タネの権利を奪うUPOVをSTOP! グローバルアクションデー 12月2日

UPOV条約問題
 UPOV(ユポフ)とは聞き慣れない言葉かもしれません。世界でタネが独占される動きが加速していますが、その背景にあるのがこのUPOVです。遺伝子操作されたタネではない、安心できるタネを守っていくためにも、タネをどのように守っていくのか、考えていく必要があります。今年も12月2日をSTOP UPOVを合言葉に世界各地をつなぐグローバルアクションデーとすることが提案されています。OKシードプロジェクト事務局長の印鑰 いんやく智哉が報告します。

UPOVとは?

 今、世界でタネを守る運動が急速に広がっています。この背景には、世界でタネが急速に危うくなっていることに対して人びとが危機意識を持って動き出しているということがあります。特にこの20数年、世界のタネは巨大企業に独占され、地域の多様なタネは姿を消していきました。世界各国の種苗政策、種苗関連法も次々に変更され、従来使っていた地域のタネが使えなくなり、タネの多様性も急速に失われています。日本の種苗法改正も、この流れで理解する必要があります。

 この動きの基軸となっているのがUPOV(植物の新品種の保護に関する国際同盟と条約)です。UPOV条約は、国連が作った条約ではなく、大きな種苗企業を中心とする民間企業が作った国際条約で、開発者の種苗の知的財産(育成者権)を守るために作られました。UPOV条約に加入すると、UPOV条約事務局の指示の下で種苗法を整合性あるように変えることが義務付けられます。


UPOV加入国数の推移

 このUPOV条約は1961年に作られますが、先進国の少数の種苗企業を利するだけなので、不人気で、30年近く経った1990年になっても批准国はわずか20カ国に過ぎませんでした。しかし、1991年にUPOV条約の大幅改定が行われ、育成者権の権限が大幅に強化されます。そして、この1990年代後半には遺伝子組み換え作物が登場する段階になると、UPOV条約の制定を世界各国に強いる動きが強まりました。自由貿易協定の制定がこの時期、世界各地で締結されていきますが、その時に先進国は自由貿易協定の締結の条件にUPOVへの加盟を義務付けていきました。南の発展途上国でも農産物輸出を促進する必要からUPOV条約を受け入れるところが増えました(グラフと地図参照)。日本でも大問題になったTPP(環太平洋パートナーシップ協定)でも、TPPに参加する国はUPOV条約を批准し、批准国はその国の種苗法を改正することが義務付けられることになります。

UPOV条約に加入した国 © APBREBES:apbrebes.org

 地図上で赤く塗りつぶされた国がUPOV1991年条約の加入国です。緑の国は種苗の育成者権(知的財産権)が強化されたUPOV1991年条約には加入してせずに、その前の1978年条約に加入している国です(新たな加入する国は1978年条約には加入できませんが、元からUPOV条約に加入している国は新たな1991年条約に加入しないままでいることが可能です。日本は1982年に1978年条約を、1998年にはUPOV1991年条約に批准し、同年に農産種苗法を種苗法として法改正を行い、さらにUPOV条約に沿った改定を2020年に行いました)。

UPOVは種苗セクターを衰退させる

 「タネの新品種を作った企業の権利を守ることは当たり前のことで、UPOVの規定は当たり前のこと。種苗法を変えることも不可欠だ」と言う方もおられるでしょう。しかし、本当にそうでしょうか?

 そもそもタネは人類の歴史と共に発展してきました。その間、農民がタネを選び、タネを採り、それを次の耕作につなげてきたから現在のタネがあります。大きな種苗企業と言えども、長い間の農民の営為の成果を少し変えたに過ぎず、農民の貢献なしにタネを作ることはできなかったわけなので、国連の食料・農業遺伝資源条約(ITPGR)にも農家はタネを作り出した最大の貢献者であることが明記されています。その貢献ゆえ、農民にはタネに関する特別な権利が認められ、一国のタネの政策を決める際には、農民がその政策決定に参加する権利を各国政府は認めなければいけないとされています(ITPGR前文および第9条)。

 種苗産業が発展するにはその種苗を買う買い手が重要になります。それは他ならぬ農民なのですから農民と種苗企業は持ちつ持たれつの関係にあります。それゆえ、農民が農業を継続することすら困難になるような事態になってしまえば、それは種苗企業にとっても由々しきことになります。ですので、種苗政策では種苗の売り手と買い手である、企業と農民の権利のバランスを保つことが重視されてきました。しかし、それを一変させてしまったのがUPOVです。一方的に種苗企業の権限ばかりを強くしてしまえば、このバランスは壊れてしまいます。

 また、タネにはその地で育った経験も記憶されます。その地で自家採種することはその地にあったものへとタネを適応させていくことでもあります。特に有機農業などでは自家採種によって、土壌にあったタネに変えていくことが重要と言われます。市販されているタネの多くは化学肥料や農薬を使って作られていますので、有機栽培することによって、初めて有機栽培に適したタネが得られることにもなります。しかし、そのタネの自家採種が禁止されてしまえば、有機農業に適したタネを得ることもできなくなってしまいます。

 そして、育成者権を強化し過ぎることは種苗産業の育成にもマイナスの影響を与えることがわかっています。特に米国や日本では通常の育成者権に加えて、工業的発明に適用される特許権も種苗にも適用されることになっています。日米では種苗は育成者権と特許権の二重適用が認められています。
 このうち特許権には育成者権以上に強い権限が認められます。育成者権の制約がかけられている種苗でも新品種を開発するために自家採種することは認められています。つまり、既存の登録品種を使って、新しい品種を作ることは可能です。しかし、ひとたび特許がかけられると、その特許権者からライセンスを得ない限り、新品種を開発することもできなくなります。そのため、新品種を開発するためにかかる手間とコストが飛躍的に大きくなってしまい、大きな種苗企業以外、新品種を作れなくなってしまいます。中小の種苗企業は姿を消し、大きな種苗企業にとっても数多くの新品種を作ることは困難になります。実際に米国や日本での品種開発数は近年、他の地域に比べてはっきり停滞してしまっています。
 UPOVやさらには特許法などを使って、種苗開発者の知的財産権を強めすぎると、種苗産業はむしろ停滞し、打撃を受けてしまうのです。これから種苗産業を強化していこうとする国にとってUPOVや種苗への特許制度の導入は、その国の種苗産業を発展させる素地を破壊し、種苗を外国からの輸入に頼らされる事態を生みかねません。
 そして、先進国にとっても、数少ない種苗企業によって市場を独占され、数多くの種苗企業が姿を消し、多様な品種を選ぶことはできなくなってしまい、産業の競争力も落ちてしまうのです。

 UPOVは民間企業が作った取り決めに過ぎず、国連加盟国にはWTOのTRIPS協定があり、UPOVがなくとも問題なく貿易も可能であることが指摘されています(TRIPS協定にも問題はありますが、少なくとも各国の独自の種苗システムを尊重している点でUPOV条約よりも優れています)。そのためUPOVは不要であるという声が世界で強まっています。
 タネに関しては国連には食料・農業遺伝資源条約や生物多様性条約、小農と農村で働く人びとの権利に関する国連宣言などでも詳しく規定されており、UPOV条約はこれらの国連の条約・宣言と矛盾していることも指摘されています。

UPOVに声を上げる世界の農民

 このUPOVの南の国への押しつけは21世紀初めから本格的になり、2010年代にはラテンアメリカ各国で大きな騒動となり、現在も継続しています。そして近年、アジア、アフリカ諸国でも大きな問題になっています。
 コロンビアでは米国との自由貿易協定の締結にともない種苗法改正や農産物認証法が改定され、その結果、登録された品種以外のタネを使った農産物は市場で売ることができなくなりました。品種に登録するには高額の費用と手間が必要となり、国内産のタネのほとんどは登録されておらず、登録されているのは外国企業によるものばかりで、外国企業のタネを買わない限り、農業できなくなることになり、全国的な反対運動が展開されました。
 アルゼンチンではミレイ新政権によって包括的な法律の改正が進められており、種苗法改訂はそのパッケージの中の一つです。ミレイ政権はその前提となるUPOV1991年条約への加入を進めています。すでにアルゼンチンはUPOV1978年条約には加入していますが、この条約の下では登録品種の自家採種は認められており、アルゼンチンでは広く自家採種が農家によって行われています。1991年条約への変更によって、このほとんどが禁止されることになると考えられ、アルゼンチンではUPOV1991年条約への加入と種苗法の改正について全国的な反対運動が起きています。  アジアでも特に東南アジア諸国にその圧力が強められており、その地域での反対運動が強くなっており、フィリピンでは今年の夏に反UPOVのキャンペーンが繰り広げられており、インドネシア、マレーシア、ミャンマーでも農民たちの間の大きな懸念になってきています。

 現在、このUPOVの押しつけの焦点となっているのがアフリカと言えるでしょう。現在、チュニジア(2003年)、モロッコ(2006年)、African Intellectual Property Organization(2014年)、タンザニア(2015年)、ケニア(1991/2016年)、エジプト(2019年)、ガーナ(2011年)がUPOV1991のメンバーとなっていますが、それと同時に遺伝子組み換え作物の導入などをめぐる圧力も多くの国で問題になっています。
 これらの国々に加え、ケニア、ザンビア、ベニンでUPOV1991への圧力が高められています。

危うくなる世界の食料保障・生物多様性

 これまで世界各地で多様な農作物が耕作されてきました。しかし、種苗企業の独占と、グローバルな貿易を優先する先進国の政策によって、急速に地域の多様な農作物がグローバルな品種への置き換えが進んでいます。UPOVへの加入が進めば、先進国のわずかな種苗メジャー企業にとっては市場が拡大し、その利益も多くなりますが、各国の独自の食文化は失われ、農業生物多様性は大きく失われることになるでしょう。
 気候変動が激化する中、このような生物多様性や多様な食文化が失われることは人類にとって、由々しきことであると言わざるをえません。また、農民が従来の生産手段を失うことで、食料保障も危うくなり、さらに大きな食料危機が生み出されることも懸念されます。

問われる日本政府の姿勢

 世界各地でUPOVに対する反対の声があがっている中、このUPOVをもっとも推進している国はどこかというと、それは日本だと言われています。実際に日本政府は東アジア植物品種保護フォーラムを主催し、毎年、年何回もワークショップを開いて、農水省やJICAの職員が各国政府にUPOVに向けた準備を進めるように働きかけており、それによって、各国の農民団体からは彼らのタネが奪われる(使えなくなる)ことに懸念の声が上げられています。
 公金を使って、アジアの農民の状況を厳しくしていくことは果たして私たちが求めていることでしょうか? 国会でそうすべきだという議論がなされて、それに基づいて行われているのでしょうか? 残念ながら、こうした活動を根拠付ける法的根拠はありません。日本は食料・農業遺伝資源条約を批准しており、同条約が定める農民の権利を遵守することが求められていますが、そちらの方はほとんど無視されているのが現状です。
 日本国内でも十分な論議のないまま種苗法が改正されてしまいましたが、さらにアジア各国政府にもその法改正を実質的に求めていると言わざるを得ない状況ですが、どちらも主権者を無視した動きであると言わざるをえません。
 そして、このような政府の政策の下で、日本の種苗セクターは毎年、縮小を続けています。現在の日本の種苗政策は国内の農家や種苗会社の発展をもたらしていないのです。今、立ち止まり、こうした政策を抜本的に見直す時期に来ています。

危うい日本のタネの権利

 日本国内で、果たしてタネの権利は守られているでしょうか?
 米・麦・大豆の優良な種子の生産についての行政の責任を規定した主要農作物種子法(種子法)は2017年に廃止が決まり、育成者権を強化する種苗法も2020年に改定が決まりました。種子法廃止後も道府県は種子条例や種子要綱を作り、以前とほぼ同様に種子を作り続けているとされています。それで現在は安心と言えるでしょうか?
 実は、日本には国連で規定される農民の種子の権利を守るための法制度も政策も存在していません。たとえばみどりの食料システム戦略では有機農業を2050年までに25%に拡大させる政策が打ち出されましたが、それでは有機の種子生産に向けた政策はどうでしょうか? 何もありません。
 そんな中、もし、地方自治体の首長がお米の種籾をすべて「ゲノム編集」にすると決めたとしたら、どうでしょうか? その決定の前に農家に相談はあるでしょうか? 実際に、秋田県が「あきたこまち」の種籾を重イオンビーム放射線育種の「あきたこまちR」に変えることを決めた時も、農家への説明はまったくありませんでした。そして農家が従来の「あきたこまち」の種籾の提供を求めても、それは秋田県は応じません。国連の条約ではそうした決定は農家が参加する権利があり、政府はその権利を保障する必要があると書かれているにも関わらず、日本の法制度はそうなっていないのです。つまり、農家にはタネの決定権、近年、国際的に重視されるようになってきた種子主権が日本には存在しない状態になっていると言わざるをえません。これは日本における食料保障・食料主権を危うくするものです。
 今こそ、わたしたちがタネを決定できる権利を求めて、政策を変える時がきています。

12月2日はUPOVにノー・グローバルアクションデー

 今、世界の農民組織、市民組織は連携を強め、このUPOVの動きを止めるために連携を深めています。OKシードプロジェクトもこの議論に参加し、日本からの情報発信も強化し、各国の対話を深めています。

 その中で、今年は12月2日をUPOVにノー・グローバルアクションデーの日と定め、世界中でUPOVに対して反対の声を上げることが決まりました。

 日本からもこの日、UPOVへの反対の声を上げると共に、日本政府に対しても、東アジア植物品種保護フォーラムのあり方やアジア諸国に対するUPOVの押しつけをやめることを求める声をあげていきたいと思います。

使われる予定のハッシュタグ #STOPUPOV, #NoUPOV, #DefendFarmersSeed, #OurSeedsOurLife

参考資料

What is wrong with UPOV? 10 answers to 10 key questions
https://www.recht-auf-saatgut.ch/wp-content/uploads/2024/05/FAQ_UPOV_EN_def.pdf

Booklet | UPOV: the great seeds robbery
https://grain.org/en/article/6644-booklet-upov-the-great-seeds-robbery

Trade deals pushing UPOV: an interactive map https://grain.org/en/article/6768-trade-deals-pushing-upov-an-interactive-map

Argentina’s Seed Law https://moellerip.com/the-moeller-blog/argentina-seed-law-upov-change/

The Potential Impact of UPOV 1991 on the Malaysian Seed Sector, Farmers, and Their Practices https://www.apbrebes.org/sites/default/files/2023-07/Potential%20Impact%20UPOV%20Malaysia_fin.pdf

The reasons why Indonesia should not (be forced to) join UPOV
https://www.apbrebes.org/sites/default/files/2022-04/BriefingPaper_EN_The_reasons_why_Indonesia_should_not_join_UPOV.pdf

The EU’s push for intellectual property rights on seeds and its impact on developing countries
https://www.apbrebes.org/news/eus-push-intellectual-property-rights-seeds-and-its-impact-developing-countries

StopUPOV group
https://web.facebook.com/groups/904253430508472

ZAAB no to UPOV
https://zambianagroecology.org/no-to-upov/

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