的メリットによっても支えられています。

 公共部門(政府)は、市場での表示の信頼性を担保し、消費者を保護し、取引を促進するために制度を整備しています。IFOAM(国際有機農業運動連盟)FiBL(有機農業研究所、FiBL)が毎年発行する統計資料『The World of Organic Agriculture』が示す通り、オーガニックの消費と関心は世界中で年々増加しています。この成長は、情報に基づく選択(Informed Choice)を求める消費者の要求と、生計を維持できる農家の存在によって支えられています。

 また、オーガニック運動は第三者有機認証にとどまらず、農家やコミュニティによる参加型保証システム(PGS)や、オーガニックの原則を用いるアグロエコロジーのコミュニティなど、有機認証の枠を超えて広がっています。

オーガニック農業の4つの原則と「配慮(Care)」

 オーガニック農業は、温室効果ガスの削減、水や土壌生物の保護、生物多様性の維持など、気候変動にも対応できる証明された多くの利点を持っています。これらは以下の「4つの原則」に基づいています。

  1. 健康(Health): 農薬を減らし、栄養価の高い食品を通じて人間の健康を向上させる。
  2. 生態系(Ecology): 生物多様性と生態系の均衡を保ち、多様な品種がアグリビジネスの大量生産品種によって絶滅するのを防ぐ。
  3. 公正(Fairness): バリューチェーンに関わるすべての人々のより良い関係性と生計を保証する。
  4. 配慮(Care): 責任ある技術の利用。
  5.  本講演で特に焦点となるのが「配慮(Care)」の原則です。オーガニック運動は決して過去を振り返る古臭いものではなく、最先端の科学技術の知識を活用します。しかし、それは「広く導入される前にリスクが十分に評価された技術」に限定されます。「オーガニック3.0」の概念は、オーガニックをニッチな市場に留めず、気候変動、水資源、エネルギー不足、食料安全保障といった社会全体の課題に対するソリューションとして、慣行農家にもその実践を広げていくことを目指しています。

    遺伝子操作技術の歴史と懸念

     「配慮の原則」から遺伝子操作技術(GE)の歴史を振り返ると、50年以上前の誘発突然変異(Induced Mutagenesis)に始まり、1990年代半ばには除草剤耐性(ラウンドアップ・レディ)や殺虫性(Bt)を組み込んだいわゆるGMO(遺伝子組み換え作物)が登場しました。GMOは農薬使用量の削減を約束して登場したものの、実際には農薬使用量を増加させ、農家の生計を破壊し、環境や人間の健康に様々な悪影響を及ぼしたという長い歴史があります。

     この悪評を避けるため、バイオテク業界は近年、ゲノム編集などの技術を、他種の遺伝子を導入しない(トランスジェニックではない)という理由から「NGT(新ゲノム技術:New Genomic Techniques)」と言い換えています。重イオンビーム照射もまた、印鑰いんやく氏が示した通り新ゲノム技術の一種です。過去の証拠に基づけば、これら新しい技術に対しても、生産者と消費者が透明性のある情報に基づいた選択を行えるよう、予防的措置(Precaution)が必要です。

     オーガニックの基本概念は「細胞をそれ自体で価値ある実体として尊重すること」であり、人類の不完全な知識で自然が許さないような介入を行う技術(重イオンビーム照射を含む)は、オーガニックとの適合性に疑問符がつきます。

    あきたこまちRに対する具体的な懸念とオーガニックの立場

     「あきたこまちR」については、秋田県で大規模な環境への放出が行われ、収穫量の大きな割合を占めました。意図された結果はカドミウム吸収の低減でしたが、同時にこれは特許取得済みの品種です。生命体への特許は、本質的に「公益よりも企業の利益動機」を優先するものであり、極めて議論の余地がある慣行です。また、里見氏が指摘した「栄養欠乏」のような意図せぬ影響(Unintended effects)も観察されており、他の影響についてはまだ十分に解明されていません。このような意図せぬ影響は、過去25〜30年にわたるほぼすべての遺伝子操作生物で発生してきたため、驚くべきことではありません。

     種なしブドウなどの古い誘発突然変異品種がこれまで問題を起こしていないように見えることから、「配慮の原則を満たすには、どれだけの『時の試練(Test of time)』が必要か」という哲学的な問いが生じます。しかし、新しい遺伝子操作品種ではすでに問題が発見され始めています。

     明確なのは、重イオンビーム照射による新品種はオーガニックの視点からは「新たな出現」であり、オーガニックの世界的コンセンサスは「遺伝子操作や除外される手法(Excluded methods)を認めない」という点です。これは日本のJAS有機基準も同様です。もし、あきたこまちRが日本のオーガニック製品に許容されれば、JAS基準の完全性が疑われ、IFOAMの基準ファミリーにおける位置づけの見直しを招き、日本産オーガニック製品の国際的な評判と市場を失う危険性があります。さらに、オーガニックだけでなく、「OKシードプロジェクト(日本)」「Non-GMO Project(米国)」「VLOG(ドイツ)」など、非遺伝子組み換えを求める他の多くの市場セクターからも拒絶されることになります。

    共通の目標と、農家を罰しないための配慮

     有機農家や消費者・流通業者からなるオーガニックセクターと行政・推進側との間にはコミュニケーション不足があったかもしれませんが、私たちが「共通の目標」を持っていることを理解すれば、前進は可能です。双方が求めているのは以下の点です。

    • 優れた農業生産性と高品質な製品
    • 環境課題に耐えうるレジリエンス(回復力)
    • 農家とフードバリューチェーンの生計向上と経済的繁栄(特に平均年齢が70歳に近い日本の農業において、農家をビジネスとして存続させることは極めて重要)
    • 農薬汚染のない、栄養価の高い食による健康
    • 気候変動の緩和と安全な飲料水の保全
    • 生物多様性の保護
    • 食料不足や権利侵害による政治的・社会的・国際的貿易の不安定化の防止

     ここで最も強調すべき点は、「自分が何を植えているのか、どのような影響があるのかを完全に把握せずにこの製品(あきたこまちR)を使用した秋田県の農家を罰してはならない」ということです。農家を不注意による被害から守り、彼らのビジネスを維持させなければなりません。

    今後の是正措置と具体的な提言

     現在の状況を改善するため、ISOの認定システムなどに見られる「是正措置(Corrective actions)」に似た、期限付きのアクションを提案します。現在はまだ最初の収穫から1年しか経っていないため、製品の所在を突き止め、流通を管理することが比較的容易です。

    1. トレーサビリティと表示(ラベリング): サプライチェーン全体で製品を追跡し、消費者が自分が何を手にしているのかを把握できるようにする。
    2. リスクベースの検査体制:疑わしい製品を発見するための検出手法を導入する。ジョン・フェイガン博士(Dr. John Fagan)のような先駆者によれば、数週間以内にこれらの新品種に対するゲノムベースの検査法を開発し、世界中の研究所に配布することが可能です。
    3. 情報へのアクセスと規制の明確化: 変更された元の遺伝物質とゲノム情報へのアクセスを確保する。また、古い放射線照射とは質的に異なる新しい技術として、開発・評価・放出に関する明確な規制定義を設ける。
    4. オーガニック領域の保護: 万が一これらの新品種が期待外れに終わった場合、バリューチェーンを回復させるための「非遺伝子操作のクリーンな種子供給源」として、オーガニックの領域を遺伝子操作から完全に隔離して維持する。
    5.  これらを実施するためには、規制の透明性と説明責任が不可欠であり、消費者、生産者、研究者、市民団体など幅広いステークホルダーがルール作りに参加できるプロセスが必要です。オーガニックセクターは、政府当局と協力してこの仕組みを構築する用意があります。

      結論:予防的アプローチと種子の主権

       私たちが作成し、日本語にも翻訳されたIFOAM「NGTリスクプロトコル」を一読することをお勧めします。ここには、私的・商業的利益よりも公益が優先されるべきこと、透明性、そして「精度の高さ(Precision)」という主張は厳格なリスク評価によって検証されるべきであることなど、社会全体の公正さに関わる原則が示されています。

       遺伝子操作技術に対しては「絶対に使用すべきではない」という陣営と「安全だから表示も不要で流通させるべき」という陣営に分かれがちですが、真実はその中間にあるのかもしれません。技術が向上し、時の試練や慎重なリスク評価によって安心できるようになる可能性もありますが、当面の間は、日本国内外のオーガニックセクターを保護することが私たちの譲れない「一線(Line in the sand)」です。

       現在、世界中で何十億もの人々や農家が、生命体への特許を回避し、種子と食料の主権(Seed Sovereignty / Food Sovereignty)を維持するための運動に参加しています。遺伝子操作は、他の方法で解決できる問題に対して、むしろ新たな問題を生み出す解決策です。オーガニックやアグロエコロジーによる代替案はすでに存在し機能しているのですから、公共の資源は、安全が証明された伝統的な育種や種子の継続的な研究・奨励にこそ投入されるべきです。

       遺伝子操作は人類が発明した最も強力な技術の一つであり、ひとたび環境に放出されれば私たちのコントロールを超えてしまうという意味で、私たち自身よりも強力かもしれません。もう一つの強力な技術である「人工知能(AI)」と同様に、私たちが技術を支配するのか、技術が私たちを支配するのかが問われています。これら2つの技術が融合しつつある現在、私たちが環境や自らに与える影響を十分に理解し、「予防的アプローチ(Precautionary approach)」をとることが極めて重要です。

       私たちが直面する地球規模の課題に対する「有効な解決策」はすでに存在しています。欠けているのは、それを実行に移すための「組織化された意志」だけです。急いで危険な技術に乗り出すのではなく、官民パートナーシップを通じた強力なロードマップを作成し、あきたこまちRや重イオンビーム照射による新品種の流通が制御不能になる前に、期限を区切って具体的な管理措置を講じていくことを強く提言します。


      このウェビナーの主催団体であるIFOAMジャパンについては、以下のサイトをご覧ください。
      https://ifoam-japan.org/

タイトルとURLをコピーしました