《連載》遺伝子組み換えユーカリを止めるためにブラジルへ(その1)

お知らせ

 OKシードプロジェクト事務局長の印鑰智哉が、5月下旬からブラジルでの「遺伝子組み換えユーカリ」の植林の調査に参加しました。
 ブラジルでは紙パルプの原料として、大規模なユーカリの植林が行われてきましたが、これは「緑の砂漠」と呼ばれ、生態系への影響、水源の破壊、生物多様性の激減、農村の働く機会の激減、農薬などによる汚染など大きな問題となっています。
 更に、今後このユーカリが「遺伝子組み換えユーカリ」に代わろうとしているというのです。この問題について、数回に分け連載でリポートします。

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 遺伝子組み換え樹木を止めるための国際キャンペーンから連絡があり、ブラジルで遺伝子組み換えユーカリの植林を止めるための行動を計画しているので、参加しないかという誘いを受け、5月21日から6月3日まで参加してきました。何が起きているのか、簡単に報告します。

 ブラジルをはじめとする南米でユーカリの広大な植林が行われています。用途は主に紙パルプの原料です。ユーカリはオーストラリア原産の木ですが、乾燥地域でも強い根によって大量の水を吸い上げ、短期間に成長するため、南米にかなり前から導入されていました。

 しかし、本格的な大規模栽培は1970年代頃から活発になります。この時期はちょうどブラジルでは軍事独裁政権が強権政治を行っていた時期でもあります。ブラジル各地で先住民族やキロンボーラと言われる奴隷主から逃亡して独立したコミュニティを作った黒人たち、また小規模農業を営んでいた小農を蹴散らして、そこに広大なユーカリ植林地が作られます。

ブラジルバイア州のユーカリ (c)Stop GE Trees、 Petermann (2011)
ブラジル・バイア州のユーカリ (c)Stop GE Trees Petermann (2011)

 それまで湖も川もあった地域にこのユーカリ植林が進められると、川の水位は下がり、干上がった湖も出るほど、水資源には大きな影響が出ますが、軍事独裁政権下ゆえ、抗議もできず、小規模農業を営んでいた農民たちも農業を諦めて都市に移らざるをえない状況が生まれました。
 従来の森林は多くの生物を養ってきました。しかし、それに対してユーカリ植林地は生物を養いません。というのもユーカリの葉には毒があり、それを食べられるのはコアラなどに限られます。またユーカリの根は他の植物が生えられないよう毒素をやはり出すため、わずかな雑草しか生えることができません。でも、その雑草を枯らすための農薬が撒かれます。ユーカリの林でもアリは厄介扱いされますが、そのアリを殺すための農薬が播かれ、周辺の環境を汚染していきます。
 農薬が広い植林地一帯に撒かれ、川も汚染し、魚も減っていきます。そのため、その地で狩りで生活をしてきた人びとは生きられなくなっていきます。
 また、ユーカリ植林企業が提供する仕事も数年おきに伐採するくらいで、広大な土地で本当にわずかな職しか提供しないのです。
 そのため、ブラジルではユーカリ植林のことを、「緑の砂漠(Deserto Verde)」と呼びます。砂漠のように人も生物も生きられない地域になってしまうからです。
 この状況については1991年からブラジルで調査を始めていました。日本政府はブラジルの軍事独裁政権に資金を出して、ミナスジェライス州でユーカリ植林とそのユーカリから紙パルプを作る合弁企業CENIBRAを作っています(NIはニッポンのNI)。1991年から1994年まで私はブラジルのNGO、IBASE(ブラジル社会経済分析研究所)で活動し、その日本の援助がもたらしたものを明らかにしようと現地の調査を行いました。その活動はブラジル在住の映像記録作家岡村淳さんの手で番組にまとめられました(1994年。YouTube)。

 こんな背景があり、この問題には前から追っており、何か動きがあるごとに、その進展状況を個人のSNSを通じて発信しておりました。2015年には成長を20%ほど加速した遺伝子組み換えユーカリが承認され、さらに2021年11月にはモンサントの農薬ラウンドアップ耐性の遺伝子組み換えユーカリがブラジル政府によって承認されるにいたり、いよいよ遺伝子組み換え樹木の大規模栽培が始まってしまうことに大きな危惧を感じていました。
 というのも遺伝子組み換え樹木は遺伝子組み換え大豆などの農作物よりもより大きな影響を環境に与える可能性があると指摘されているからです。大豆は耕作してから収穫まで数ヶ月に過ぎません。遺伝子組み換え生物として環境に露出している時間は樹木に比べればずっと短いのです。それに比べ樹木ははるかに長い時間、環境中に露出し続けます。そんな植林が広大な地域で行われたら、しかも、ブラジルという生物多様性の高い地域で行われたら、大きな環境被害を与えることは避けられません。

 現在、遺伝子操作樹木の研究は日本でも行われており、温帯でも育つ、あるいは塩分の高い地域でも育つユーカリ、また花粉症対策として花粉の出ない遺伝子組み換え杉が研究されています。もし、ブラジルで遺伝子組み換えユーカリの栽培が本格化してしまえば、日本でも始まる可能性があります。そして「ゲノム編集」による樹木も出てくる可能性があります。
 ユーカリは人間が食べるものではありませんが、環境に与える影響が大きいとなれば遺伝子組み換え大豆や「ゲノム編集」食品に反対するのと同様に遺伝子組み換えユーカリに対しても反対せざるをえないと考え、この行動に参加することにしました。

 その旅はブラジル往復だけで90時間近くかかり、さらに国内の移動に長い時間をかけるというものとなり、体力的な消耗も大きく、その疲れからまだ十分回復できていないのですが、この旅で得られた発見は大きなものがありました。以前、ブラジルで活動していたので知っているはずだと思っていたのに、以前は見えなかったものをこの旅で見ることができました。
 その発見を共有するために、これから何回かに分けて、その報告をまとめていきたいと思います。


Stop GE Trees キャンペーンのロゴ
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