【現役農大生の食の視座】第3回:「私たちの食べ物が食べたもの」 〜私たちが見失った食の根本を見つめなおす〜

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私たちのからだが食べたものでできているように、当然ながら私たちの食べ物も食べたものでできています。昨日の夕飯で食べた豚肉はどんな餌を食べて育ったのか、今朝食べたお米は誰がどんな風に育てたのか…現代社会でこうした食の生産の背景をしっかりと見えているという人は、どれだけいるでしょうか。
現役農大生の食のコラム連載、第3回は「私たちの食べ物が食べたもの」の重要性について綴ってくださいました。食べ物を通して、からだと土との繋がり、そして現代のフードシステムの問題を見つめます。

「私たちの食べ物が食べたもの」 〜私たちが見失った食の根本を見つめなおす〜

写真2:『土と脂』築地書房(2024年)

 大学に入学して東京に来てからは、自然食品店で売っている自然栽培や有機栽培の青果にお世話になっています。これらを作ってくださる農家の方々、そして自然の恵みに感謝しています。そんななか、デイビッド・モントゴメリー氏、アン・ビクレー氏著、片岡夏実氏訳の著書、『土と脂』を読みました。土壌と食の、複雑で深い関係を改めて実感しました。この著書で得た考え方を、私の思ったことに織り交ぜて論じたいと思います。

 「大学生は忙しい」、「食事に時間を費やしていられない」といった声を、私の通う大学内でもよく聞きます。見渡せば、菓子パンやコンビニのおにぎりを片手にパソコンやスマホに夢中の学生。「最近野菜を食べていないからコンビニの野菜サラダを食べる。野菜ジュースを飲む」と言いながら野菜を「食べた気」になる学生。加工食品の裏側の表示を見て「ビタミンCが○○mg入っている!」と喜ぶ学生。添加物には目もくれない。多くの大学生が、食への関心や知識を大幅に欠いているのではないかと心配しています。ご存じの通り、菓子パンやコンビニのおにぎり等は糖質の塊のようなもので、それらには不要な食品添加物が使われています。手軽に食べられるカット野菜は薬剤で漂白され、ビタミン等が損失しています。カット野菜に使用された漂白剤は表示義務がない(*1)ので、目を皿のようにパッケージを見ても、その使用を確認することはできません。加工食品に使われるビタミン等の(すべてでないにしても)多くは人工的に作り出されたものです。例えばビタミンAはほとんど化学合成で作られ、不純物の規格基準がありません(*1)。そもそもビタミンAは体内でβカロテンから変換されるものであって、植物には直接含まれていません。

 こういったことを知らずに、自然ではないものを食べ続けた若者は、将来どうなるでしょうか。栄養素の含有量の多さを強調した加工食品があまりに多すぎて、手っ取り早く、しかも可視化できる「栄養摂取」に依存する人が多すぎるように感じます。加工食品での「栄養摂取」が常識と化した今、『土と脂』が提示する情報や考え方は重要であり、多くの人が知るべきであると感じました。私が本書を読んで印象に残ったのは、「私たちの食べ物が食べたもの」という表現です。多くの人たちが、かつて私がそうであったように、「にんじんはにんじん、豚肉は豚肉」という認識だと思います。つまり、私たちの食べ物がどのようにできたのかまで考慮しない人が多いということです。しかし、私たちの食べ物である、例えばにんじんはどのように育てられたのか。農薬は散布したのか、化学肥料は施肥したのか? どんな土壌で育ったのか? 栽培した人の理念、思いとは? 例えば豚肉は、どんな餌を与えられたのか? 飼育方法はどういったものか? そういったことに思いを巡らせる必要があります。そのうえで情報開示は重要です。一般的なスーパーでは、農薬、化学肥料の使用状況や食肉の餌の情報などを知る手段は皆無といって差し支えないでしょう。この環境が、多くの消費者の食への関心を削いでいるのではないでしょうか。一方、ほとんどの自然食品店では、こうした情報のほか、どんな人がどんな思いで栽培、飼育したのか等の表記があります。まずは自分が食べたものに関心を持つことが重要でしょう。

 さらに、「私たちの食べ物が食べたもの」の重要性はこれにとどまりません。本書では、「ファイトケミカル」という物質が紹介されます。これは、植物が持つ防御成分の総称で、現在知られているだけで5万種あるといいます。ファイトケミカルはさまざまなストレス要因等の刺激によって植物内で作られ、土中や空気中に放出され、害虫や病原体の存在を周囲の植物に警告したり、それらから身を守ったりと、実に幅広い用途で使われます。例えば「スルフォラファン」や「レスベラトロール」といったポリフェノール類が挙げられます。ファイトケミカルは植物の繊維に多く含まれるため、腸内細菌叢の力によって繊維を分解しなければファイトケミカルの力が解き放たれません。このファイトケミカルを摂取すると、がん細胞を攻撃したり、組織や臓器の働きを正常に維持したりと、人体に対して極めて有用な働きをしてくれます。ただ、このファイトケミカルは、どんな植物にも豊富に含まれているわけではないといいます。特に、窒素肥料によって「甘やかされた」植物には、あまり含まれていないようです。

 というのも、植物は、植物の根と共生し栄養を運ぶ役割をする菌根菌や、窒素を固定する真正菌、古細菌などのさまざまな土壌微生物との共生関係の中で成長に必要な養分をやり取りしています(*2に詳述)。窒素施肥を行うと、植物が窒素「食べ放題」の状況になり、窒素固定土壌細菌を根圏に引き寄せ、維持するためにファイトケミカルを作り、送るといったことが必要なくなります。結果的に、自身の防御力であるファイトケミカルの生産が減少し、害虫や病原体に対して脆弱になります。こうなれば農薬への依存も確実になります。加えて、耕起によっても、菌根菌のネットワークを破壊してしまうため、同じように植物の防御力が低下する要因になるといいます。逆に、農薬や肥料に頼らない方法で栽培された野菜には、ファイトケミカルが豊富です。適度な栄養不足というストレスと、栄養をもらうための植物と土壌生物との活発なやり取りが、健康で強靭な野菜を育てているようです。どうやら、植物と土壌生物との複雑で実に巧妙なつながりによって植物は防御力を持ち、このつながりが切れない限りは農薬や化学肥料なしに健康に生きられるようです。このようにして育った野菜を食べることは、豊富なファイトケミカルを摂取することにつながります。さらにいうと、土壌が健康であることは植物の健康、それを食べる人間の健康にもつながっているというわけです。

 ファイトケミカルの重要性が紐解かれていくなかで、私たちが普段口にする食べ物のファイトケミカル含有量は減少しています。それに対し、「ではファイトケミカルを食品中に添加すればよいではないか」という声が聞こえそうですが、それは栄養をパーツで考えるときに落ちる落とし穴であることを同書は指摘しています。そして、栄養をパーツで考えず全体として見たとき、真なる循環が生まれることも読み取れました。それらを表す印象的な箇所を引用します。

─ファイトケミカルの病気予防効果は、新鮮なホールフードを組み合わせて食べることと、防御力をさらに高める腸内微生物叢の相乗効果に一部由来する。土壌の健康を回復して土壌生物を復活させ、それが作物を活性化すると、ファイトケミカルという多彩な植物由来の宝石を作る。これがヒトの健康を支える有望なやり方だ。

写真2:ファイトケミカルが多い有機緑茶と有機らっかせい

 人間は食べ物の強い匂いや苦みを取り除き、口当たりや食べやすさを追求した品種改良を行ってきました。しかしその過程で失ったものは、植物が作り出すファイトケミカルという「宝石」だったのです。圧倒的に不足したファイトケミカル摂取量は、私たちをがんや認知症などの慢性炎症由来の疾患の増加へと導きました。これからの人と地球の健康を考えるうえで、大切なのは自然と人体とのつながりではないでしょうか。昔から人は植物から直接、あるいは植物を食する動物から間接的にファイトケミカルをはじめとする必須の栄養をもらってきました。この重要で、しかし忘れられがちな事実を、再認識すべきだと思います。

 土と食と人の健康のつながりを無視した食品が多く流通し、食べものはその育てられ方の違いを考慮されず、「にんじんはにんじん、豚肉は豚肉」という考えのもと多くの消費者は食事をしていると思います。本書を読み、自然のダイナミズムに圧倒され、同時にこのシステムに対する興味がわいてきました。土壌を汚したり、遺伝子を操作したりして生命を傷つけると、それは必ず人間に返ってきます。自然の営みは、人間が理解し支配することができないくらいに複雑で、神秘的でもあります。人間が好き勝手してよい領域ではありません。食を通じて土壌と食べ物のつながりを意識することができました。そしてやはり、植物工場の必要性にも疑問符が付きます。自然の営みをまねできると思っているのでしょうか。電力は無駄に消費され、植物工場での生産にふさわしい品種の導入は必然です。今、「持続可能性」が間違った方向で認識され、若者の意識が向かうのは人工培養肉、ゲノム編集食品、植物工場、大規模養殖場などだと思います。日本政府もフードテックに重点を置いています。農林水産省は2025年12月25日、フードテック作業部会初会合を開き、「植物工場」「陸上養殖」「食品機械」「新規食品」の4分野で下部組織を設けました(『日本農業新聞』2025年12月26日)。これらフードテックの安直な拡大がいかに危険性を孕み、従来の産業の衰退とその重要な役割の損失を招くかを考えていかなくてはなりません。自らの食と健康を真剣に見つめれば、人工培養肉やゲノム編集食品、植物工場などは不要であり、むしろ有害であることに気づくでしょう。このことを、もっと若者に知って、考えてほしい。

参考文献
*1:小薮浩二郎監修『食品添加物小辞典』笑がお書房(2025)
*2:吉田太郎著『シン・オーガニック』農文協(2024)

[中尾晃大 プロフィール]
徳島県出身、東京農業大学在学。
好きな言葉:「食は命」
好きな食べ物:らっかせい
趣味:スニーカー鑑賞、読書、散歩
特に嫌いな添加物:加工でんぷん
人生を変えてくれた本:「コンビニ&スーパーの食品添加物は死も招く」(2014)小薮浩二郎著

 

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