現役農大生の食のコラム連載、第6回は「第3回 全国オーガニック給食フォーラムin小山」に現地参加した中尾晃大さんからのレポートです。
「ふゆみずたんぼ」による生態系復活から始まった小山市の挑戦を切り口に、登壇した農水省・文科省の発言や新育苗法をめぐる問題点、分科会で語られた「アグロエコロジー」の実践まで深掘りし、子どもたちの未来と地域社会を耕す「公共政策としての給食」のあり方を考えます。
『オーガニック給食』を考える~未来の食育の在り方~
今回は、2026年7月25日、26日に栃木県小山市で開催された「第3回 全国オーガニック給食フォーラムin小山」に現地参加して思ったこと、考えたことを書いてみようと思います。
オーガニック給食といえば千葉県いすみ市が有名だと思いますが、今回「オーガニック給食フォーラムin小山」に参加し、栃木県が農業を通じて環境に配慮した取り組みを行っている詳細について知ることができました。2012年7月、渡良瀬遊水地が水鳥の生息地を中心に国際的に重要な湿地を保全・適正利用するための国際条約「ラムサール条約」で「ラムサール条約湿地」に登録されてから、渡良瀬遊水池でのトキやコウノトリの定着、繁殖を目指し、その餌となる生き物を増やすため、小山市は「ふゆみずたんぼ」の取り組みを行ってきたそうです。
「ふゆみずたんぼ」とは冬季湛水とも呼ばれ、稲刈り終了後、代かきをし、田んぼに水を張り、冬から春にかけ水を貯めておくことで稲の切り株やワラなどが水中で分解され、微生物や藻が発生し、それらを餌とするイトミミズやユスリカ等のほか、ドジョウやカエル、小魚など様々な生き物が田んぼに集まり、豊かな生物環境を作ることをいいます。
(*1を参考)
その後、2020年7月に初めてコウノトリのペアが遊水地で生まれ、そこから毎年コウノトリの繁殖が続いているといいます。2021年に政府が策定した「みどりの食料システム戦略」を受け、「ふゆみずたんぼ」の取り組みを広げて有機農業の拡大に舵を切り、小山市は2023年にはオーガニックビレッジ宣言を行い、有機農産物の普及には学校給食を活用するのが一番だとし、オーガニック給食普及への取り組みが始まったといいます。給食への調達という安定的な有機農産物の需要があれば、生産者のインセンティブにもなり、地域のこどもたちにも喜んでもらえるといった利点もあります。
オーガニック給食と聞くと「こだわりの給食」や、「本当にそこに予算は必要なのか」といったイメージ、考え方が出てくると思います。しかしこのオーガニック給食フォーラムでは、有機農産物をこどもたちに食べさせたいという単なる食の安全・安心のためだけではない強い思いを持つ登壇者たちが、参加者とともに思いを共有し、これからのオーガニック給食のビジョンを示す重要な機会となりました。その内容と、私が考えたことを紹介していきます。
給食という貴重な「生きた教材」をどう活かすか
オープニングセレモニーで来賓のあいさつがあり、それぞれの思いをお話されていましたが、印象に残った言葉があります。それは、栃木県選出参議院議員の上野通子さんの、「こどもたちが食を学び食に感謝することで、食を作る当事者を育てていくことにオーガニック給食の意義がある」というお話です。ここでいう「食を作る当事者」とは、私の解釈では、単に生産者を指すだけではなく、食の選択に責任を持つ人、食の重要性を伝える人など多様なステークホルダーを含めているように思います。
私の経験上、給食は単なるエネルギー補給でしかありませんでした。出されたものを「おいしい」と言って食べるというのも重要ですが、この食べ物はどこからきているのか、誰がどんな思いで作っているのかがわからなければ、「食と私」の関係が見えにくくなり、食への感謝など芽生えないと思います。さらに踏み込むならば、自分たちで自分たちの給食の食材を育てたり、調理したりすることでさらに食への関心が高まると思います。私が小学生の頃は、徳島県で有名な鱧(はも)の料理が出されると、鱧に関するビデオを見ながら食べるなどしましたが、現地に足を運んだり、実際に見たり触ったりという経験は皆無でした。しかし、教科の中に食の現場に触れられるような内容を盛り込むことで、「食を作る当事者」を育てられると思います。
加えて、給食費の原材料高騰から、量や質を落とさざるを得ないなどの事態が起きており、こどもたちの給食の質は下がってきていると言わざるを得ないと思います。しかし給食は「生きた教材」であり、こどもたちの食への価値観を育む重要なものであるため、予算の問題で質や量を落としてしまうことはあまりに副作用が大きいと思います。今回のオーガニック給食フォーラムでたびたび出てきた「オーガニック給食は公共政策である」との言葉は、正鵠を射ていると思います。これからの食の担い手であるこどもたちの価値観を育てていくための公共政策としての給食の存在は大きく、そして貴重なものであると思います。
農林水産省、文部科学省もオーガニック給食に言及
今回のオーガニック給食フォーラムでは農林水産省、文部科学省の方も参加され、コメントを述べられました。その中で文部科学省は、給食が持つ教育的意義を評価し、各自治体でのオーガニック給食への取り組みを国として尊重するとしました。さらに、農林水産省と共同で、全国各地の取り組み事例を参考に「スモールステップからはじめる学校給食での地場産物等活用のためのガイドブック」を作成しているといいます。(*2)
農林水産省は、2050年までに耕作面積に占める有機農業の取り組み面積の割合を25%(100万ha)まで拡大することを目指す「みどりの食料システム戦略」を強調し、イノベーションで生産力を向上させ、輸出や地域内循環で有機農産物の需要に結びつける「面的拡大」が重要だとしました。
しかし、ここで気になる点が3つあります。
1つ目は、農林水産省の、「イノベーションで生産力を向上させる」という点です。2026年7月17日に可決された「重要品種の育成及びその種苗の生産の振興に関する法律(新育苗法)」では、2030年までに重要品種35品種を開発することを旗印に、ゲノム編集や重イオンビーム育種といった安全性が不確実なテクノロジーを使って気候変動に対応しようと息巻いています。その点から考えると、オーガニック給食を議論する場で「イノベーションで生産力を向上させる」と聞くと、人ではなくAIが農作業し、有機基準に適合するように生産して給食に提供させるような、有機的ではない方向を向いているのではないかと心配になります。オーガニック給食または有機農業のあるべき姿は、地域の中で人と人がつながりあってコミュニティが生まれながら行われるものだと思います。また、需要の創出に「輸出」を出してくるのも、地産地消を掲げるオーガニック給食とは相いれないとも感じました。これでは、「儲かる農産物」としての有機農産物の輸出になりかねません。有機農産物が普及する目的として、人と地球が元気になり、人と人を結びなおすことが前提としてあるべきだと思います。
2つ目は、有機農業拡大だけを議論し、有機農業に適したタネの供給については触れられていなかった点です。オーガニック給食に限った話ではありませんが、国として有機農業面積を100万haに拡大すると宣言しながら、有機農業をするための基礎となるタネのことには触れず、産地の供給力と需要を拡大することばかり喧伝されています。さらに1つ目でも触れた「新育苗法」は、農研機構が構築する育種データベースを民間企業を含む育種組織に提供して新品種開発を行わせ、開発した品種を植物工場や「都道府県基本計画」の下で生産することも含んだ、新品種開発と種苗の生産、両方を含む法案となっています(*3を参考)。オーガニック給食に関する地方自治体の取り組みは「国として尊重」するのに、種苗に関して、不自然な方法での開発やそれらの生産は地方自治体に対して国がトップダウンで行うとしているので、違和感を禁じえません。
3つめは、オーガニック給食や有機農産物を拡大するための政府の支援の欠落です。有機農産物の価格が慣行栽培の農産物よりも高価である理由は、食料の生産以外にも生物多様性の保全、自然災害の防止、軽減などの多面的機能も反映した価格だからであるといいます。2日目の山田正彦さんの講演でも論点となりましたが、多面的な価値を持つ有機農産物を消費者が買い続けることができ、生産者も作り続けることができるように、政府が生産費の補填や生産コストと販売額の差額を補填するなどの政策を行うことで日本でも有機農家が増え、有機農産物を買える人が増えると思います。こうした政府の財政的支援のビジョンが示されなかったのは残念でした。また、フォーラム終盤の意見交換では、財務省が有機栽培は慣行栽培に比べて米の収量が低いことを問題視し、有機農業への転換を後押しする農水省の事業について予算を減らすなどの見直しを求めていること(日本農業新聞2026年6月27日)について問題視する発言が会場からもありました。国の基である農業にこそ予算を使うべきだとの考えは、フォーラムに参加している人たちの総意でもあると思います。
基調講演で考えた「食と農と社会のつながり」という概念の拡張
基調講演では民間稲作研究所の館野廣幸さんと國學院大學研究開発推進機構客員教授の古沢広祐さんのお話を聞きました。
館野さんはまず、農業は、スマート農業などではなく先人の思想を羅針盤として行うべきだとしました。現在の農業は食料生産のためだけの「産業型農業」とし、対照的に有機農業は自然、生き物との共生、人間の生命維持のための「生命型農業」だと位置づけました。また、日本の有機農業の定義は、「化学農薬、化学肥料、遺伝子組み換えを使わない」ものだとしていますが、それだけでは定義があまりに狭小であるといいます。有機農業では健全な土と生態系を作ることが重要であり、有機農業にマニュアルはなく、哲学や理念が重要なのだと強調されました。
また、慣行農法は「デジタル思考」で手段と結果を結び付けるもの、有機農業は「アナログ思考」で複雑で大きな環境の要因を考えるものだと大別して説明されました。つまり慣行農法は1対1で有機農業は1体複数であるということです。例えば、代かきは、慣行栽培では田んぼを平たくするためですが、有機栽培では稲わらや雑草を肥料に変えることや、メタン、雑草を抑制するために行われます。1つの作業が複数の意味を持ち、複数の結果を生むのが有機農業だといいます。
現代は過程よりも結果を重視し、マニュアル化社会であり、1つの行動には1つの目的のみをもって効率重視で行う硬直化した社会です。こうした社会的な歪みが食や農業の価値観まで歪曲してしまっていて、その歪みを正さなければ有機農産物、有機農業は受け入れられないでしょうし、食のパラダイムシフトは困難であろうと私も実生活の中で痛感しています。館野さんは、有機農業は、古いバージョンに戻るのではなく、古い技術を現在に生かすことが重要で、その時立ち返るのは昔の農業書物であるべきだと強調されました。なにごとも今のほうが進んでいると考え、最新のものに手が伸びてしまう経験は私にもあります。しかし、昔の叡智を掘り返すことで、忘れられていた考えが再び価値をもって評価されることも往々にしてあると思います。
國學院大學研究開発推進機構客員教授の古沢広祐さんのお話では、食べ方が地球と体にもたらす影響という視座から、食習慣を含めたライフスタイルの改革が必要だと指摘されました。よく、からだの調子が悪いので食事を変えたという事はあると思いますが、自分の体に対しての配慮は、地球に対しての配慮であると認識を拡大し、自分の健康から、貧困や格差の問題まで拡大した視野で食を見つめなおす「プラネタリーヘルス・ダイエット」という概念を提唱されました。「農業は私と自然を結ぶ『へその緒』である」という示唆的な表現も使い、身近な食から地球のことを考えるといった概念の拡張が大切だとのお話に納得しました。この概念の拡張は、オーガニック給食を考えるうえで非常に重要だという気付きを得られたのも今回のフォーラムの収穫でした。
「オーガニック給食」の言葉の独り歩きをさせないための考え方
1日目には分科会が開催されたのですが、私は、第7分科会「アグロエコロジーが目指すもの~こどもたちが幸せに暮らせる社会~」に参加しました。ここでは、「アグロエコロジー」というキーワードをもとに、目指すべきオーガニック給食の在り方について議論しました。まず、宇都宮大学農学部助教の松平尚也さんは、「アグロエコロジー」とは何か、そしてアグロエコロジーとオーガニック給食のつながりについてお話されました。アグロエコロジーとは、地域の農家、消費者を繋ぎ、地域の自然資源や食材を活かし環境を守りながら地域全体で食を支えていくことです。「化学農薬、化学肥料、遺伝子組み換えを使用しない」という有機農業との違いは、地域、生態系などを包括的に考え、有機的なつながりを作ることを重視する点にあります。
この考え方はオーガニック給食にも応用できると思います。前述したように、また松平さんも仰っていたように、単に有機農産物を給食に提供するだけでは不十分です。地元の有機農業を通してこどもたちが食に関心を持ち、地域とつながりを持つ経験をすることで、将来にわたって責任ある「食を作る当事者」を育むことができると思います。松平さんはさらに踏み込んで、行政のトップダウンのオーガニック給食の実施ではなく、給食を食べる当事者としてのこどもたちの意見をくみ上げ反映するボトムアップのオーガニック給食にしていく必要があると指摘されました。
そのうえで参考にすべき、アメリカやフランスなど海外でのこどもたちの学校給食への主体的な関りや行政の取り組みなどの事例が紹介されました。アメリカ・カリフォルニア州パシフィック小学校では、小学5・6年生が給食づくりに参加し、献立の考案、学校菜園で収穫した野菜などを調理して「食べること」と「作ること」の両方を学んでいる例や、フランスでは学校給食では、有機農産物を含めた環境や品質に配慮した食材を使うことを定めるエガリム法が制定された例などが紹介され、海外の食の重要視の度合いが日本と一線を画していると感じました。
しかし日本も負けていません。
続いてお話されたナチュラルフード森の扉の野原典彦さんは、国産大豆の自給率の低さを懸念し、小山市民が協力して大豆を栽培し味噌を作るという取り組みを発表され、今年オーガニック給食にその味噌で作った味噌汁が提供されるとのことです。日本食の基礎ともいえる大豆の自給率は著しく低く、スーパーで売られる味噌や醤油はアメリカやカナダ産のものが目立ちます。こうした取り組みが地域から広がることは重要で、この取り組みを通してこどもたちが食と農の危機を感じ、行動につながるとも思います。
こくぼ農園の國母克行さんは、地域の農業ネットワークへの参加は、難しい理論からではなくおなかが満たされて楽しめる実践から入るべきだとし、こどもたちも巻き込んだ参加型食料生産を広げ、みんなの自給圏をつくる取り組みをされています。また、「超加工食品」の台頭により手作りのハンバーグを給食に出すと残食し、工場メーカーのものは残さないと指摘され、コストを抑えなければならないゆえの、給食からこどもたちが超加工食品に慣れてしまうという問題も浮上しました。こどもには本物の味を教えてほしい、それが食育であるという國母さんの強い思いが伝わってきました。
とちぎ夢給食プロジェクトの安田理恵子さんは、食べ物を作る実践を通して、こどもたちが苦手だった食べ物を自分で作ると食べるようになるなど、食べ物を身近に感じることでこどもたちは変わるのだと強調されました。まずはこどもの食への価値観が変わって、それが親の価値観を変えることにつながると理想的だと強調されました。親がこどもに教えるのではなく、こどもの食の価値観の変化が親に影響を与え、家庭に変化をもたらす可能性が切り開かれているという提示は注目すべきであり、また、そうした親子のやり取りができるような時間的、気持ち的余裕も必要なのではないかと思います。オーガニック給食についての議論は、社会全体の問題に行き着くのだと感じました。
金銭的に食の選択肢が狭められ、それで病気になるのは自己責任というような社会の在り方は、競争社会には適合しているかもしれませんがこれからのあるべき社会ではないと思います。経済的な理由などから食の選択肢が制限されることは人権の問題でもあると思います。分科会では、学校にいけない/いかないこどもたちを取り残すことはあってはならないという非常に重要でかつ熟考が必要な議論も展開されました。誰もがまっとうなものが食べられるよう、開かれた農園や開かれたキッチン、食堂などができ、何かの基準で人を排除しない社会は、まさに食から作られるのだと思います。
全体を通したまとめ
今回、オーガニック給食というテーマと聞いて参加してみると、想定したよりも深く複雑な問題が絡み合うテーマであることに気づきました。一番の気づきは、「安心・安全」という視座からのオーガニック給食ではなく、大切なものを取り戻し、人と人をつなぎなおすという意味を持ったオーガニック給食のビジョンが求められるということです。私は普段、セルフオーガニック給食(自炊)を自分で用意しているのですが、そのきっかけは食品添加物のリスクを知ったことでした。しかし食の安全・安心の観点を学校で正しく教わらず、自分で気づいて行動することを求めるのには無理があると思います。そこで、楽しさ、美味しさというプラスの感情から食べ物を見つめなおすことは教育の中で取り入れやすく、こどもたちも受け入れやすいと思います。多くのこどもたちにとって身近で、しかし私たち大人がないがしろにしてしまっている給食の重要性を、腹満たしのためだけでなくもっと拡張して考えたとき、目指すべきオーガニック給食のビジョンが見えてくると思います。
最後に1つ提案をして終わりたいと思います。今回の「全国オーガニック給食フォーラム」は、学校給食を食べる当事者であるこどもたち抜きでの、大人の議論になってしまっていました。機会があれば、当事者であるこどもたちも参加でき、意見を出せるような会を開催できたらもっと発展した議論ができそうな気がしました。権利を持つ主体としてのこどもという見方をした時、不自然ではない提案ではないでしょうか。
《参考文献》
*1:小山市公式ホームページ
https://www.city.oyama.tochigi.jp/sangyou-sigoto/nougyou/page001808.html
*2:「スモールステップから始める学校給食での地場産物活用のためのガイドブック」農林水産省、文部科学省
https://www.maff.go.jp/j/press/syouan/hyoji/250930.html
*3:食からの情報民主化プロジェクト by INYAKU.Net「種苗関連3法案について参議院農林水産委員会での意見陳述内容」
https://project.inyaku.net/archives/12261
徳島県出身、東京農業大学在学。
好きな言葉:「食は命」
好きな食べ物:らっかせい
趣味:スニーカー鑑賞、読書、散歩
特に嫌いな添加物:加工でんぷん
人生を変えてくれた本:『新装版 コンビニ&スーパーの食品添加物は死も招く』(2022)小薮浩二郎著








