【たねまきコラム】伝統的昆虫食と産業的昆虫食について

フードテック

【たねまきコラム】第2回目のテーマは、「伝統的昆虫食と産業的昆虫食について」です。

環境問題や食料問題の解決につながるとして、今、世界的に、昆虫食や代替肉、培養肉など「フードテック」の動きが加速していますが、皆さんは「昆虫食」、食べたことがありますか?
実は世界の広い地域で、昔から昆虫は食べられてきましたし、日本も例外ではありません。イナゴの佃煮やハチノコの甘露煮など、地域の食文化として昔から根づいてきました。
しかし、現代の産業的な「昆虫食」は、食経験のない昆虫や「ゲノム編集」を用いた昆虫などが次々に開発されており、安全性に懸念があります。

今回、徳島県で精力的に活動をされている「食と農を守る会徳島」の代表である柴田憲德さんに、昆虫食についての考察を詳しく書いていただきました。

柴田さん、ありがとうございました!
 
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 無印良品を展開する株式会社良品計画が「コオロギせんべい」の発売を発表したとき、ゲノム編集のコオロギを原料とするコオロギパウダーが使用されるという報道があり、物議を醸しました。この報道は誤報で、その後、発表した新聞社が記事を撤回しました。

 このコオロギパウダーを開発・製造した徳島大学発のベンチャー企業・株式会社グリラスが、コオロギの系統的育種にゲノム編集技術の利用・研究を行っているために生じた誤報であろうと推測されます。コオロギパウダー用のコオロギ育成にゲノム編集を用いたかどうかについては判然としていませんが、コオロギパウダーを用いたラーメンや菓子などが新たに販売され、地元の高校がコオロギパウダーを混ぜたコロッケなどをつくって、それを給食に利用しようとしています。

 グリラスに限らず、「昆虫食が世界の食糧危機解決につながる」をキャッチフレーズに産業的昆虫食が推進されようとしている今日、自らの経験を通して昆虫食について考えてみたいと思います。

1.伝統的昆虫食
 私は1954年、名古屋に生まれました。戦後10年も経たず、空襲避けに黒塗りされた建物や窓ガラスの目張りなどが残っていました。戦後の食糧難時代で、米は食管制度の下での米穀配給通帳による配給でした。
 小学生の頃、公設市場でイナゴの佃煮が売られていて食べたことがあります。香ばしくて特に抵抗もなく食べたのが、初めての昆虫食でした。街の中なので、ほかの昆虫食に出会うことはありませんでした。
 時代とともに、農家を棄て工業ヘ。田舎から都市部への人口集中にともない、食料は輸入に依存し、工業的生産が著しく増加しました。工業化が進むなかで大気汚染、水質汚染などの公害問題が次々と発生しました。イタイイタイ病、水俣病、ヒ素ミルク中毒、米ぬか油中毒、四日市ぜんそくなど、たくさんの犠牲者が出ました。
 名古屋の街も、スモッグで1メートル先も見えない日があったり、セロファン工場から排出された硫化水素によるバス停やトタン屋根の腐食や近隣住民の体調不良が問題となりました。そうした原体験から公害、環境汚染問題に拘りがあり、自給自足、有機農業を目指す暮らしを岐阜の山間部で始めました。
 傾斜面が多い耕作放棄地の巨大なススキの株をツルハシで起こしたり、カマや鍬での開墾の日々でした。しばらくして、平飼い自然卵養鶏の元祖、中島正さんが近くに住んでいることを知って訪ねたり、彼の著書から学び自然卵養鶏を始めました。中島さんは公害も含め工業優先の社会そのものを根底から問い、循環農業としての自然卵養鶏や有機農業が何を目指すべきかを著書で述べられています。その考えに触発されて発酵飼料を与えた自然卵と、完全発酵した鶏糞を肥料にした有機農業に取り組み、高蔵寺ニュータウン生協などに卵とセット野菜を出荷し、組合員との援農や交流会などを実施しました。
 有機農産物は一握りの人のものではなく、全ての人々に等しく享受されるべきであり、有機農業は単なる農法ではなく、社会の在り方そのものを問う生き方ではないかと思います。
 話がそれましたが、山の中での暮らしは野性味溢れていて、その地域にはへぼや蜂の子を採って食べる伝統的な食習慣がありました。近辺の店にも蜂のビン詰めが販売されていたり、蜂の子飯や朴葉寿司、五平餅の味噌に混ぜたりする食習慣があり、地域の人との付き合いで、ご馳走になりました。


2.昆虫食の歴史と現状
「日本における昆虫食の歴史と現状」(松浦誠)より
■世界の伝統的昆虫食
オーストラリアのアボリジニ(ウィッチェティ・グラブ、ミツツボアリ)、中国(タケツトガの幼虫、セミスズメバチ、スズメガ、メイガ、カイコの幼虫、コオロギ)、ベトナム(ゲンゴロウ、タガメ)、タイ(タガメ、タマムシ、カブトムシ)、メキシコ(グサノ、ミールワーム、バッタ、イナゴ)など。

■日本の伝統的昆虫食
江戸時代:イナゴ、ゲンゴロウ、ガムシ、カミキリムシ、ブドウスカシバ、エビヅル虫
明治時代:記録や報告がない。
大正期:江戸時代と同様、昆虫食は農山村中心に伝統的郷土食(漢方、滋養、栄養食品)

「食用及薬用昆虫に関する調査」(1919年に発行された203ページに及ぶ報告書)より
イナゴとカイコ、ハチ各地利用
食用昆虫(48種、種名不詳7種)
薬用昆虫(123種)
府県別長野県17種で多い。


3.現代の昆虫食
◎イナゴ:稲作。戦後食糧難時代、貴重な栄養源。佃煮、干しイナゴなど。
1950年代、大都市でも販売。農薬(BHC、合成殺虫剤)散布で姿消す。
1972年DDT、BHC、有機塩素系殺虫剤の禁止により、イナゴ復活。
1974年イナゴ多発⇒新しい合成殺虫剤の散布⇒減少。

◎カイコ:養蚕の衰退とともに減少。

◎ハチ料理:地域限定で、料理旅館でなどでへぼ飯、佃煮、蜂の子飯、朴葉寿司、五平餅。

 近所の人がカエルの肉に目印となる紐をつけ、それを持ち帰る蜂を、山中を追って走り、巣を見つけて採取する話を聞きました。山に暮らす人の楽しみと生活の糧として暮らしに根差していました。昆虫食は長野、岐阜だけでなく宮崎、岡山、石川、愛知でも。蜂食に関しては静岡、滋賀、大阪兵庫、島根、愛媛、鹿児島、沖縄でも。
 昔からの昆虫食は、自然環境の中で育まれた昆虫を採取し、食する範囲であり、自然との共存を前提とした食文化でした。

4.工業的(産業的)昆虫食
 「現代の昆虫食の価値―ヨーロッパおよび日本を事例に」 (水野壮)より。
従来の家畜の代替タンパク質資源として、工業的(産業的)に生産された昆虫食の利用が提案されています。2013年オランダのワーゲニン大学研究グループの報告をうけて、FAO(国連食糧農業機関)が「食用昆虫―食用および飼料の安全保障に向けた未来の展望」を作成しました。

 牛、豚、鳥肉の生産に必要な飼料と、昆虫食の昆虫タンパク生成にかかる飼料の比率や環境負荷(炭酸ガス)などの比較において、昆虫タンパクの方が負荷が少ないことを根拠に、昆虫食を推奨しています。
 ベルギーでは2014年、トノサマバッタはじめ昆虫数種を食品として認可しました(昆虫を使ったハンバーグ販売)。

 昆虫食における生成過程の飼料は、発表された数値を仮に正しいとしても、かなりの量が必要です。グリラスは廃棄食物の利用によって食品ロスを減らすメリットをあげていますが、しかし、食品添加物や残留農薬の問題があるし、ゲノム編集魚のように生産量を増やすためにゲノム編集が用いられることで派生する、環境に与える悪影響は計り知れないと言わざるを得ません。

 現在では、肉牛、乳牛はほとんどが牛舎で飼料を与えられていて、鶏と同様に狭い場所で飼育されています。そうした飼い方ではない肥育、飼育方法があることをご存知でしょうか。それは山地酪農と呼ばれて、日本でも実践されています。またニュージーランドではグラスフェッドビーフとして知られています。

 農水省も、2022年6月24日にウェブサイト「放牧の部屋」で、耕作放棄地などの再生利用等推進するために、肉用牛放牧や放牧酪農の取り組みを下記のように推奨しています。

「放牧を導入することで、省力的かつ低コストな生産体系を実現することができます。また牛が運動することで足腰が強くなるなど健康な状態となり、繁殖牛においては分娩事故が少なくなります。」
「耕作放棄地などで放牧を行うことで、未利用な土地の景観保全につながります。」


 農水省が太鼓判を押して勧めている、こうした取り組みを着実に進めることで、今ほどの大量消費ではなく、有機農業や自然農、自然栽培を広げ、安全な農作物や食品を地域で生産し、学校給食をはじめ地域の人たちが等しく食べることのできる食料システムが実現されるべきだと思います。昆虫食だけでなく、伝統的で多様性に富んだ食を守るためにも、伝統種、在来種を守ることが大切だと思います。

 私達、食と農を守る会徳島は、ゲノム編集フリーゾーン運動、OKシードプロジェクトと共に遺伝子組み変え、ゲノム編集に反対しています。共に反対の声をあげましょう。

食と農を守る会徳島 代表柴田憲德

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参考資料
「日本における昆虫食の歴史と現状」
https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010590919.pdf

「食用及薬用昆虫に関する調査」
https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010826248.pdf

「現代の昆虫食の価値―ヨーロッパおよび日本を事例に―」
https://core.ac.uk/download/pdf/228878115.pdf

農林水産省:放牧の部屋
https://www.maff.go.jp/j/chikusan/sinko/shiryo/houboku/houboku.html

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