2025年3月8日、京都府宮津市において、市民団体「宮津∞⻨のね宙ふねっとワーク」(以下、麦ふね)が主催する記者会見が開かれました。そのテーマは同市に養殖場を持つリージョナルフィッシュ社(以下、RF社)が麦ふねの共同代表に対して2023年12月以来、4回にわたり、書簡を送りつけ、同団体が展開した署名活動の内容などが、同社に対する名誉毀損行為、信用毀損行為、業務妨害、著作権侵害行為などにあたるとして、止めなければ法的手続きを取るとしてきたことについてでした。
RF社が行っているゲノム編集魚の養殖については、これまでもOKシードプロジェクトをはじめ、さまざまな団体が懸念を表明してきています。ゲノム編集によって特定の遺伝子を破壊することによって、自身の成長を制御できなくなった魚を作ることは、環境面の懸念や食品としての安全面の懸念もさることながら、ドイツの研究団体からはアニマルウェルフェアに抵触する「拷問養殖」にあたる、という批判がすでにされています。
しかし、宮津市は2021年12月から、同社のゲノム編集トラフグをふるさと納税の返礼品に採用し、同社の事業の支援に乗り出しました。
そこで、麦ふねは返礼品への採用を宮津市が再検討することを求める署名活動を展開し、1万6000を超す署名が宮津市長に提出されました。残念ながら宮津市長はその訴えに応えて、ゲノム編集トラフグを返礼品から取り下げるどころか、トラフグに加え、昨年末にゲノム編集マダイも新たに返礼品に追加しました。
RF社の事業にはさまざまな懸念があるため、これまでさまざまな市民が情報公開と対話を求めて、働きかけてきました。しかし、同社からは情報公開がなされることがないまま、宮津市だけでなく、京都府からも4000万円の補助金や水産事務所による養殖技術の指導などによる支援が行われ、さらには農水省・経産省などからも高額の補助金が提供されています。
このような事態の中で、2023年12月にRF社の代理人弁護士事務所から麦ふねの共同代表の井口さん、矢野さんにそれぞれ、同団体の活動に対して名誉毀損などを理由に、SNSの投稿削除や訂正、謝罪を要求する書簡が届いたのです。
同弁護士事務所の主張には、合理的な根拠がなく、まっとうな市民の声を封じるこめようとする威嚇であると、OKシードプロジェクトは受け止め、宮津∞⻨のね宙ふねっとワーク、日本消費者連盟、遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーンをはじめとする全国の市民団体や生協などと共に、2月21日、衆議院第1議員会館において、院内集会を開催し、分子生物学者の河田昌東さんによるRF社のゲノム編集魚の科学的な問題点をはじめ、同社の事業の問題点をさまざまな角度から検討しました。動画「ゲノム編集魚は安全でサステナブルなのか?〜リージョナルフィッシュ社への公的支援のあり方を問う院内集会〜」https://www.youtube.com/watch?v=XI2bEn22lew
そして、その検討を元に、3月8日、宮津市にて麦ふねが記者会見を開催し、同団体共同代表の井口Nocoさん、矢野めぐみさん、そして弁護士の上林惠理子さんと共にOKシードプロジェクト事務局長の印鑰智哉が、参加しました。
写真:左から、矢野めぐみさん、井口Nocoさん、上林惠理子さん。 写真は©Nocoさんから(冒頭の写真も)
井口Nocoさんは、RF社のゲノム編集マダイの写真を見た宮津の漁師が「これはマダイじゃない」と言い切ったエピソードを紹介しました。自然なマダイの姿とゲノム編集マダイとはまったく形が別物だというのです。NocoさんたちはRF社に対しては何度にもわたり、対話を求めてきたのに拒否されてきたと言います。そして、NHKなどの報道でも使われている言葉を使って、Facebookなどで表現しただけで、いきなり、企業の弁護士団から名誉毀損などで訴えられたことへの衝撃とその不当さを語りました。
ゲノム編集技術CRISPR-Cas9でノーベル化学賞を受賞したジェニファー・ダウドナ氏は新聞記事のインタビューで、「この技術が生物兵器をつくり出すこともありうる、だからこそ、企業や市民が開かれた議論をして、この技術のあり方を決めていかなければならない」と語っていることを井口さんは紹介しました。対話を拒否して、いきなり普通の市民の情報発信に対して、法的手段を取ると脅す同社のあり方はダウドナ氏の提案するあり方とあまりに異なるものであり、今後の日本社会の問題としてこの問題を考えていくためにも、同社の姿勢を変えさせていく必要があるのでは、と問題提起しました。
詳しい内容は動画でご覧ください。
00:00 | リージョナルフィッシュ株式会社の問題/印鑰智哉(OK シードプロジェクト事務局⻑) |
26:59 | 宮津∞⻨のね宙ふねっとワークからの報告/井口 NOCO (⻨ふね共同代表) |
1:08:10 | 矢野めぐみ(⻨ふね共同代表) |
1:12:39 | 上林惠理子(弁護士) |
1:18:26 | 記者からの質問 |
1:31:56 | 参加者からの質問 |
この記者会見は現地では京都新聞、毎日新聞の記者の参加、そして、オンラインでは70名超のメディアや市民の参加で行われ、京都新聞、毎日新聞、長周新聞がその記者会見を報じています。
京都新聞 「ゲノム編集魚」を名誉毀損と「損害賠償請求を検討」 京都府北部の市民団体に企業が文書送付(2025年3月9日)
毎日新聞 ゲノム編集フグ反対 宮津の団体訴え 「市民活動 萎縮させる」/京都(2025年3月13日)
長周新聞 「訴えるぞ!」のゲノム編集界隈 「名誉毀損」かざし市民恫喝 京大ベンチャー・リージョナルフィッシュ社 情報公開や対話は拒否(2025年3月22日)
OKシードプロジェクトは今後も宮津∞⻨のね宙ふねっとワークや全国の市民と共に、リージョナルフィッシュ社の事業のあり方、そしてゲノム編集食品のあり方について、問い直す活動を続けていきます。(文章:印鑰智哉、写真:井口Nocoさん)