この重イオンビームによる遺伝子欠損には安全性などさまざまな懸念が表明されています。しかし、秋田県は「あきたこまちR」と「あきたこまち」を同一の品種として扱うことを決めたため、消費者は買う時にどちらの「あきたこまち」なのかを選ぶことができません。そして、農水省は「あきたこまちR」であっても、有機栽培すれば有機農産物として認めて構わないとしています。
この判断に対して、世界で有機規格の確立を提唱した国際的な有機農業団体であるIFOAM International Organics(国際有機農業運動連盟)やその傘下の組織が2025年11月25日に農水省、秋田県、「あきたこまちR」の元となる「コシヒカリ環1号」を開発した農研機構宛に、公開書簡を送りました。
その公開書簡を元にIFOAMジャパン主催の国際対話のウェビナーが2月27日に開催され、そのウェビナーでの議論を元に、3月26日には第2弾目の農水省の担当官との対話企画が開催されました。以下はその報告です。
(文責 OKシードプロジェクト事務局)
- 農水省からのIFOAM公開書簡への返答
- IFOAM Seed Platform事務局長のデービッド・グールド氏によるコメント
- Health Research Institute 創立者兼最高科学責任者のジョン・フェーガン氏のコメント
- ネルソン・マンデラ大学アフリカ地球観測ネットワークフェロー、アフリカ有機農業研究者ネットワーク議長のレイモンド・アウアバッハ氏からのコメント
- IFOAMジャパン理事長の徳江倫明氏のコメント
- 農林水産省 研究開発官室・技術会議事務局からの返答
- 秋田県立大学名誉教授の谷口吉光氏のコメント
- OKシードプロジェクト事務局長の印鑰智哉からのコメント
- 米国のNon-GMO Projectのハンス・アイゼンバイス氏のコメント
- ジョン・フェーガン氏からの追加コメント
- 農林水産省 基準認証室からの返答
- 農林水産省 イノベーション戦略室、技術会議事務局からの返答
- IFOAMジャパン副理事長の野田克己氏からの返答
- IFOAMジャパン副理事長の高橋俊彰氏からの閉会挨拶
農水省からのIFOAM公開書簡への返答
農水省からは農林水産省基準認証室長から、下記のような返答がありました。
「重イオンビームによる突然変異は自然界の突然変異と同じ」
重イオンビームは放射線の一種であり、重イオンビーム照射による育種はガンマ線照射による育種と同様に、放射線を多数の個体に照射することで、それぞれの個体のDNA上のランダムな位置に突然変異を生じさせ、その中から有用な個体を選抜して品種にする育種法であります。このように、ガンマ線や重イオンビームを照射した結果として生じたDNA上の突然変異は、自然界で起こるDNA上の突然変異と本質的に同じであります。
「あきたこまちR」は重イオンビーム照射による育種法により育成されたカドミウム低吸収性品種の「コシヒカリ環1号」に「あきたこまち」を交配し、カドミウム低吸収性の個体を選抜した後、7回にわたり「あきたこまち」との交配、選抜を繰り返すことで、カドミウム低吸収性以外は新品種の「あきたこまち」と同等の形質を有するものとなっております。
「マンガン欠乏による問題はない」
あきたこまちRなどのカドミウム低吸収品種は光合成に必要なマンガンも低吸収性となりますが、通常の水田土壌での栽培では生育に必要なマンガン量を吸収することができ、あきたこまちと吸収量、収量性は同等であります。また、マンガンは人間にとっても必須の栄養素ですが、植物性食品の摂取が多い日本人のマンガン摂取量は高く、バランスの良い食生活を送っている限り、マンガン欠乏に陥る心配はないものと考えられます。
「劣性遺伝子である点も問題はない」
あきたこまちRが遺伝的に劣性で品種の維持が困難となるリスクがあることとの懸念についてです。通常の採種では他の品種との交雑を防いでおり、カドミウム低吸収性の遺伝子が劣性遺伝子であることにより、品種の特性が維持できないということはないということであります。
「あきたこまちRは遺伝子組み換えではない」
遺伝子組み換え技術はある生物が持つ遺伝子の一部を他の生物に導入して、その遺伝子を発現させる技術でありまして、あきたこまちRの育成にあたっては、当該技術を用いていないことから、あきたこまちRはGMO、遺伝子組み換えには該当しないということであります。
「国際的に有機農産物で重イオンビーム育種は禁止されていない」
重イオンビーム照射による育種は放射線による育種の一種であり、CODEXガイドラインにおきましては、「遺伝子操作、遺伝子組み換え生物、またそれらに由来する製品は、交配または自然な組み換えによって自然に生じることのない方法で遺伝物質を変化させる技術を用いて生産される」と定義し、それらの使用を禁止しているところでありますけれども、放射線照射による育種は禁止していないものと考えております。
我が国の有機農産物JASは、CODEXのガイドラインに準拠しており、育種の段階での放射線照射に関しては、当該技術を利用して育成された品種や、これらを祖先に持つ品種の種子や苗を使用することは、禁止していないものであります。日本だけでなく、多くの他国の有機制度においても、放射線照射による育種を行った品種の使用は認められているものと承知してございます。
以上の5点を返答した上で、農林水産省基準認証室長は以下のように述べました。
「5年に一度、パブリックコメントも行っている」
重イオンビームは放射線の一種であり、放射線照射による育種については、従来から用いられている手法であることから、重イオンビーム照射によって育種した品種であるあきたこまちRについても、市場流通上の問題はないものと考えております。
また、有機JAS制度において、重イオンビームを含む放射線照射による育種を認めていることについて、国際的な有機基準であるCODEXガイドラインに反するものではないと理解しています。有機JAS制度は、生産者や消費者を含むさまざまな関係者の利害を踏まえた上で、国際的な有機基準であるCODEXガイドラインに基づいて運用されるものであり、少なくとも5年に1回行われる有機JAS改正の際には、広く一般からも意見を募集しているところです。
IFOAM Seed Platform事務局長のデービッド・グールド氏によるコメント
この農林水産省基準認証室長からの返答に対して、IFOAMの中でタネの権利に関するプロジェクト、IFOAM Seed Platform事務局長のデービッド・グールド氏が以下の内容のコメントをしました。
IFOAMが採る立場:除外されるべき手法なのか、どうかが肝要
私たちが現在取っている立場は、最新のテクノロジーや既存の法律、政策、そして有機セクターが大切にしている価値観に、できる限り即したものでありたいというものです。そうした要素をすべて考慮した上で、今回の状況にどうアプローチすべきかを考えていますが、私たちは、これを全く新しい事態だと捉えています。
議論を停滞させたくない点の一つに、この新しい品種をどう呼ぶか、ということがあります。「GMO(遺伝子組み換え生物)」と呼ぶべきか、そうではないのか。私たちにとって、それは本質的なポイントではありません。GMOと呼ぼうが、NGT(新ゲノム技術)と呼ぼうが、あるいは他の名前で呼ぼうが、その素材自体の質の評価が変わるわけではないからです。それよりも、私たちが重視しているのは、どのような技術や手法が使われたのか、そしてその技術によってどのような結果がもたらされたのかという点です。
例えば、米国の全米オーガニックプログラム(NOP)では、「GMO」という言葉自体が使われていません。彼らが議論するのは、「除外されるべき手法(excluded methods)」なのか、そうではないのかという点です。日本以外の国の有機制度でも、古いタイプのガンマ線照射による突然変異育種は許容されてきました。しかし、そうした手法に関するルールが議論されたのは、それらの品種が作られてからずっと後のことでした。
欧州連合、米国、カナダなどの有機制度でも、これらの古い放射線育種品種には寛容な姿勢を取っていますが、新しく作られるものすべてに対して「無条件で認める」というわけではありません。新しい品種に対しては、制限や分析が行われます。
有機セクターはこれまで、何かが起きてから、その経験に基づいて事後的に対応せざるを得ないことが多々ありました。新しい事態に直面したときに行動を起こし、それが有機農業の原則や実践に適合するかどうかを判断してきたのです。
今回の重イオンビーム育種は、まさにその典型的な例です。この種の技術は、現時点まで他のどの国の有機制度でも具体的に検討されてきませんでした。私たちが対話を続けなければならない問いの一つは、この技術が本当に古いガンマ線照射と同じなのか、それとも違うのかという点です。私たちは、これは現実的に異なるものだと考えています。
もう一点強調しておきたいのは、多くの有機農業の規制は、もともとはIFOAMの基準に基づいて作られ、それがコーデックス委員会にも影響を与えたという点です。しかし、コーデックスのルールは今や古くなっています。技術の進化に追いついていないのです。私たちは、テクノロジーの進化、市場のトレンド、消費者や政策のニーズに合わせて、常に最新の状態を保つよう努めています。そのため、現在の状況に対してより柔軟で機敏なアプローチを取ろうとしています。
自然と同じという主張は疑問
重要な点は、私たちは科学的な根拠に基づいたアプローチをとっていることです。現在の科学を用いれば、結果として得られた「あきたこまちR」においてどの遺伝子が影響を受けたのか、あるいは標的とされたのかを高い精度で特定できます。私たちが疑問に思うのは、その選抜が「果たして本当にどれほど正確だったのか」という点です。これまで「あきたこまちR」では、目的とするイネのカドミウム低吸収性とそれに影響する遺伝子について議論されてきました。しかし、私たちが受け取った研究報告によれば、農水省の回答とは異なり、ゲノム内では様々な想定していないことが起きていることが分かっています。
現在の分析技術を使えば、親となる品種と、新しく作られた品種のゲノムを比較することが可能です。実際に他にどのような遺伝的な違いが存在するのか、そしてその違いが実際の農産物の特性としてどう現れる可能性があるのかを確認する追加研究に、私たちは非常に強い関心を持っています。
「あきたこまちRは自然界で起こり得るのと同じ方法で作られた」という主張については、疑問を感じざるを得ません。なぜなら、そのようなことは自然界では見られないからです。ゲノムが重イオンビームの照射を浴びるようなことは、自然界では起こりません。私たちはこれを、ゲノムや細胞に対する根本的に異なる種類の介入であり、細胞が本来持っている一つの生命体としての完全性を尊重していないものだと捉えています。
栄養価の評価には疑問
栄養価の点について、一般的な日本人の食生活におけるマンガン摂取に関する農水省の見解は伺いました。私はその見解に少し奇妙な印象を受けています。
一つは、日本人と同じような食習慣を持たない他の食文化圏へこの品種を輸出する場合、輸入国から一体どのように受け止められるのかという点です。
栄養面や食生活に関するこの議論については、最善の解決策を見出すために今後も対話を続けていく十分な価値があると考えています。
本当にベストな選択なのか?
土壌の長期的な持続可能性を考えるなら、米や他の作物が健康な土壌で生き残れる方法を模索すべきです。マンガン含有量が低いために弱ってしまった作物は、うまく育たないでしょう。マンガンは、植物の免疫システムの要となる元素です。植物は、マンガンを酵素複合体の一部として利用し、正常で健康な土壌微生物叢に存在するあらゆる種類の真菌やその他の微生物から身を守っています。
ですから、「本当にこの品種が最良の選択肢なのか?」ということを問うべきです。秋田の方々がこの品種を開発するために費やした多大な努力には感謝し、敬意を表します。しかし、すでにいくつかのネガティブな特性が報告されていることを考えると、これほど大きな規模で生産するのにこれが本当にベストな品種なのでしょうか? 私たちは、有機セクターが適合すると考える育種法を用いて、同じような、あるいは求められる特性を持ち、さらにはより優れた品質を備えた品種を、日本の研究者の方々と協力することにとても関心があります。
選択の自由の保証を
私たちは、消費者、市民には、自分たちが何を買っているのかを知る権利があり、選ぶ権利があると考えています。私たちは「あきたこまちR」の栄養分析に関する評価を目にしましたが、農水省が実質同じと主張しているものとで内容が異なっているのは、非常に奇妙なことです。私たちはこの相違を解決する必要があります。こうした異なる結果は、お互いに対して、そして一般に対しても透明性があるべきだと考えています。
今、最も急を要することとして、「選択の自由」を保障するために、いくつかの救済措置を講じることを強く求めます。あきたこまちRについて、行政内部で把握するだけでなく、一般市民やバリューチェーンに対しても、基本的な情報を公に知らせるべきです。つまり、それが何であるか、私たちがそれについて何を知っているかということだけでなく、それが今どこにあるのか、どうすれば識別できるのか、といった情報です。さらには、私たち自身がさらなる分析を行えるように、アクセスできるようにすることも必要です。
国際的に調和の取れた有機制度を守るために
政府が5年ごとに有機JAS規格の見直しを行っていることは承知しています。しかし、もしそれほど長く待ってしまい、その間、あきたこまちRが区別されないまま市場に流通し、混ざってしまったら、その後に異議が出されたとしても手遅れになってしまいます。そうなれば、人々は選ぶ権利、選ぶ能力を事実上奪われることになってしまいます。ですから、もし最終的にこの種の品種や技術的手法が受け入れられないと判断された場合に備えて、選ぶ能力を維持し、有機JAS制度の完全性(インテグリティ)を守るための措置を講じていただきたいと切に願っています。
世界的に調和のとれた有機制度を望むという点では、もちろん農水省に同意します。しかし、忘れてはならないのは、これが「市場のシステム」であるということです。それは、市場が実際に何を理解し、何を好み、何を買うかに基づいています。私たちは理解を深めるために農水省との対話を継続したいと考えていますが、私たちの認識では、有機の市場や消費者は、これが有機システムに「適合する育種法」や「品種」であるとは認めないでしょう。もし農水省が、有機農業運動とその市場が「適合しない」と考える品種を認めてしまうなら、世界的な調和など不可能です。私たちは、現在の技術レベルに対応し、官民のパートナーシップを強化し続けるような形で、有機の基準を進化させていくことを歓迎します。
Health Research Institute 創立者兼最高科学責任者のジョン・フェーガン氏のコメント
続いて、Health Research Instituteの創立者で最高科学責任者のジョン・フェーガン氏は以下のようにコメントしています。
時限爆弾としての突然変異が隠れていることの危険性
基本的なポイントとして、イオンビームによる突然変異の誘発は、自然界で起こる突然変異よりも、その発生率がはるかに高いのです。つまり、従来の方法によるものよりも、ずっとずっと多くの突然変異が起きているのです。
このような突然変異は、文字通り何千も、少なくとも数千は、このイオンビーム照射のプロセスによって発生します。そして、戻し交配(バッククロス)の過程でその一部は取り除かれますが、それでもまだ多くの変異がそこにとどまっており、それらはまるでゲノムの中で爆発を待っている「静かな時限爆弾」のようなものです。
その中のいくつかは沈黙したままかもしれませんが、他のものは、その植物や品種のライフサイクルの特定の時期に必要とされる遺伝子にダメージを与える可能性があります。例えば、特定の病原体や害虫、あるいは特定の環境的な試練から植物が身を守るために必要な遺伝子を、突然変異が壊してしまったということもあり得ます。しかし、そうした問題は、実際にその試練が訪れて初めて表面化するのです。ですから、それが起こるまでに20年くらいかかるかもしれません。しかしある日突然、このような問題が原因で、すべて枯れてしまっていることに気づくわけです。
最後に一つお伝えしたいのは、私は分子生物学者だということです。このような研究をしてきましたから、こうしたことが起こり得るのだと分かっています。それなのに、そこに潜んでいるかもしれない問題を評価するための研究を農水省が行っていないとすれば、これが普及させるのに安全で優れた品種なのかどうか、私たちには分かりません。ですから、この品種について数年間慎重に研究を行うことなしに、日本の米市場に広く出回らせてしまうのは、賢明とは言えません。
ネルソン・マンデラ大学アフリカ地球観測ネットワークフェロー、アフリカ有機農業研究者ネットワーク議長のレイモンド・アウアバッハ氏からのコメント
ネルソン・マンデラ大学アフリカ地球観測ネットワークフェローで、アフリカ有機農業研究者ネットワーク議長、IFOAMテクノロジー・イノベーション・プラットフォーム委員長のレイモンド・アウアバッハ氏は以下のようにコメントしています。
事実を開示し、消費者の選択を奪わないことが重要
フェイガン教授が指摘しているように、イオンビーム照射は自然界で起こることと同じではありません。「遺伝子組み換えの定義は、ある生物から別の生物へ遺伝子を挿入することである」という農水省の主張は、非常に狭い定義です。放射線によって米の種子が変化したことには疑いの余地がありません。実際に遺伝子改変が行われたという事実を認め、何がどう変化したのかに目を向けなければならないのです。
私は土壌科学と植物生産の教授を引退した身ですが、職業人生の大部分を、有機農業と従来の農業システムの比較に費やしてきました。そしてデビッド・グールド氏が述べたように、植物が病気に抵抗したり害虫に耐えたりする能力というのは非常にデリケートな問題であり、土壌や植物体内のマンガンのレベルにも大きく影響されます。
また、私はIFOAMのテクノロジー・イノベーション・プラットフォームの委員長として、世界の多くの場所で起きているイノベーションや、それが消費者の健康にどのような影響を与えるかについて非常に懸念してきました。さらに、IFOAMのガバナンス諮問委員会の委員長も務めていますが、私たちが消費者に対し、「オーガニック」と呼ばれているものが本当にオーガニックであると、どのような方法で保証できるのかについて、ずっと頭を悩ませてきました。
私たちがアメリカで目の当たりにしてきたのは、かつて非常に高い信頼性を誇っていた「米国有機プログラム(NOP)」が骨抜きにされてしまったという事実です。米国農務省は同じような介入を行い、当初は認められていなかった水耕栽培の食品や、様々な遺伝子改変が施された食品を受け入れるよう、米国の有機プログラムに強要しました。その結果、アメリカの有機プログラムの信頼性は地に落ち、今では代替となる別の認証システムが次々と現れているほどです。
そして私は南アフリカの出身で、私たちの製品の1つに、日本でも非常に人気のあるルイボスティーがあります。かつて一部の有機農家が、サルモネラ菌の汚染を理由にルイボスティーへの放射線照射をした際、日本側はそれを受け入れることを拒否しました。放射線照射された製品はもはやオーガニックではない、と彼らは言ったのです。
さて、製品が「実質的に同じである」という主張は物議を醸すものです。そして、私が日本の農林水産省に投げかけたい問いは、「なぜ消費者から選択肢を奪おうとしているのか?」ということです。なぜシンプルに、「これはイオンビーム照射で作られたものです」と言えないのでしょうか。そうすれば、消費者は選択することができます。消費者が選択肢を持ち、「この製品がどのように作られたのかを知りたい」と言えることが重要だと私たちは強く感じています。
IFOAMジャパン理事長の徳江倫明氏のコメント
この国際対話の主催者であるIFOAMジャパン理事長の徳江倫明氏は以下のようにコメントしています。
安全の検証の認識と有機農業の基本認識を問う
農水省のみなさんによると「ガンマ線と重イオンビームは変わらない」ということなんですが、「リスク」ということを農水省の方では全く考えていないのでしょうか? あるいは、リスクはゼロというふうに本当にお考えでしょうか。
本来であれば、安全性の確認と同時に「どういうリスクがあるか」も分析をして、そのリスクについて検証をして、結果がこうだったということが同時進行で進まないと、本当にその評価は科学的と言っていいんだろうか、と思います。これは過去の予防原則等々を含めて考えていくと、そういうことが出てくると思います。
大切なことは「有機というものをどう考えているか」ということで、自然に沿う、自然生態系に沿う、あるいはその持っている品種の自然性を損なわないとかが有機の中で非常に大切なことだと私は思っています。
その流れから言うと、あえて人工的に、人為的に突然変異を起こさせる。それも放射線というものを使う、このことが本当に有機の世界と、あるいは原則と合致するのかという基本的なところの認識を、農水省さんはどういうふうに考えているのか。この件は次回でもいいんですけども、きちっと答えていただきたいと思います。
こういう意見があるにも関わらず、あえてこれを有機認証の対象にするという理由を改めてお聞きしたい。
農林水産省 研究開発官室・技術会議事務局からの返答
塩基配列の変化であります突然変異を使っていますので、ガンマ線であろうと、重粒子(ビーム)であろうと、自然変異であろうと、その変異は変わらないということで、リスクに関しても通常の品種改良と変わらないリスクであると考えております。
秋田県立大学名誉教授の谷口吉光氏のコメント
秋田県立大学名誉教授で、有機農業学会の前会長の谷口吉光さんは、この間、秋田県で「あきたこまちR」の問題に取り組み、「あきたこまちを守る会」の設立にも貢献しています。その谷口さんがコメントしました。
民主主義の根幹を揺るがす進め方
私は有機農業の研究を40年続けてきました。そして、日本で唯一の有機農業の学術団体である日本有機農業学会の会長を4年務めました。
今日の議論は、あきたこまちRの開発に使われている重イオンビーム技術に関する自然科学的な議論が中心だと思われます。しかし、私は実は社会科学が専門でして、今日はこれから、今までの議論であまり注目されてこなかった、この問題の社会的な側面についてお話ししたいと思います。
まず、今日の議論で取り上げられていない大きな問題は、「あきたこまち」が全面切り替え、「コンプリートスイッチ」だということです。このホールスイッチング(全量切り替え)というのは技術ではなくて政策の問題です。ここに書きましたように、2025年から秋田県は従来のあきたこまちの種子生産を取りやめて、こまちRに全量切り替えをしました。秋田県は農家に対して、あきたこまちの種子をもはや提供しない。「あきたこまちを栽培したい農家は、あきたこまちRだけを提供する」という政策に切り替えたということです。
一言で言えば、この政策は、生産者と消費者の「選択の権利」を奪うという、民主主義の根幹に関わる問題だと思っています。秋田県庁は一貫して「あきたこまちRはあきたこまちと同等であり、安全性に問題はない」と主張していますが、私の考えでは、食べ物の安全性を判断するのは一人一人の消費者であり、秋田県庁が決定することではないと思います。
「こまちR」を食べてもいいと思う消費者もいるでしょう。その消費者は食べればいいと思います。しかし、様々な理由で「こまちR」を食べたくない、これまでの「あきたこまち」を食べ続けたいと思う消費者も大勢います。しかし、「こまちR」全量切り替えという政策によって、秋田県はこれまでの「あきたこまち」の種子提供を取り止め、奨励品種からも外してしまいました。
その結果、秋田県の農家はこまちRを作付けせざるを得なくなり、昨年秋田県内で作付けされたのはほぼ全て「こまちR」になってしまいました。しかし、秋田県庁は「こまちRはあきたこまちと同等なので、販売段階では『あきたこまち』と表示して良い」という判断をしました。その結果、全国の店に並んでいる秋田県産あきたこまちは、実は全てこまちRに置き換わっているのです。これでは、「こまちR」を食べたくないと思っている消費者は、選ぶ権利を奪われることになります。
有機JAS認証についても、同じく民主主義の根幹を脅かす問題があります。農水省は「『こまちR』はあきたこまちと同等なので、有機JAS認証の対象とする」と主張していますが、この政策は全国の有機農業団体や消費者団体と事前に協議することなく、一方的にトップダウンで決められたものです。
そもそも日本の有機農業は70年以上の歴史と実績を持っていますが、それはほとんど民間の努力、すなわち全国の数多くの有機農家、消費者、流通関係者、研究者などの努力の賜物です。2021年に「みどりの食料システム戦略」を策定するまで、農水省は本格的に有機農業を振興したことはありませんでした。それなのに、日本の有機農業を作り上げてきた関係団体に事前に相談もなく、「こまちR」を有機JAS認証の対象とするなどと一方的に決めるとは、国民の公僕たる公務員としての謙虚さや良識をどこに置き忘れてきたのかと批判したい気持ちになります。
結論を申し上げます。農水省は、日本の有機農業団体の要望及びIFOAMの勧告を受け入れて、「こまちR」を有機JAS認証の対象とするという決定を撤回すべきです。そして、秋田県は「こまちR」全量切り替えを見直して、希望する農家にこれまでの「あきたこまち」の種子提供を再開し、消費者が選択できるよう、「こまちR」は米袋に「あきたこまちR」と正直に表示すべきです。嘘はいけません
OKシードプロジェクト事務局長の印鑰智哉からのコメント
農水省は「5年に1回、有機JASについてパブリックコメントを集める」と言いましたけども、アメリカでは春と秋、実質年2回やっているわけです。食の変化のスピードが速い現在、5年も待たなければならない、というのでは対応できないので、その制度は早急に変更する必要があります。
米国のNon-GMO Projectのハンス・アイゼンバイス氏のコメント
(デービッド・グールド氏による代読)Non-GMO Projectのリーダーの一人であるハンス・アイゼンバイス氏は、本来はご出席予定でしたが、都合がつかなくなり欠席されました。しかし、彼から大変興味深い情報をいただきましたので、少しご紹介します。
Non-GMO Projectは、米国で設立されました。その設立理由は、オーガニック業界が消費者の満足を得られるほど遺伝子組み換え作物(GMO)問題に十分に対応できていなかったためです。
消費者市場調査によると、消費者がオーガニック製品を購入する主な理由は2つあります。1つは、農薬や動物用医薬品が含まれていないと考えていること、もう1つは、GMOが含まれていないことです。米国では、Non-GMO Projectの認証マークは、有機認証マーク(USDA Organics)よりもさらに広く普及しています。
Non-GMO Projectは、イオンビーム照射や最新のゲノム編集技術、そして従来の遺伝子組み換え作物を認証の対象外としています。市場には、オーガニック製品よりも非遺伝子組み換えプロジェクト認証を受けた製品の方がはるかに多く存在します。
ハンス氏が私に教えてくれた興味深い統計をご紹介しましょう。アメリカのトップ10のお米ブランドのうち7つがNon-GMO Project認証を受けています。そして、アメリカ国内の小売米販売量の75%が実際にNon-GMO Project認証を受けているのです。そのため、このプログラムは日本から輸入されるあらゆる種類の米について、基準を満たしているかどうかを徹底的に調査します。そして、その旨が明確に表示されていない場合は、プログラムへの参加を認めません。
重イオンビーム照射技術は、IFOAMだけでなく、各国政府も同様に、この新技術に対応するために基準や方針を改定する必要があることを、彼らも認識しています。しかし、それを有機栽培に含めるべきかどうかについては意見が分かれており、含めるべきではないというのが大方の意見です。
ジョン・フェーガン氏からの追加コメント
谷口教授のご意見とご指摘に感謝申し上げます。非常に重要なご意見であり、市民と何の議論もなく全面的に変更されたことは、日本米市場にとって深刻な脅威です。国際市場においては、日本米に何が起こったのかという情報は、いずれ世界中に知れ渡るでしょう。これは、世界における日本米の販売性に影響を与えることは避けられません。ここで言う日本米とは、有機栽培米と慣行栽培米の両方を指します。このような決定が下されたことは、問題です。
最後に、この状況を改善するための良い方法があります。それは、透明性を確保することです。つまり、この米が日本産であり、非遺伝子組み換え(Non-GMO)で、遺伝子操作されていないことを検証できる検査方法を提供することです。そうすることで、世界における日本米の高い評価を維持し、守ることができるでしょう。しかし、これは国際的に米を販売している有機栽培事業者だけでなく、非有機栽培事業者にも利用できるべきものです。なぜなら、有機栽培事業者と同様に、非有機栽培事業者にも同じような疑問が生じるからです。
農林水産省 基準認証室からの返答
(司会からコメントを求められたことへの返答)
本当に論点が様々に渡り(それを応えるべきなのは)農林水産省あるいは消費者庁になるのか、厚労省になるのか、とにかく幅の広い論点が今一気にギュッとなっている状態と思っております。
農林水産省内におきましても、非常に多岐にわたる論点ですので、今日いただいた意見の中で、お答えをしたいものも多くあるんですけれども、今この短い時間の中でそれをするというのはあまり得策ではないのかなと思いますので、また、できれば論点を絞ったような形でお話し合いというのができた方が良いのかなと思っておりますので、今回何か今から「ではお返事します」というようなことは控えたいなと思います。
農林水産省 イノベーション戦略室、技術会議事務局からの返答
(司会から、「あきたこまち」と「あきたこまちR」の栄養成分(ミネラルとかタンパク質など)を比較した情報を持っているんですか、という質問に対して)
「あきたこまち」と「あきたこまちR」の成分分析のデータというのは持っておりません。先ほど少し、そちらで何かの分析の結果をお持ちだというようなお話もあったかと思いますが、ただ、「あきたこまち」と「あきたこまちR」とで、もし成分分析をされるのであれば、土壌や栽培条件によって全然違ってくるので、同一の土壌、同一の施肥、同一の水管理、つまり栽培条件も土壌も全て統一したサンプルで分析をしていただく必要があると思っております。
IFOAMジャパン副理事長の野田克己氏からの返答
おっしゃっているような調査、データ検査は市民にやらせないで、国がやるべきなんじゃないでしょうか。そして国が情報を開示して、みんなが安心して「なるほど、そうか」と納得できるようにしていただくのが先ではないかと思います。
今日は本当にやはり時間の制約が大きかったです。十分深められなかった論点とか、積み残した議題がございます。しかしながら、本日はこの「あきたこまちR」を巡って、初めてIFOAMと農水省とで対話ができたという、これは大きな成果だと思います。今日を受けて、引き続き対話を続けてまいりたいと思います。
最後に閉会の挨拶を、私どもIFOAMジャパンの副理事長高橋より述べさせていただきます。
IFOAMジャパン副理事長の高橋俊彰氏からの閉会挨拶
本日は登壇者の皆さん、活発な意見交換ありがとうございました。今回の会が、重イオンビーム育種についてより深く知り、さらに広い視野で考える機会になったら幸いです。
国際原子力機関と世界農業機関のデータベースによると、1994年から中国でイオンビームで突然変異を起こして育種された品種が登録されていて、30年以上が経過しています。これを取り上げるのが正直少し時間がかかってしまったように感じています。ただ、時代はどんどん変化していて、生産者の減少だとか、農業の効率化が進んでいて、技術に頼る場面がこれからも増えていくというふうに予想されています。
世界的に見てもその傾向があって、一般的には新しい技術への期待もあるし、懸念もあるように思います。多少機を逃してしまいましたが、子供や孫、そしてその後の世代に、私たちの世代がちゃんと話し合って決めたことを伝えたいと思います。この場が日本、そして世界の有機農業、そして農と食の未来への有意義な会になったことを祈念して、締めの挨拶とさせていただきます。本日は皆様ご多忙の中、ご参加ありがとうございました。






