NEWS!! ゲノム編集ヒラメの販売はじまる
原野好正(OKシードプロジェクト副事務局長)
■「上市未定」だったゲノム編集ヒラメが販売開始
2024年10月10日現在、消費者庁(※1)に届出されているゲノム編集食品は6品目あります。そのうち動物はマダイ(可食部増量)・トラフグ(高成長)・ヒラメ(高成長)の3品目で、開発・生産・販売をしているのはいずれもリージョナルフィッシュ社です。
2024年9月17日、同社のウェブサイトに「ECサイトをリニューアルし、『22世紀ひらめ』の販売を開始しました」というリリースが掲載されました。
リージョナルフィッシュ社のECサイト「リージョナルフィッシュオンライン」では、リニューアル前にはゲノム編集マダイ(商品名「22世紀鯛」)とゲノム編集トラフグ(「22世紀ふぐ」)の販売が行われていましたが、新たにゲノム編集ヒラメ(「22世紀ひらめ」)が追加されていました。
このゲノム編集ヒラメが厚生労働省(※2)に届出されたのは、2023年10月のことです。そのときに公開されていた情報では、「上市未定」となっていました。つまりいつから販売する予定なのか、決まっていなかったようです。
ところが前述のリリース公開後に消費者庁のウェブサイトを確認すると、上市年月が「2024年4月」と記さされていました。この変更の届出がいつ行われて、一覧表の修正がいつ行われたのかは不明です。
■“満腹感”を知らないゲノム編集ヒラメ
このゲノム編集ヒラメは、すでに販売されているゲノム編集トラフグと同様に、ゲノム編集技術によってレプチン受容体遺伝子を欠損させたものです。つまり、レプチン受容体が体内で生成されないように、遺伝子を操作されています。
「レプチン」とは体内で分泌されるホルモンの1つで、「レプチン受容体」とはその名の通り、レプチンをキャッチするアンテナのような働きをしています。
レプチンは、体内に脂肪やエネルギーが蓄積されているときに分泌されます。たとえば、食事をして充分な量のエネルギーが摂取されると、レプチンがたくさんつくられます。レプチン受容体でレプチンをキャッチすると、脳は「満腹」を感じるといわれています。そのため、レプチンは、別名「食欲抑制ホルモン」とも呼ばれています。ヒトでも、なんらかの原因でレプチン受容体の働きが抑制されると満腹を感じにくくなり、そのために肥満になることがわかっています。
さて、このゲノム編集ヒラメやゲノム編集トラフグは、人工的にレプチン受容体を欠損させています。そのため、どれだけ餌を食べても「満腹感」を感じることがなく、いつまでも餌を食べ続けます。その結果、ゲノム編集をしていない正常な魚と比べると早く成長する、と開発者は主張しています。
つまり、ゲノム編集ヒラメは、満腹を感じることなく成長するのです。
■どこで生産・養殖されているのか?
農林水産省に提出された情報提供書には、陸上養殖施設で飼育して、施設内で活き締めにして出荷するとあります。
では、その養殖施設はどこにあるのでしょうか?
リージョナルフィッシュ社のECサイトの商品説明ページには、養殖地や原材料などの情報が記載されていません(2024年10月10日現在)。そのため、どこで養殖されて、どこで加工されているのかわかりません。
心配なのは、このゲノム編集ヒラメを食べてどのような影響があるのか、あるいはないのかという食の安全の問題だけでなく、たとえば災害などで養殖施設が壊れてゲノム編集ヒラメが環境中に放出された場合に環境に影響がないのかという、生物多様性への影響も気になります。情報提供書では「施設内で活き締めにして出荷」と記載されていますが、稚魚や幼魚の移送はほんとうに行われていないのかも心配です。
今後、この問題についても調査していきたいと思います。
※1・※2:食品衛生基準行政は厚生労働省が管轄していましたが、2024年4月1日から消費者庁に移管されました。それに伴い、ゲノム編集食品の「届出」や「事前相談」などの業務も厚生労働省から消費者庁へと移管されました。
《関連情報》
[消費者庁]ゲノム編集技術応用食品及び添加物の食品衛生上の取扱要領に基づき届出された食品及び添加物一覧
[農林水産庁]情報提供書が提出された農林水産物の一覧
[厚生労働省]ゲノム編集技術応用食品及び添加物の食品衛生上の取扱要領に基づき届出された食品及び添加物一覧