「あきたこまちR」問題の1つに、重イオンビーム利用の放射線育種技術を「有機JAS」認証して「問題ない」とした「有機」認証問題があります。
このほど、有機JAS登録認証機関15機関は、2024年11月7日に下記の「取り下げ要求」を農林水産省および関係機関に提出しました。これは、有機JAS登録認証機関のNPO法人有機農業推進協会(本城昇理事長、外園信吾事務局長)、NPO法人ASAC(エイサック)(岩泉好和理事長)などの呼びかけで行われました。
また、11月11日には、定例の有機JAS登録認証機関向けの(独)農林水産消費安全技術センター(FAMIC)の説明会でも、有推協・外園事務局長この件について発言をしました。
以下は、要求の要旨です。
要望書はこちらからダウンロードできます。
「重イオンビーム技術を利用した品種・種苗を有機JASで認めないことについての要望」要旨
農林水産省は、2024年7月改訂の「有機JAS」の「Q&A」に新設した問10-10で、「放射線育種」で開発した種子(品種)の使用を「有機JAS」認証で認める見解を公表しました。
しかし、日本が加入するWTOのTBT協定で整合性をとるべきコーデックス有機ガイドラインを参照すると、遺伝子操作技術を禁止する理由と同じ理由で、放射線育種も禁止する技術に該当します。
すでに農林水産省は、2019年12月に、「有機JAS」でゲノム編集技術についても禁止技術とするために、それまで有機JASでは「組換えDNA技術」だけの禁止規定であったものを見直し、コーデックス有機ガイドラインに準拠して「遺伝子操作・組換え技術」とし、その定義を「交配又は自然な組換えによって自然に生じることのない方法によって遺伝物質を変化させる技術(組換えDNA、細胞融合、ミクロインジェクション、マクロインジェクション、被包化、遺伝子欠失、遺伝子の倍加等を含み、接合、形質導入及び交雑等を除く。)」とする改定案を日本農林規格調査会(審議会)に提案しています。
ただし、この調査会での改定案は、提案自体は了承されたうえで、2020年8月31日の調査会で継続審議となり、そのまま4年以上も棚上げにされた状態となっていることから、今回は不十分な従来の規定の「組換えDNA技術」だけを参照したので、それに「該当しない」ということで「問題ない」旨の結果が出されたのです。
また、農林水産省は、2024年9月30日にOKシードプロジェクト等が開催した「あきたこまちR」問題院内集会でのこの件についての事前質問に、「放射線照射によって生じる遺伝物質の変化は、自然に生じることのあるものであることから、放射線照射による育種は、コーデックスガイドラインにおいても禁止されていないものと承知しております」と回答しています。
しかしこの回答は、自然突然変異と人為突然変異を区別していません。放射線育種という技術を使ったかどうか、その過程(プロセス)そのものをみる必要があります。農林水産省の「答」は、結果の新品種(成果物、プロダクト)だけを見て、本来あるはずの遺伝子(の一部)が突然変異で欠失しただけだ、突然変異は自然界でも起きると述べていて、その技術の使用の有無を捨象しています。
なお、この論法は、一般食品において、ゲノム編集応用食品の規制を任意の届け出だけにしている時の説明と同じです。他方、「有機」では、ゲノム編集技術については、そのプロセスをみて(プロセスベースで考えて)、他の遺伝子操作技術(例えば組換えDNA技術)と同様に禁止技術としているわけです。この2つの取り扱いにおける整合性もありません。
科学的にみても、自然突然変異と人為突然変異には違いがあります。また、放射線育種であってガンマ線利用と重イオンビーム利用の違いについても、植物の遺伝子への作用に違いがあります。なお、農林水産省(農林水産技術会議事務局)はガンマ線利用と重イオンビーム利用の放射線育種技術の違いについて、「高頻度にDNA損傷を生じさせる」と、突然変異が誘発される度合いが違うと回答しています。
重イオンビーム利用の放射線育種は、大掛かりな加速器の装置を使って重イオンビームを種子に照射して直接的に遺伝子、つまりDNAの二重螺旋構造の二本鎖を一挙に切断、損傷させるので、突然変異の頻度が格段に高まるのです。生活環境(地上)にそうした強力な粒子線(放射線)はなく、人が手を下すことで遺伝子の欠失(特定の機能の逸失)を高頻度に引き起こすことは他の遺伝子への影響を伴うものになります。
農林水産省の「Q&A」問10-10の新設は、「コシヒカリ環1号」や「あきたこまちR」の実用化の動きを想定したものです。そもそも、放射線の農業利用は、1950年代の「原子力の平和利用」としてアメリカで主に軍事利用を目的に始まり、日本では1950年末から国の政策としてガンマ線による放射線育種が始められました。1966年に最初のガンマ線利用の放射線育種の品種「レイメイ」が開発され、それは冷害に強い「ふじみのり」を母体とした短棹性(背丈が低く、倒伏しにくい)の稲であったことから、もっぱらその農業上の有用性が強調され、東北地方では1970年代にはかなりの作付けが行われました。その後も、その後代交配種は多数の品種にのぼっています。
なお、重イオンビーム利用の放射線育種の実用化は始まったばかりで、“日本が世界に先駆けて”行っており、特に主食の稲(米)で実用化する例は外国では見当たりません。日本は、有機生産・加工の世界標準の原則に則って、「有機JAS」で世界をリードし率先してこれを使用禁止技術とすべきです。
農林水産省は、「有機JAS」について、まずはゲノム編集技術を、種子(品種)などを原材料等に使用しないこと(禁止技術とする)を早急に正式に決定するとともに、放射線育種(特に重イオンビーム利用)を禁止技術と定め、「問10-10」を「Q&A」で公表した見解を取り下げるべきです。
直ちに取り下げるよう、要求しましょう。
註:
※1:【NEWS!!】「あきたこまちR」問題院内集会 署名提出と7つの問題を指摘https://v3.okseed.jp/news/5488
※2:「有機農産物、有機加工食品、有機畜産物及び有機飼料のJASのQ&A」https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/attach/pdf/yuuki-480.pdf#page=57
※3:「有機的に生産される食品の生産、加工、表示及び販売に係るガイドライン CAC/GL 32-1999」
https://www.maff.go.jp/j/syouan/kijun/codex/standard_list/pdf/cac_gl32.pdf