日本の食品表示がさらにおかしくなろうとしています。「遺伝子組換えでない」という表示が来月からほとんどできなくなろうとしています。一方で遺伝子組み換え表示義務は甘いまま、ゲノム編集や放射線を使って作られた種苗には表示義務は課されません。
今後、消費者の「知る権利」「選ぶ権利」、そして食の安全は、どのように守られるのでしょうか。また、「遺伝子組換えでない」の表示はどう変わるのでしょうか?OKシードプロジェクト事務局長である印鑰智哉が解説します。
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『消える?「遺伝子組換えでない」食品表示』 印鑰 智哉(OKシードプロジェクト事務局長)
2023年4月から日本の食品から「遺伝子組換えでない」という表示がほとんどなくなろうとしています。2017年に消費者庁が「遺伝子組換え表示制度に関する検討会」で表示基準変更を決め、2019年4月の内閣府令により、今年の4月1日から実施となるからです。
この新しい食品表示基準では遺伝子組み換えでない食品で許容される意図しない遺伝子組み換え原料の許容率がこれまでの5%以下から検出限界未満(不検出)に変えられました。一見、厳格になっていいことではないかと思うかもしれません。それでは日本の遺伝子組み換え食品に関する食品表示は厳密になるのでしょうか? 残念ながらまったくならず、逆に遺伝子組み換えでないものを求めることがより難しくなります。
まったくザルの日本の遺伝子組み換え食品表示
世界にはさまざまな遺伝子組み換え食品表示義務が存在していますが、日本の食品表示義務はザルと言うしかない杜撰なものです。日本では食品で遺伝子組み換え表示が義務付けられるのは遺伝子組み換え食品原料が全体の5%超え、かつ使われている上位3位の原料までが対象となります。5%以上使っていても、上位3位に入らないものは書かなくていいのです。上位3位だけ非遺伝子組み換えで、後はすべて遺伝子組み換えであったとしても遺伝子組み換え表示をしなくていいのです。
また日本ではサラダ油、醤油などは表示義務がありません。そして、家畜の飼料も遺伝子組み換え飼料を使っていても表示義務がありません。残念ながら輸入飼料のほとんどが遺伝子組み換えとなっているわけですが、スーパーで売られている肉にはそれが表示されないので、市民はそれを知らずに食べているということになります。
ですから、このようなザルの遺伝子組み換え食品表示義務をもっと実効あるものにしてほしい、と消費者運動は求めてきました。今回の食品表示基準の改定はこれを改善するのでしょうか? 残念ながら、まったく手がつけられておらず、ザルのままです。
表示には2種類あり、遺伝子組み換え原料を使っている場合に遺伝子組み換えを使っている(「遺伝子組換え不分別」)と表示する義務がある、というのと、そうしたものは一切使っていません、ということを積極的に表示するものがあります。今回、厳しくされるのは遺伝子組み換え原料を使わないように努力している側だけです。
遺伝子組み換えでない食品を選ぶ権利を侵害する基準改定
今回の基準改定は消費者が遺伝子組み換えでない食品を選ぶ上で頼りとなる「遺伝子組換えでない」という表示だけ厳しくするというものです。厳しくするのはいいことではないかと思われるかもしれませんが、そうではありません。
現在、日本では多くの食材を米国などからの輸入に頼っています。特に大豆やトウモロコシの輸入には遺伝子組み換え作物が多く含まれます。遺伝子組み換えでない大豆やトウモロコシを確保するためには特別の管理(IPハンドリング)をして費用をかけなければならないため、高いコストがかかります。そうやって管理すればほぼ1%以下の混入率で管理できると言われています。日本の消費者運動も5%以下という甘い基準を海外で多い1%以下というものに変更してほしいと要望してきました。国産原料だけしか使わないケースを除き、船やサイロ、そして製造過程などで、遺伝子組み換え原料が混入する可能性が完全なゼロにはならないのです。しかし、そうやって管理すれば99%遺伝子組み換えでないものが確保できます。そして、それを選ぶことで、遺伝子組み換えでない作物を生産する農家を支援することにもつながり、世界の消費者が表示に基づき、遺伝子組み換えでない食品を選ぶようになった結果、遺伝子組み換え作物の栽培は2015年を境に拡大が止まりました。
ところがこの意図せざる混入率で未検出を要求されれば、このような大変な管理を行って非遺伝子組み換え原料で食品を作ったとしても「遺伝子組換えでない」という表示が許されなくなってしまうのです。
ザルの表示義務には頼れないので、消費者にとっては「遺伝子組換えでない」という表示が頼りになるわけですが、それすら奪ってしまうということは消費者の知る権利を侵害することになります。ですので、遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーンなどを中心に、この食品表示基準の改定に反対するさまざまな運動が行われてきましたが、消費者庁は基準を再考することなく、この4月からの改定基準の実施を迎えてしまうことになってしまいました。このような基準改定の裏には遺伝子組み換え企業やそれと密接な食品企業からの圧力があることが想定されます。
今後どうなる? 「遺伝子組換えでない」表示
今後の食品表示表示はどうなるのでしょうか? 消費者庁は意図しない遺伝子組み換え原料の5%以下の混入に抑えられた(つまり従来の「遺伝子組換えでない」)食品には「分別生産流通管理済み」「IPハンドリング済み」、「IP管理済み」「遺伝子組み換え混入防止管理済」という文言であれば表示することは許容されるとしていますが、IP管理済みとか分別生産流通管理済みとかの意味を理解できる人は果たしてどれくらいいるでしょうか? ちなみに遺伝子組換え作物を使っている場合は「遺伝子組換え不分別」と表示しますが、その意味も理解できる人はどれくらいいるでしょうか? わざとわかりにくい言葉を使って、問題を見えにくくしているとしか言いようがありません。
「遺伝子組み換えでない」という表示は今後も純国産原料であれば可能ですが、加工所が国産原料だけの食品を作っているところでない場合は混入がありうるということで、純国産でも表示できなくなる可能性があります。
なぜ少ない「遺伝子組換えでない」表示?
しかし、「遺伝子組換えでない」と表示された食品を見ることはとても少なく、納豆や豆腐、醤油くらいでしか見ないと思います。これはなぜかというと、日本では大豆、トウモロコシ、ジャガイモ、菜種、綿実、アルファルファ、テンサイ、パパイヤ、カラシナを使わないものには「遺伝子組換えでない」という表示を政府が許していないからです。つまり、お米や小麦に「遺伝子組換えでない」という表示をすることは許されていません。これはなぜかというと、日本で流通しているお米に遺伝子組み換えのものはない、だからわざわざ「遺伝子組換えでない」という表示をしてしまうと、あたかもその食品が優良であるかのように消費者に錯覚させることになるとして許さないのです(「優良誤認」とよばれています)。
これはおかしな話です。実際に遺伝子組み換えのお米は現在フィリピンで作られており、遺伝子組み換え小麦もアルゼンチンで作られており、日本での流通はまだ認められていませんが、加工食品などの原料として入ってくる可能性は否定できず、お米や小麦に「遺伝子組換えでない」という表示をする必要はすでにあるのですが、現状では残念ながら許されていないのです。これは明らかに遺伝子組み換え企業のために作られた制度と言わざるを得ません。
世界で普及が進むNon-GMO表示
日本では消費者が「遺伝子組換えでない」という表示を目にすることがなくなり、警戒心も薄れていきかねません。世界全体がそうなのかというと、決してそうではありません。米国ではNon-GMO Projectなどの民間代替認証が普及しており、消費者は遺伝子組み換えを使わない食品を選ぶことができます。ドイツではVLOGという同様のNon-GMO(遺伝子組み換えでない)認証が普及した結果、ほとんどの牛乳がこの10年くらいで遺伝子組み換えを飼料に使わないものに変わったとのことです。消費者が「遺伝子組み換えでない」ものを選ぶことができるようになった結果、大きな変化が世界各地で生まれています。
そして、OKシードプロジェクトが取り組んでいる「ゲノム編集」食品は遺伝子組み換え食品のバージョン2といわざるをえませんが、海外のNon-GMO民間認証団体は古いGMO(遺伝子組み換え食品)も新しいGMO(「ゲノム編集」食品)も同じ遺伝子操作食品として反対を表明しており、取り組みを開始しています。
No! GMO
OKシードマークにはNo! GMOという文字が入っています。なぜNon-GMOではなく、No! GMOなのかというと前に説明した通り、Non-GMOと書けば、そのマークを貼れる食品は納豆などわずかな食品に限定されてしまうのです。しかし、No! GMOは遺伝子組み換えに反対という意志表示ですので、これには制約はありません。古い従来の遺伝子組み換えにも、あるいは「ゲノム編集」やRNA干渉、合成生物学などの遺伝子操作技術を使って作った食品ではない食品にOKシードマークを貼ることで、安全な食を選び、守ることが可能になります。
ですので、このOKシードマークを今後、1つでも多くの食品に貼って、広げていきたいと思います。ぜひ、このプロジェクトを友人の方にもお知らせください。
学習会やイベントを通じて、この問題を訴えていきます。
どうぞよろしくお願いいたします。
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