さらに、「小規模農こそが米価を上げる元凶だ」として、小農はバッシングを受けています。私たちの食と農を支え、地域の自然環境を守るのは、多くの家族農業、小規模農であり、そのような攻撃はあまりに短絡的な見方であり、「ショック・ドクトリン」そのものであると言えます。
今、わたしたちはどうすればいいのでしょうか?
今回のたねまきコラムは、OKシードプロジェクト共同代表の中村陽子からの重要な問題提起です。
たねまきコラム:日本に必要な農業は、大規模スマート農業? それとも小規模家族農業? (中村陽子:NPOメダカのがっこう理事長/OKシードプロジェクト共同代表)
令和の米不足の原因は何?
農水省は、「計算上は日本のお米は足らないはずはないが、流通の段階で買い占めや出し渋りなどの問題があるようなので、備蓄米を放出する」といいながら、今年も減反を行っています。国民の食料安全保障のためには、必ずコメ余りにしておく必要があるのですが。
今回の米不足騒動のきっかけは、気候変動による夏の高温障害による昨年の不作と、南海トラフ地震臨時情報によるお米の買いだめかも知れません。そのほかにインバウンドによるお米の需給増加も原因だといわれています。流通業者とJAを犯人にしている農水省官僚OBの方もいますが、違うと思います。お米だけは自給できていた日本で、この程度のことで市場が米不足になったのには、根本的な原因があったはずです。
根本的な原因は、農業従事者と農地と生産量の大幅な減少
農業従事者の人数は2005年224万人でしたが、2023年には116万人になり、18年間で108万人減少しています。平均年齢は72歳です。また、農地は1960年に609万ヘクタールでしたが、2024年には427万ヘクタールになり、60余年で182万ヘクタール減少しています。先進国の中で、主食の生産が1960年から4割減っているのは日本だけです。
また、9割以上の農家に後継ぎがいません。どうしてかというと、農業で食べていけないから、子どもに継がせるわけにはいかないと思うからです。2025年3月30日に「令和の百姓一揆」があり、お米農家の時給は10円だという指摘がありましたが、以前私も計算してみた時には200円ほどでした。それでも自分の代までは先祖から受け継いだ農地を守って米作りをしようと体力の限界まで頑張っている農家によって、私たちのお米は生産されているのです。
小規模家族農業の衰退を放置し大規模スマート農業を推進する勢力
「農家を守れ! 農家に欧米並みの所得補償を!」とコールしながら歩いた「令和の百姓一揆」のあと、「なぜ農家にだけ所得補償をするのか、苦しいのはサラリーマンも同じだ」などと、かなり批判的なコメントがありました。その後雑誌『プレジデント』でも、時給10円なら、なんで農業を続けているのか? 小規模農業だと収入は低いが、規模を拡大していくに従い収入は多くなっていく計算を示し、大規模スマート農業への移行を促した記事が出ました。土から離れて損得と効率でしか判断しないビジネスマンには、先祖からの土地を荒らしては申し訳ないと思って田畑を守っている農家の気持ちはわからないのでしょう。とにかく今の主流は、小規模農業の否定と、大規模スマート農業の推進の論調です。法律も企業が農業に参入できるように整えられているので、外国の企業もどんどん入って来ています。そして大規模農業が目指すものは輸出の拡大です。同時に輸入も拡大します。おかしいと思いますが、こうすると企業の利益が出るのです。わが祖国日本危うし、営々と田んぼを築いてきた先祖にも、それを引き渡せない次世代に申し訳が立ちません。
小規模家族農業を見直して守っていきましょう!
実は世界の食料生産の80%は小規模家族農業が担っており、小規模家族農業が世界の人たちを養っているのです。それでは小規模家族農業の良い点を挙げてみましょう。
①国土の自然環境を復活できる
田んぼの生きものたちが暮らせる田んぼ環境は、小規模家族農業の方たちが、草や虫をよく観察しながら水の管理や草刈りをしなければ守れません。大規模スマート農業だと、ドローンによる農薬散布、RNA農薬による殺虫、ゲノム編集などを駆使した農業になってしまいます。小規模農業といいても、単に具体的な面積だけを比較しているわけではありません。メダカのがっこう関係の有機農家たちは、周辺の農家がやめていった田んぼがどんどん集まり、20,30,40,50…100ヘクタールとどんどん広くなっています。ある農家に、どうして断らないで増やし続けるのか尋ねたことがあるのですが、「ほかの人に任せると農薬や化学肥料を使ってしまうから、自分が引き受けることにした」という答えが返ってきました。ですからどんなに農地が広くなっても、生きものを観察する目があるので、自然環境を守りながらお米作りを続け、国土の番人をしてくれています。
②気候変動に強い
最近では気候変動が激しく、農作物ができない年が頻繁に起きています。こんな時、一番大きな被害を受けるのが、作物の品種が単一化している大規模農業です。FAO(国際連合食糧農業機関)では、2008年の気候変動による大凶作の年に大規模農業の弱点に気が付き、小規模家族農業こそが世界の食料を担うことができるとし、国連の事業として「家族農業の10年」を開始しました。メダカのがっこうの農家たちも、どんな気候変動の中でも、必ず一定量の米や大豆や小麦を収穫しています。地域にあった品種と観察眼が優れていて時期にあった手当をしているからです。
私たちはどうしたらいいのかについて、今私が思っていること
2001年にメダカのがっこうを始めて以来、ずっと小規模家族農業で自然環境を取り戻してくれる農家を応援してきました。なぜかというと、田んぼの生きものたちは農薬を使わず水を張るだけですぐ復活するということ、絶滅危惧種はトキやメダカではなく、作業をしてくれる“農家”だということに気付いたからです。とにかく農家の収入アップが何より必要なので、お米1俵60㎏を最低でも37000円以上の適正価格で買うことにしました。これに賛同してくれた会員の皆様のおかげで、農家の所得はアップし、後継者もほぼ全員決まっています。消費行動で農家や田んぼの自然環境が守れるということです。
このような考え方で、国土の自然環境を取り戻してくれる農家のお米と農作物を適正価格で買い支える市民と農家を繋げるNPO法人や会社が、日本にあと100くらいあれば、状況は良くなると思いますが、すぐには叶わない場合、できるだけ多くの日本人が、「買い物は投票」という武器を持ち、真剣に実行に移すことです。今の日本は戦争の真っ直中だという認識が必要です。私の野草と黒焼の師匠の若杉友子さんは、「食べ物は沈黙の兵器」だと言っています。その目でスーパーの棚を見ると、ほとんど空っぽに見えます。そうだと気付けば、価格に関係なく、次世代に残したいものだけにお金を使うことです。
気を付けてほしいことは、日本にとって大事な働きをしている人や会社やJAなどを貶める発言をする人たちに騙されないことです。マスコミが報道することと報道しないことがあることは皆さんご存じだと思いますが、マスコミに叩かれているものは、日本にとって大事な存在であることが多いので、注意してください。オーガニック給食の活動をしていて感動したのですが、JA常陸のように、有機農業技術に自信がついたら、JAほど頼りになる存在はいません。確かに有機農業に抵抗しているJAはまだまだありますが、それはできないと思っているからで、できるという自信をつけていただくまで、お願いしたり励ましたりするしか解決する方法はありません。今JAを潰せばさらに多国籍企業に日本が乗っ取られるだけです。
私は、農家は国土を保全し、国民の食料を作っているので、最重要な国家公務員にしていただきたいと思っています。所得補償もいいですが、これでは補助金をもらっているというマイナスのイメージが付くからです。国の防衛は食にあり。食料安全保障のためには、お米は常に余剰があることが必要です。これを適正価格で国が買い上げれば、お米の価格低下を防げます。お米に関しては、需給バランスピッタリを目指すべきではありません。
以上が今回のお米騒動で私が考えたことです。ここで皆さんにお願いがあります。
それはお米調査に協力していただきたいということです。題して「大人の自由研究…どんなお米を食べているの?」です。協力範囲が広がれば、かなり実態がわかると思います。
現時点でも、外食産業のアメリカ米化、秋田県産あきたこまちを使用している大手チェーン、学校給食などがわかってきています。わかった段階で、今年の秋の収穫米から放射線育種米あきたこまちRに全面転換し、表示はあきたこまちのままであることを知らせしています。知らない企業や学校をなくしていくつもりです。
調査は第1期を2025年5月31日までとし、ここで集中して全国のデータを集めたいと思います。6月2日の結果発表を受けて、第1期のがんばり具合を参考に、手薄だったところを調べていきたいと思います。よろしくお願いします。