50年続いた照射ジャガイモ反対運動が一つの節目を越えました。
放射線照射照射ジャガイモの終了については、8月に速報としてお知らせしましたが、【たねまきコラム】第9回の今回、10月31日に開かれた院内集会「食品への放射線照射に終止符を!―日本の照射ジャガイモを止めた活動50年とこれからの課題」について、共同代表の久保田裕子が報告します。
これまでの反対運動の軌跡とその背景のなかに、今知るべき、大切な学びがあります。過去を見つめ、そしてこれからのことをみなさんと一緒に考えていきたいと思います。
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照射食品反対連絡会、世界中の食品照射・全廃へ向け、全国集会
日本の照射ジャガイモを止めた活動50年を振り返り、これからの運動を提起
集会アピール、海外向けプレスリリースを発信
10月31日に全国集会で“勝利宣言”
消費者、市民、農業団体等でつくる「照射食品反対連絡会」は、国内で唯一、製造販売をしてきた士幌町(しほろちょう)農協(北海道)が2022年には「照射ジャガイモ」(発芽防止、「芽どめじゃが」として販売)の製造・出荷を終止し、食品照射施設を取り壊していることを確認したことから、2023年9月11日に反対運動50年を振り返る「照射食品講演会」を開き、10月31日には、東京・衆議院議員会館で、約60の消費者団体と個人参加者の総意で、「照射食品全廃!全国集会」を開き、「集会アピール」を採択、50年にわたる照射食品反対運動の“勝利宣言”をしました。
集会名は、「食品への放射線照射に終止符を!―日本の照射ジャガイモを止めた活動50年とこれからの課題」。国内から照射食品はなくなりましたが、いまだに食品照射を進めようとする言動があり、これを監視し続ける消費者運動が必要です。「集会アピール」では、そうしたこれからの課題にも注意喚起を促すものです。
集会アピールは、照射食品反対連絡会ホームページ、及び食品照射ネットワークに掲載
→ http://www.sih.jp/news/syousya/no114.htm
海外向けには英文で、「食品照射を全廃!」しようと呼びかけるプレスリリースとアピールを出しました。これまでも、日本に向けて照射された食品が輸入食品として入ってきているからです。
世界全体での廃絶を呼びかけるため、これらの英文プレスリリースとアピールは、日本消費者連盟の海外向け英文情報紙(インターネット)Consumers Union of Japan ― Japan Resources に掲載して世界の人々に向けて発信しました。
英文のプレスリリースとアピール
→ https://www.nishoren.org/en/wp-content/uploads/JR-191.pdf
→ http://www.sih.jp/news/s_menu.htm
人類が初めて口にした照射食品
日本で照射食品は1967年、「原子炉の多目的利用」事業の一環として、当初計画7品目(ジャガイモ、タマネギ、米、小麦、水産練り製品、ウインナーソーセージ、みかん)の照射食品を目標に国・国の関係研究機関などの大がかりな開発研究として始められました。そもそもは「原子力の平和利用」、放射線の農業利用で推進された「放射線育種」と「食品照射」の後者です。
放射線を照射した食品を食べるということは、人類にとって初めてのことです。開発研究の最初の成果は、馬鈴薯(以下、ジャガイモ)の発芽防止に関する試験研究報告でした。科学技術庁(当時)に提出され、厚生省(当時)が食品衛生調査会(当時)に諮問して、1972年、食品衛生法一部改正で、「食品の製造・調理、保存に放射線を使用してはならない」と原則全面禁止にした上で、「ただし、特別に定めた場合」はよいと、発芽防止のためにジャガイモ(個別品目)に放射線を照射することを許可したのです。
原子力と食べもの―組み合わせに疑問
春先になり暖かくなると、秋に収穫して貯蔵しておいたジャガイモには芽が出てきます。芽にはソラニンという毒があり、調理して食べるには芽をえぐりとる作業が必要です。ですが、だからといって、発芽しようという生鮮ジャガイモに人為的に放射線(放射性同位元素コバルト60から出る放射線・ガンマ線)を照射して発芽しようとする細胞に損傷を与えて発芽を阻止する。「そんなことして、だいじょうぶなの?」という疑問が、原子力と食べものという組み合わせにまず、消費者、特に子どもに安全な食べものを食べさせたいと願う母親たちの直感にピンと響きました。
電離作用をもつガンマ線は透過力が強いので、ジャガイモに照射するとその内部を通過していって、その過程で食品成分の物質の分子構造に電離作用を及ぼし、食品内は電荷をおびた分子、フリーラジカルが飛び交う状態になり、やがて落ち着きます。その結果、照射されたジャガイモは見た目は生鮮のようにみえても、中身は煮たり焼いたりした以上の成分の変化が生じてしまいます。未知の物質が生じる可能性があり、それが毒性をもつ危険性も否定できません。
「安全性に問題あり」の警告
1973年5月17日、日本消費者連盟の『消費者リポート』誌には、「市場化される照射ジャガイモ」の安全性をはじめとする多くの問題点が箇条書きで警告されました。・誘導放射能が生じるのではないか、・栄養成分が破壊されないか、・成分が毒性をもつものに変化しないか、・発がん性物質がつくられないか、・遺伝子に影響を及ぼすのではないか、・殺菌の場合、生き残る菌がいるのではないか・・など。その後、こうした疑問は、当の国立予防衛生研究所で照射玉ネギの検知法の試験研究に従事していた若き(当時)研究者里見宏さん(公衆衛生学博士)の疑問から照射ジャガイモの試験研究データの解析などを通した科学的根拠を伴う“告発”となり、大きな社会問題化していきます。
<照射食品の危険を示すデータ>
○照射ジャガイモ動物実験で、卵巣の重量低下(600Gy)、体重の減少(300Gy)、死亡率の増加、甲状腺脳下垂体にも異常が確認された。生殖器など生命活動に重要な臓器に影響が及ぶことがわかった。
○照射タマネギ(300Gy)を与えたところ、3代目で肋軟骨癒合という骨の異常、卵巣と睾丸の重量減少が確認されたため追試。照射量を半分(150Gy)に餌に混ぜる量も半分の2%にしたが、2代目で頚肋という首の骨(頚椎)に肋骨がついている異常が2倍もでた。
(里見宏資料による)
50年にわたる照射食品ボイコット運動
1975年には消費者団体が「照射食品を一切許さない会」を結成、その後、1977年2月には「照射食品?」という集会で、科学技術庁、農林省、東京都など行政、ポテトチップスの業界団体、百貨店、スーパー、青果物卸売事業者、全農などの事業者、消費者団体が懇談、百貨店・スーパーは「扱わない」と表明、東京都は「バラ売り」にも表示を指導することなどを言明。その後、学校給食会が照射ジャガイモを学校給食に使うという契約をしていたことが判明し、契約は解除されました。
50年にわたる照射食品反対運動では、ありとあらゆると言ってよいほど多彩な反対運動の手法がとられ、各地で多くの消費者・市民が声を挙げました。反対署名活動、流通実態調査、厚生労働省との意見交換、違反輸入食品の追跡、ポジティブリストづくり、集会への参加・発言、海外の市民消費者団体との連携、国際消費者運動との連携、参加、出版物、広報など、など。近年は、照射食品反対連絡会が呼びかけて、照射ジャガイモを販売している店舗があれば知らせてもらい、その店舗・会社に反対の理由を書いて、「販売中止」を要望する活動を重ねてきました。消費者の伝家の宝刀、ボイコット/不買運動をねばり強く積み重ねてきての今日の成果といえます。
照射ベビーフード事件で有罪判決
反対運動の核には、安全性に疑問を呈する科学的データと科学的解析の存在がありました。その後、2002年には、ルイ・パスツール大学のラウルらの試験研究により、放射線照射で特異的に生じるシクロブタノン類が発がん性を増長助長すさせるという試験研究結果を出しました。2007年に国立薬事衛生研究所の年報では、誘導放射能の問題は未解決であることが報じられました。
「照射ベビーフード事件」は、4年にわたり、「動物のエサ」という名目で照射施設にベビーフードの原材料となる粉末野菜が持ち込まれて、違法に照射されてわからなかった、それを原材料にした和光堂をはじめ大手ベビーフード会社はそれに気づかず、見過ごしていたという衝撃的な事件(1978年)でした。当該のベヒーフードを赤ちゃんに食べさせていた母親たちは、不安におちいりました。
照射された食品からは照射の有無が検知できず、ましてや照射した放射線量の検知法もなかったいのです。容易に乱用が行われます。現在は、かろうじて照射の有無は現在は判別できるようになりましたが、公定法はありません。これは食品衛生法違反として刑事裁判になり、照射を実施していた下請けの会社社長に有罪判決が下りました。
その裁判の過程で明らかになったのは、放射線照射は安全だとする原子力関係者の無責任で倫理性のない言動です。そして、そうした体質は、今現在も、続いているのが現状です。試験研究データの子細で不都合な部分は「無視できる」とし、量的に少ない発がん物質なども「無視できる」と、およそ科学的ではない言動をとっています。「疑わしきは使用せず」という考えも一蹴していますが、こうした直感的なわかりやすい表現こそ、今、重視されるべき「予防原則」の意味を汲んだ考えであり、食品の安全性問題には不可欠の考えです。
照射キャットフード事件は人類への警告
2008年から2009年にかけて、オーストラリアで、特定のキャットフードを食べた95匹の猫が次々と神経症状を起こして37匹が死ぬという事件が起きました。米国からの輸入高級キャットフードで、オーストラリア政府が、防疫処理として、非加熱の飼料には放射線照射で処理していたことが判明。愛猫が重い神経症状を起こしてぐったりしてしまった被害者の一人タニア・カニングさんたちが反対運動に立ち上がり、獣医師や多くの支持者を得て、ついにオーストラリア政府はキャットフードへの強制的な放射線照射は止めることを決定しました。
照射食品反対連絡会は、タニア・カミングさんを日本に招聘、東京及び関西の数カ所で講演会を開催しました。猫の神経症状は水俣病を思い起こさせます。この問題に当たった動物学者の一人は、照射されたキャットフードに何か不明だが、猫に神経症状を起こさせる物質が生じていることが疑われるとしています。詳細は不明のままです。ですが、この事件の内容はもっと科学的に追究されるべきです。集会では、「照射キャットフード事件は、人類への警告」というアピールを採択しました。
これからも照射食品反対運動が必要
そもそも、食べものに放射線を照射することが邪道。有用性・安全性に確証はなく、必要性もない。ガンマ線照射は終り、今度は電子線で食品照射をしていこういう意図が散見されます。スパイス各社はすでに、他の方法が確立しているので食品照射は必要ない、と言明していました。誰のための放射線照射なのでしょうか。
これからも、国内・国外に対し、照射食品はいらない!を呼びかけましょう。
久保田裕子(食品照射ネットワーク、照射食品反対連絡会世話人)
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照射食品反対連絡会
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日本消費者連盟気付
連絡先 Eメール:sshrk09@gmail.com
照射食品反対連絡会は2006年に以下の団体によって結成、主婦連合会、日本消費者連盟、食の安全・監視市民委員会、東京都地域婦人団体連盟、日本有機農業研究会、食品照射ネットワーク、健康情報研究センター、生活協同組合パルシステム東京、全日本農民組合連合会など約60団体及び個人で活動しています。