あきたこまちR問題:「あきた宣言2026」から次の行動へ―連帯を国内外に広げる

重イオンビーム放射線育種について
 2026年7月5日に秋田市で「なぜIFOAM(国際有機農業運動連盟)は こまちRに「ノー」を突きつけたのか?」と題された全国集会が開催されました。「あきたこまちR」は重イオンビームによって一部を欠損させた遺伝子を持つ品種で、秋田県は2025年から従来の「あきたこまち」を全量、「あきたこまちR」に転換してしまっています。
 政府は重イオンビームを使って遺伝子を破壊した品種は従来の品種と変わらないとして、表示もせずに流通を認めているだけでなく、有機栽培すれば有機農産物としても認めて構わないとしています。これに対して、国際的に有機農業を広めてきたIFOAM Organics International(国際有機農業運動連盟)が「あきたこまちR」は有機農業の基準に適合しないとする公開書簡を昨年11月に農水省、農研機構、秋田県に送りました。
 秋田県の農家や市民によって作られる「あきたこまちを守る会」は、こうした動きを受けて、IFOAMジャパン理事長の徳江倫明さんを招いて集会を開催したのです。この集会で「有機農業の信頼を守る あきた宣言2026」が採択されました。この宣言を起草したIFOAMジャパン副理事長の野田克己さんが、その宣言に込めた意味を語ります。

IFOAMジャパン副理事長野田克己さん野田克己さんのプロフィール
 1980年より日本消費者連盟に参加。1992年より「大地を守る会」および「全国学校給食を考える会」の活動に携わる。2001年にはNPO法人IFOAMジャパン、2006年にはNPO法人全国有機農業推進協議会(全有協)の設立に参画。
 これらの活動を通じて、消費者運動と有機農業運動に関わる。

 2026年7月30日、「有機農業の信頼を守る あきた宣言2026」を、世界の有機農業関係者へ届けました。
 7月5日に秋田市で開かれた全国集会で採択されたこの「宣言」と「IFOAMへの連帯表明および要請」には、全国集会に賛同した40団体が名を連ねました。私たちは、これらの文書を関連資料とともに、IFOAM¹の世界理事会、本部、各地域組織や関係団体・関係者など、計38の宛先へ送りました²

 私たちが世界に訴えたのは、重イオンビーム育種による「あきたこまちR」を有機農産物として認証することが、有機農業の原則と整合するのかという問題です。「宣言」は同時に、生産者が作る品種を自ら選ぶ権利、消費者が自分の食べる米について知り、選ぶ権利、そして科学的な疑問に答える行政の責任を明確にしています。

 前年11月、IFOAM Seeds Platform³が日本政府などへ送った「公開書簡」。これを機に国内外の働きかけが加速し、その流れは「あきた宣言2026」の採択へとつながりました。

「あきた宣言2026」の採択

 7月5日、秋田市で、あきたこまちを「作り続けたい」「食べ続けたい」人のための全国集会が開かれました。主催した「あきたこまちを守る会」は、それまでに3回の県民集会を開いてきましたが、今回は初めて全国集会として開催しました。テーマは「なぜIFOAMは『あきたこまちR』にノーを突きつけたのか」。全国から生産者、消費者、有機農業関係者、研究者、市民団体などが集まり、意見を交わしました。最後に、「有機農業の信頼を守る あきた宣言2026」を採択したのです

 「あきたこまちR」をめぐっては、これまで秋田では生産者や消費者が県民集会を重ね、全国的にはOKシードプロジェクトをはじめ多くの団体が、重イオンビーム育種をめぐる疑問、従来の「あきたこまち」の種子供給、表示と選択権、有機JAS制度との整合性など、多くの論点を提起し続けてきました。

 「あきた宣言2026」は、こうした取り組みを受け継ぎ、その声を国内外へ届け、次の行動を呼びかけるものです。

「公開書簡」から「あきた宣言2026」へ

 2025年秋、IFOAM Seeds Platformから、重イオンビーム育種による「あきたこまちR」が有機農業と整合するのかを問う「公開書簡」を、日本政府などへ送りたいとの連絡があり、IFOAMジャパンにも賛同が求められました。

 このとき、私たちは自らに問いかけました。日本で起きている問題を前に、海外から届いた書簡に名前を連ねるだけでよいのか。日本政府や秋田県に直接問うべきではないか――。IFOAMジャパンの国内での取り組みは、ここから始まりました。
 同年11月25日、「公開書簡」が発信され、IFOAMジャパンも賛同団体として名を連ねました。その直後の12月初旬には、農林水産省へ回答と「対話」を求めました。取り組みは、2026年2月の国際学習会、3月の農林水産省・農研機構とIFOAMとの「国際対話」へと発展しました。その流れの中で開かれたのが、7月5日の全国集会です。
 「公開書簡」から「宣言」採択に至る詳しい経過や、重イオンビーム育種などの技術的背景は、別途作成した背景資料に整理しています²

「宣言」の核心――有機農業の原則、生産者・消費者の権利

 IFOAMは「公開書簡」で、重イオンビーム育種による品種を有機認証の対象とする日本の取扱いに、明確な懸念を表明しました。書簡では、有機農業は、できあがった農産物だけでなく、その生産工程を重視し、「健康」「生態系」「公正」「配慮」という四つの原則に基づくものであると述べています。さらに、新しい技術には予防的に向き合う必要があること、「あきたこまちR」の表示とトレーサビリティが確保されていないことも指摘しています。

 公開書簡が示した懸念は、秋田で以前から上がっていた声とも重なります。7月5日の全国集会には、その名称が示すとおり、従来の「あきたこまち」を「作り続けたい」「食べ続けたい」という人たちが集まりました。そこで改めて共有されたのが、生産者が作る米を自ら選べること、従来の「あきたこまち」の種子が確保されること、そして消費者が食べる米について知り、選べることの大切さです。こうした生産者と消費者の「選ぶ権利」は、「宣言」の重要な柱となっています。

 秋田県は、2025年産から、県が供給する「あきたこまち」の種子を「あきたこまちR」へ切り替えました。生産者には種籾が「あきたこまちR」であることは表示されますが、一方、収穫された「あきたこまちR」米は、流通段階では「あきたこまち」という表示で販売されます。いずれの場合にも重イオンビームが使われたことは表示されません。これでは、生産者にも大事な情報が伝わりませんし、消費者も「あきたこまちR」か「あきたこまち」か、どちらを買っているのか知ることができません。行政主導の切替えによって、知る権利と選ぶ権利が実質的に損なわれてはなりません。

 そして、もう一つ。「宣言」に至る過程で重要な論点となったのが、「あきたこまち」と「あきたこまちR」の栄養成分についての科学的検証です。両者には違いがあるとの具体的な指摘に対し、放射線育種一般の利用実績や食経験を挙げるだけで、十分な答えになるでしょうか。

科学的疑問に「一般論」で答えてよいのか

 3月26日の国際対話で、公衆衛生学者の里見宏氏が、「あきたこまち」と「あきたこまちR」の栄養成分を比較した結果、タンパク質や複数のミネラルに差が認められ、この二つを同等とみなすことはできないと指摘しました。「あきた宣言2026」は、この問題を有機農業の枠を超えた社会的課題と位置づけ、第三者による検証とデータの公開を求めています

 これに対し、農林水産省は2026年3月13日付のIFOAM側への正式回答で、「あきたこまちR」のようなカドミウムを吸収しにくい品種はマンガンの吸収も低いものの、通常の水田土壌では生育に必要な量を吸収できると説明しました。人の栄養については、通常の食事でマンガンが不足することはないとしたうえで、「バランスの取れた食事をしている限り、マンガン欠乏の懸念はありません」と回答しています

 しかし、焦点は国民の食生活一般ではなく、「あきたこまちR」そのものの栄養成分です。この日の「国際対話」で、里見氏の栄養分析について問われた農林水産省は、「検証していない」と答えました。その農林水産省が、消費者に「バランスの取れた食事」を説く――どこかブラックユーモアすら感じさせる回答です。問題は食べ方ではなく、「あきたこまちR」への科学的疑問にどう答えるかです。開発・導入する側が負うべき検証責任を、消費者の自己責任に転嫁させてはなりません。

 秋田県は、「あきたこまちR」の安全性を説明する根拠として、放射線育種の長い利用実績と食経験を挙げています。農林水産省も、イオンビーム育種を従来の放射線育種の範囲内と位置づけ、市場流通に問題はないと説明しています。しかし、こうした一般論を「あきたこまちR」そのものの科学的検証に代えることはできません。「あきたこまちR」は、重イオンビーム照射で生じた、カドミウムの吸収に関わるOsNRAMP5という遺伝子の変異を受け継ぐ米です。この米を長期間にわたり食べ続けた経験は、まだ誰にもありません。

IFOAMに見解を求め、国内政策を動かす

 重イオンビーム育種による「あきたこまちR」を有機JAS認証の対象とする日本の制度は、有機農業の原則と整合するのか。そもそも農水省の回答をどう評価するのか。私たちはIFOAMに、これらの点を正式に検討し、明確な見解を示すよう求めました。

 一方、国内ではこれから、「あきた宣言2026」を政策提言として具体化し、農林水産省、農研機構、秋田県などへ提出します。求めるのは、有機JAS制度における「あきたこまちR」の取扱いの見直し、生産者が作る米を自ら選べる環境の整備、従来の「あきたこまち」の種子供給の確保です。さらに、「あきたこまちR」の表示とトレーサビリティの確保、第三者による科学的検証の実施とデータの公開も欠かせません。

 政策決定の透明性と社会的合意をどう確保するのか。国内外の有機農業関係者との対話をどう続けるのか。「宣言」を具体的な政策へつなぐ取り組みは、これから始まります。

問題は秋田にとどまらない――全国展開と海外輸出

 では、なぜ今、国際的な働きかけが必要なのか。それは、この問題が秋田県内だけでは終わらないからです。農林水産省と農研機構は、「あきたこまちR」の育成素材である「コシヒカリ環1号」が持つ、カドミウムを吸収しにくい性質を、全国各地の米の品種に導入する取り組みを進めています。農研機構の資料では、すでに同じ性質を持つ20品種と15の固定系統が開発されたとされています
同時に、国と秋田県は、「あきたこまちR」を中心とした秋田米の輸出産地づくりを進めています¹⁰。農林水産省の公表資料には、海外市場のニーズに対応するため、主力品種を「あきたこまちR」へ転換すると明記されています¹¹。秋田県も、「あきたこまちR」は有機栽培として認められ、EUなどへ有機農産物として輸出できると説明しています

 有機食品の輸出では、日本の有機JAS制度を自国の制度と同等と認める国・地域との「有機同等性」の取決めが利用されています。対象品目や証明書などの条件を満たせば、輸出先の有機認証を改めて取得せず、有機JAS認証を活用して輸出できます¹²。「あきたこまちR」が有機JAS認証の対象である限り、有機農産物として海外へ出ていく制度的な道は、すでに開かれています。

 さらに、農林水産省の「食料・農林水産業の国際標準戦略」は、日本産米を使ったおにぎりなどの海外展開も例示しています¹³。「あきたこまちR」が、米そのものとしてだけでなく、加工・調理された食品の原料として海外へ広がる可能性もあるのでしょう。

 しかし、有機農業の原則と整合するのか。科学的検証は十分か。表示とトレーサビリティは確保されているのか。こうした問題を残したまま海外へ広がれば、その影響は輸出先にも及びます。加工・調理された食品になれば、使われた米は消費者からいっそう見えにくくなります。それだけに、原料米まで遡れるトレーサビリティが欠かせません。高付加価値化や輸出拡大を急ぐ前に、まず国内外から寄せられた疑問に答える。それが順序ではないでしょうか。

「あきた宣言2026」を次の行動へ

「あきた宣言2026」は、秋田で採択されて終わる文書ではありません。カドミウムを吸収しにくい米を全国に広げる政策が進み、「あきたこまちR」の海外輸出も視野に入る今、この問題を、私たち自身の種子、農業、食べ物の問題として考える必要があります。
 IFOAMへの働きかけと日本政府への政策提言を両輪に、科学的検証と情報公開を求め、生産者・消費者の選択権と、有機農業・食への信頼を守る行動を、皆さんと共に続けていきます。


注・参考資料

1. IFOAM – Organics International。世界の有機農業運動をつなぐ国際的な会員組織であり、IFOAM世界理事会がその主要な意思決定を担っている。
2.「有機農業の信頼を守る あきた宣言2026」、IFOAM – Organics Internationalへの「連帯表明および要請」、背景資料「あきたこまちR問題――これまでの経過と背景」など。共有フォルダを開く
3.IFOAM Seeds Platform。IFOAMネットワークにおいて、種子と植物育種に関する課題を専門的に扱うプラットフォーム。
4.「なぜIFOAMは『あきたこまちR』にノーを突きつけたのか」全国集会(2026年7月5日)。OKシードプロジェクト・全国集会案内
5.IFOAM Seeds Platform「日本の重イオンビーム育種米に関する公開書簡」(2025年11月25日)、農林水産省への申入れ、2026年2月27日の国際学習会、同年3月26日の国際対話に関する資料。関連資料一式を開く
6.秋田県「水稲新品種『あきたこまちR』を紹介します!」。ページ内の「3 進め方」では種子の切替えと流通段階の表示を、「5 『あきたこまちR』って何??」のうち「(2)『放射線育種』について」では、放射線育種の利用実績と食経験、有機栽培としての取扱い、EUなどへの有機農産物としての輸出について説明している。
7.里見宏 「秋田県の新しい『あきたこまち』の安全は証明されていない」、照射食品反対連絡会。里見氏による「あきたこまち」と「あきたこまちR」の栄養成分比較、分析方法および結果を掲載。
8.農林水産省「イオンビーム育種に関するご意見(特に『あきたこまちR』の事例について)」(2026年3月13日)。回答1)ではイオンビーム育種とガンマ線育種の共通性を、回答2)ではマンガンの吸収と「バランスの取れた食事」について説明している。回答5)に続く結論部分では、イオンビーム育種を従来の放射線育種の範囲内と位置づけ、「あきたこまちR」の市場流通に問題はないとしている。英語原文とIFOAMジャパンによる日本語仮訳は、関連資料一式に掲載。
9.農研機構 「先端ゲノム育種によるカドミウム低吸収性イネ品種の早期拡大と対応する土壌管理技術の確立」。カドミウムを吸収しにくい20品種と15の固定系統の開発状況、マンガン資材の施用による対応などを記載。
10.農林水産省「コメ・コメ加工品の輸出をめぐる状況」 23頁。
11.農林水産省「秋田県農畜産物輸出促進協議会『グローバルリーチAKITA』」
12.農林水産省「有機認証制度の同等性について」
13.農林水産省「食料・農林水産業の国際標準戦略」(2026年7月24日)

IFOAMジャパンについて
 IFOAMジャパンは、国際的な有機農業運動と日本の有機農業関係者を結ぶ組織として、2001年に設立された特定非営利活動法人です。有機JAS制度が始まった時期に、日本やアジアの有機基準を国際的な議論につなぎ、海外の動きを国内へ伝えることを目的に活動を始めました。設立後には、日本からIFOAMの世界理事も送り出しています。現在は、「あきたこまちR」問題を契機に、IFOAM Seeds Platformなどと連携し、日本の課題を国際的な議論につなぐ活動を進めています。
〒160-0015 東京都新宿区大京町2-4
連絡先
Website:https://ifoam-japan.org/

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