《連載》遺伝子組み換えユーカリを止めるためにブラジルへ(その2)

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《連載》遺伝子組み換えユーカリを止めるためにブラジルへ(その2)
遺伝子組み換え植林に反対する国際デーに向けた学習会やります! 印鑰 智哉

 前回の報告を書いたのが6月21日、それから2ヶ月が経ってしまいました。まったく休む間もなく動き続けていたのですが、続報を書く時間がまったく取れないまま時が過ぎてしまいました。その間にも問題は拡大するばかりです。前回、この大規模なユーカリ植林が1970年代からブラジルなどで日本政府のODAを使った事業含めて大規模に進められており、環境や社会に大きな影響を与えていることを報告しました。前の記事で書いたことは主に今から30年以上前の調査を元にした話なのですが、その時期からブラジルや南米では、地域住民の生活を不可能に追い込む「緑の砂漠」を作り出すユーカリ植林に強い反対運動がありました。

ユーカリ植林バイア州南部のユーカリ植林 撮影:印鑰

 この30年間、ユーカリ植林は拡大を続け、ブラジルだけでもその面積は750万ヘクタールを超えていると考えられます。日本の農地すべてが400万ヘクタールですから、その倍近い面積がユーカリだけが植えられている地域となってしまっています。ブラジルだけでなく、チリ、アルゼンチンなど中南米一体でユーカリ植林が広がってしまっています。

ブラジルにおけるユーカリ植林

 ユーカリ植林が広がる地域で起きている問題はどこでも共通です。まず、水資源が影響を受け、農業生産が困難になる。ユーカリ植林は生物多様性を破壊し、地域に住む動植物の多様性が激減し、狩りも、また漁業も困難になる。そしてユーカリ植林は多くの職を供給しないため、ユーカリ植林の入り込んだ地域からは人が住めない地域に変わっていく。ユーカリ植林の用途は主に紙パルプ用で、製紙企業が紙パルプを作るための工程で環境を破壊していく。こんなことが南米で広く起きつつあります。

 この広大なユーカリ植林地を確保するため、軍事独裁時代には先住民族やキロンボーラとよばれる黒人共同体の村に火を放つなど露骨な人権侵害が行われてきました。ブラジルでは軍事独裁は1964年から1985年まで続きました。その補償はいまだになされていないのが現実なのですが、そうした人権侵害は民主化されたはずの現在でも続いており、この8月にもブラジル公共省はバイア州でのスザノ社とヴェラセル社によるユーカリ植林を、先住民族やキロンボーラの人権侵害を生み出しているとして、中止するよう連邦裁判所に訴えています(以下はその告訴を伝える報道)。

ユーカリ植林を行う紙パルプ企業の告訴を伝える報道ユーカリ植林を行う紙パルプ企業の告訴を伝えるブラジルの報道(URL

 ところが日本では逆にこうした植林への投資が環境への貢献であるかのような報道がこの間数十年に渡って続けられています。7月31日に朝日新聞は「紙づくりは森づくり。ブラジルの地で出会った森林保護と地球環境へのパッション」と題して、ブラジルでユーカリ植林を行っているセニブラ社の企業広告のような記事を流しています。伊藤忠は6月23日に「育テ未来タチ」と題して、両面ぶち抜き広告を出し、あたかもブラジルのユーカリ植林が環境や社会への貢献であるかのように書いています(ユーカリ植林がSDGsという時代錯誤の全面広告。伊藤忠は世界の恥)。現地はもちろん、ユーカリ植林への抗議行動は世界に広がっているのに、日本語の情報圏ではそれとはまったく真逆に描かれているのです。

 さらに問題なのはこうして植えられるユーカリが今後、遺伝子組み換えユーカリに代わっていく可能性が高くなっていることです。すでにブラジルでは7種の遺伝子組み換えユーカリの栽培が承認されており、すでにその商業栽培が始まっている可能性があります。紙や木などの林産物の認証規格を決めるFSC認証でも遺伝子組み換え樹木を認めるように製紙企業は圧力を加えました。しかし、世界で単一植林プランテーションに反対する市民運動の反対で、このプロセスは現在止まっています。そのため、遺伝子組み換え植林の本格化はまだ進んでいないと考えられますが、これを進めようとする圧力は高く、もし、これが許されてしまえば、広大な地域で遺伝子組み換え植林が進んでしまうことが予想されます。

 遺伝子組み換え植林は遺伝子組み換え大豆などに比べ、長い間、環境の中に存在し続けるため、環境に与える影響ははるかに大きいことが懸念されています。そして、遺伝子組み換えだけでなく、「ゲノム編集」を使った樹木も開発が進んでいます。世界でもっとも生物多様性の高いアマゾンやセラードといった地帯で、この生物多様性を破壊してしまう遺伝子組み換え植林が進められれば、もはや世界の気候や生物多様性は元に戻らないほど影響を受けてしまうことでしょう。

 こうした動きに対して、世界の市民団体がブラジルに集まり、これを止めるための会議を5月末から6月にかけて行ってきました。

遺伝子組み換えユーカリを承認したCTNBioへの抗議行動遺伝子組み換えユーカリを承認したCTNBio(国家バイオセキュリティ委員会)への抗議行動 © Orin Langelle
横断幕には「ユーカリ植林は森ではない」「世界はみな、遺伝子組み換え樹木にノーと言う」と書かれている。

会議で日本とブラジルの関係についてプレゼンする印鑰ブラジルのエスピリトサント州ビトーリアで開かれた会議で日本とブラジルの関係についてプレゼンテーションをする筆者 © Orin Langelle

 そして、来る9月21日はそうしたモノカルチャー植林を止めるための国際デーとして現在、世界各地で活動が計画されています。

 日本においても、花粉の出ない遺伝子組み換え杉や温帯でも育つ遺伝子組み換えユーカリなどの開発も進んでおり、そうした植林が国内で始まる可能性は高まっています。

 こうした問題に関して、9月12日夜にOKシードプロジェクトではZoomによるオンライン学習会を企画しました。OKシードプロジェクトの事務局長の印鑰(いんやく)がこの一連の動きを説明し、いかに遺伝子操作植林が私たちの未来に大きな影響を与えてしまうか、そうではない未来をどう作るべきか、話をします。

 なお、学習会ではブラジルにおける遺伝子組み換え食品表示がどうなっているのかもお見せします。日本と違って、ブラジルでははっきりと遺伝子組み換えが入っているかわかるようになっているのです。日本の表示がいかにおかしいか、考える機会にできればと思っています。

ブラジルにおける遺伝子組み換え表示パッケージ右下の黄色いTの字が遺伝子組み換え原料を使っていることを示します。子ども向けのデザインの中にこの毒々しいマークがしっかり入っています。

ブラジルにおける遺伝子組み換え食品表示日本のペットフードも同じだと思うのだけど、ブラジルのペットフードにはしっかり遺伝子組み換え原料を使っているマークが入っています(パッケージの左下)

 この学習会はOKシードプロジェクトのサポーター登録していただいた人は無料でご参加いただけます。まだ登録されていない方はぜひご登録ください。OKシードプロジェクトのサポーター登録にはお金は一切かかりません。月1通程度のメールニュースが届きます(いつでも止められます)。ぜひ、よろしくお願いいたします。

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《オンライン学習会:遺伝子操作植林が生態系をぶち壊す−遺伝子組み換えユーカリに反対する世界の運動に参加して》

日時:2023年9月12日(火)20:00〜21:30
Zoomによるオンライン学習会(要申し込み)

※この学習会はOKシードプロジェクトのサポーターを対象とした学習会です。
参加費は無料ですが、OKシードプロジェクトのサポーターである必要があります。
サポーターでない方はまず、サポーター登録をお願いします。(サポーター登録も無料です。)

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8月24日または25日配信の「【速報】ガンマ線からゲノム編集へ? 「照射ジャガイモ」に終止符! 」というタイトルのメールです。

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